※インタビュー音声の一部をポッドキャスト番組「山崎あみ『うるおう』リコメンド」で聴けます。「うるりこ」で検索を。

※後段に一問一答があります。

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 お笑いコンビ「バイきんぐ」(小峠英二、西村瑞樹)が毎年恒例の単独ライブ「爆音」を、東京都内で9月に4公演行う。新作コントのストイックな作り方を語った。

 「キングオブコント2012」優勝以来、ネタ作り担当の小峠はあらゆるバラエティー番組に引っ張りだこで多忙だが、「いろんな芸人が単独ライブをやっているけど、たぶん一番早くネタに着手して仕上げているんじゃないかな」と言う。

 今回もライブの4カ月前からネタを書き始め、1カ月前に全9本を書き上げた。「余裕を持って作って、じっくり仕上げていくのが売れる前からのスタイル。ギリギリ直前にできるネタなんか、さほど良くないだろうという気持ちもある」と自負する。

 ネタ作りは「嫌な作業」と言い切るが、他では決して味わえない喜びがあるという。「ふと面白い設定やフレーズを思い付いて、ペンが走る瞬間がある。ネタ合わせをしていても、台本以上にどんどん面白くなっていくことってあるんです。テレビのバラエティーとは全く違う興奮ですね」

 スタジオでの仕事が中心の小峠に対し、西村はキャンプ芸人としてロケ番組で活躍している。「コンビバラバラの仕事が多くて顔を合わせるのは月に3日くらい。『飯を4品考えてください』とか、もはや芸人の扱いじゃないんですよ。でも受けなきゃいけないというプレッシャーもなく、伸び伸びやってます」と笑った。

 ライブは9月2、3日、東京・日経ホール。9、10日、東京・日本教育会館一ツ橋ホールで開催。

※ここからはインタビュー一問一答をお届けします。

(取材・文=共同通信 近藤誠、撮影=佐藤まりえ)

【今年は4公演】

★記者 これまでの単独ライブは2公演だったのが今年は4公演。今回、チャレンジをしようとした理由は?

●小峠英二(以下小峠) チャレンジではないんです。ここ10年くらい単独ライブをやっているうちに徐々に会場が広くなって、去年が一番広くて千人くらいだったんです。でもやってみると、千人のキャパってコントをやる上で広すぎるなって。手に持っている小道具とかテーブルの上にある物とか、たぶん後ろの方のお客さんには見えていないんだろうなと。勘とか、なんとなくイメージをして見ているんだろうけど、それってどうなんだろうと思って。だから今年は少しせまいところにして、そうは言っても700~800人は入るみたいですけど。2公演だと見られないお客さんが増えちゃうので、4公演にしたというところです。

★記者 キャパ千人の舞台に立って、リハーサルの段階から違和感があったのですか?

●小峠 リハよりも、お客さんを入れてライブが始まってからですね。本来100表現したところが、前から真ん中くらいのお客さんは大丈夫だと思うけど、後ろの方は7割か8割くらいしか伝わってないのかなって。面白く感じるかどうかはお客さん次第だけど、とりあえずこっちの100の表現は渡したいよな。それで会場を狭くしました。

★記者 西村さんもそういった不安を感じながらやっていたのでしょうか?

▼西村瑞樹(以下西村) 僕はちょっとそこまで読み取れなかった。毎年2日公演をやってきて大体初日で声がつぶれて、次の日の午前中に病院に行って、のどに注射打ったりして、薬をもらったりしながら何とかやっていたんです。去年はそこまで二人ともひどくならなかったので、10年目にしてようやく慣れたのかな。それで回数を増やしても大丈夫なんじゃないかというところはありますね。

●小峠 特にコントは表情がね。テレビだとアップで寄ってくれるけど、一番後ろの方のお客さんはモニターがあるわけじゃないから、伝わってないと思う。

★記者 西村さんが自転車をなめて、舌が黒くなっていたのも分からないかもしれないですね?

●小峠 まず自転車をなめているのも分からないと思うんですよ。なんかやってるな、くらいで僕のツッコミで初めて理解する。それって本来のコントの見方じゃない。西村が舌を出した時に真っ黒になっているのもまず分からない。

【ストイックなネタ作り】

★記者 小峠さんは余裕を持って作業をするといい物が作れるということで、早め早めにネタを準備するようにしているそうですが、今回もそうですか?

●小峠 そうです。コントを9本やるんですけど、9本はできてます。でもまだ時間はあるから、あと2本は作ろうと思ってます。そこからよりよい9本を選ぶ。

★記者 以前、同じ事務所(SMA)の錦鯉さんとハリウッドザコシショウさんにインタビューをしました。ライブのインタビューなのに、ネタはまだできていないからネタについてはしゃべれないと話していて、非常に対照的だなと感じます。

●小峠 いろんが芸人が単独ライブをやっていますけど、たぶん一番早くネタに着手して仕上げているんじゃないかな。まず4カ月前に作り出して、1カ月前には全部上げるというのをずっと続けていますから。

★記者 しんどいとか苦しいとかないんですか?

●小峠 いやいやしんどいです。ネタを作るのなんか全く好きじゃないし嫌な作業ですけど、ただバタバタするのが嫌で。1カ月くらい前に余裕を持って上げて、残り1カ月でネタ合わせしながら仕上げていく。そうしないと気持ちよくないんです。ずっとそれをやってきたから、そうしないとサボってるって気持ちになるかもしれない。

★記者 売れない時期はストイックに新ネタライブのためにネタを作り続けていたと聞きました。すごく売れて忙しい中でもネタを作り続けて、しかも早め早めにやるというのは大変では?

●小峠 売れない時期にやっていた新ネタライブは対戦式だったんです。対戦相手のやつらは、前日にやっとネタができたとか、当日まだできていないとかだったんだけど、僕は1週間前には絶対上げていたんです。その時からの流れで自分の中のルールかもしれない。そして、そんな直前にできるネタなんか、さほど良くないだろうと僕は思っている。ライブ当日にいいネタができることはあるかもしれないけど、どう考えても1週間前に仕上げて、そこからさらにもう一仕上げした方が、いいわけですからね。

★記者 西村さんは、小峠さんのスケジュール感についてどう思っていますか?

▼西村 1カ月前に全部作るっていうのを、毎年やってるわけですよ。マジですごいなと思っている。ネタを書いてない人間からしたら、こんなにありがたいことはない。当日ギリギリのコンビとかも結構いますからね。

★記者 ネタを受け取る時ってのは、どういう気持ちですか?

▼西村 めちゃくちゃ楽しみです。早く見たい。

●小峠 いやいや、何の感情もないですよ。コントマシン。

▼西村 そんなことはないですよ、俺が言っているんだから。もう9本できてる!しかもここからまだ増えるかもしれないって、そらあ楽しみです。まずスタッフさんを集めてセットとかを決める時に初めて台本をもらいます。大道具さんと同じタイミングで僕は台本を見ます。

★記者 小峠さんはその時にみんなの反応をうかがっている感じですか?

●小峠 そうですね。毎年1、2本多めに作って、その時に初めて西村と合わせるわけです。それで、面白いと思っていたけどなんかそうでもなさそうだなとなったら、その場でそのネタを切りますね。例えば9本やる予定でネタを9本しか作ってなかったら、これイマイチだなってやつでもなんとかして面白く仕上げようとするんですよね。それはそれで一つのお笑いの作業ではあるんですけど。でもどうしようもないネタってのもやっぱりあって、それをなんとかして面白くしようとすると、無理が生じるんですよね。例えばここで電話を鳴らしてみるとか、コントの通常線ではないところから要素を持ってきたりして、ちょっと違和感というか、全体的な流れがゆがんでしまう。そうなりがちだと思っているので、合わせた感じが違ったらスパッと切れる余裕のために多めに作っていますね。

【テレビ以上の興奮】

★記者 テレビに引っ張りだこでいろんな仕事をされていますけど、ネタを作るとか、ネタをやるというのは他に代えがたい喜びや楽しさがあるのでしょうか?

●小峠 ネタを作るのは本当に嫌いなんですよ。でも書いていて面白い瞬間ってのがあるんです。最初に箇条書きしていた時には無かった面白い流れや、ボケとかツッコミとかをふと思い付いてペンが走る瞬間がある。その時は芸人として高揚していますよ。ネタ合わせをしていても、台本以上にどんどん面白くなっていくことってあるんです。そういう時は興奮してますね。テレビのバラエティーに出ていますけど、それとは全く違う。

★記者 バイきんぐは「何て日だ!」などのツッコミフレーズで、さらに爆発させるイメージがあります。いいツッコミフレーズがありきで、それを生かしたコントを作っているのでしょうか?

●小峠 作家にも入ってもらっているんですけど、まず設定ですね。「このツッコミを言いたい」みたいなのはないです。設定の中でボケがあって、その状況に合うもっとも適したツッコミの言葉を探すという作り方です。

 世に出る前、ライブシーンでやっている時は常にネタのことを考えていて、面白い設定が浮かんだら、携帯にメモっていたんです。さすがにテレビに出だしたら、そこまでずっとネタのことを考えることはなくなって。でもその代わりに、何か使えそうだなっておもしろフレーズとかはメモするようになりましたね。ネタを作りながら、ツッコミをどうしようかなって時には、そのメモを見ながら当てはまるフレーズを探してますね。

★記者 現在は賞レースで勝つためのネタ作りではなくなっているわけですよね。

●小峠 鬼気迫る感じではないですよね。時間制限もないし。受けるかどうか分かんないけど、この要素も入れとくか、みたいなのもあります。気が楽というか、前ほどストイックにはやってないですね。前は全部受けないといけない、ボケもツッコミも全部当てていかなくちゃ行けない。今はそこまでの感じではやってないです。

【コンプライアンス】

★記者 最近のテレビのコンプライアンスについて。やりにくくなっていると感じることはありますか?

▼西村 2020年にコロナで単独ライブができず、1年後の21年にできることになったら小峠のネタがめちゃくちゃ過激になったんです。1年できなかった鬱憤を晴らす、たまりにたまった物がそこで発散するかのように過激になった。それが21年、22年と2年続いた。そして去年の単独終わりの打ち上げをした時に「もう戻す。さすがに」と宣言したんです。その辺はどうなんですか?

●小峠 とてもテレビじゃできないような、墓を蹴りまくるネタとか人道に反しているようなネタを作って、そのネタを見るにはDVDを買ってもらうしかない。テレビに出たときにやる用のネタとして作っているつもりなんですけど、過激になりすぎちゃって。今年は反省というか、もうちょっと戻そうというのを心がけました。

 今回作家と打ち合わせしながら、これまではOKだったのを、いやちょっとやめとこうかというのもありましたよ。何年か前のネタですけど、西村がヘビースモーカーでタバコをやめられない。やめますって言うのに禁断症状が出ちゃう。このネタは、テレビはどの局でもダメです。タバコをひたすら吸うというのがあまりよくないみたい。

【審査員・小峠】

★記者 小峠さんがキングオブコントの審査員になってから、今の出演者たちに感じている部分は?

●小峠 僕らが出ていた時よりもレベルは上がっているなと思いますね。2年前くらいからもう一段レベルが上がったと思う。みんなが面白い。かつてのキングオブコントって、M―1グランプリと違って決勝の場でもスベるやつはスベってたんです。M―1ってなんとなく全組受けるんですけど、キングオブコントはその年一番面白いコントを書いた10組でも、あの場の空気にのまれたり、間が悪かったりとか、何かしらの歯車が狂って受けない場合もあったんです。

 でも2年前はみんな受けていた。あそこからもう一つ、賞レースとして上に行ったと思います。去年で言うと、(事務所の後輩)「や団」はものすごくオーソドックスなコント。いいネタですけど、ああいったスタンダードなネタで残るのは数年前より難しくなっていますね。そこにもうワンスパイス。何かしらキャラなり見たことの無い展開とかがないと、ラスト10組に残るのは難しくなっている。ああいうスタンダードなコンビやトリオが(決勝進出者の)半分を占めることはもうないんじゃないかな。何かしら新しい風を入れているようなところが残っています。

★記者 西村さんから見て、小峠さんの作るネタは変わってきていますか?

▼西村 最初僕らは漫才をやってたんです。1年くらいしてコントを作り出して、最初はボケとツッコミが逆でしたから。やっぱり2カ月に1回6本の新ネタを作るライブをやり出して、ボケとツッコミを変えてみたり、両方ボケを試したりみたいなところから大きく変わりましたね。基本の形はそこからは変わってないと思いますね。

【キャンプ芸人西村】

★記者 お二人はバラバラの仕事が多いですが、顔を合わせるのはどれくらいの頻度ですか?

▼西村 月に2、3回とか。

●小峠 バラバラですけどね、スタジオでキャンプの企画とかやってたら、まず(西村が)出てきますから。「CMのあとはキャンプの達人が登場!」とかいって、シルエットが出てくるんだけど、どうせ西村が出てくるんだからシルエットにする必要がない。この前も「ヒルナンデス!」でキャンプのVTRを見ていたら西村が出てきて、南原さんが「おい、西村頑張ってるぞ」って喜ぶんですよ。

★記者 西村さんのキャンプ芸人としての愛され方について、どう感じていますか?

●小峠 前はここまで自分を出していなかった感じがあるんですよね。どこか格好付けていたり、プライドもあったでしょうし。そういうのを気にせず取っ払って、全部そのまんまで行こうとどこかで切り替えて、そこからいい感じになった気がしますね。今のまんまでいいと思います。無理する必要もなく、人間として勝負しているというか、本人も楽でしょうしね。

▼西村 「なんか飯を4品考えてください」とか、芸人という枠の扱いじゃないんですよ。絶対ここで受けなきゃいけないとかじゃないし。伸び伸びやらせてもらって気が楽といえば楽ですよね。

★記者 西村さんのキャラクターが浸透してきたことで、ネタ作りで変わる部分はあるのでしょうか?

●小峠 僕は演技のことは正直分からないんですけど、こいつは演技がうまいらしいんです。それでドラマにも出ている。前まではネタを書く時にこいつの演技のうまさとかを考えたことはなかったですけど、最近は、演技がうまいんだったらこの感じとか表情ができるんだろうなって考えて書くようになった部分があるかもしれないですね。今年もそうですし。

★記者 老若男女いろんなタレントさんとからんできた小峠さんから見て、西村さんの魅力とは?

●小峠 予定調和じゃないところですかね。フリに対していわゆる普通の芸人はこう返すんだろうなってところを、明後日の方向で答えたりとか。普通の芸人は、フリに対して一発で仕留めようと思うんですよ。こいつの場合は、フリが来て変な方向で答えて、それはそんなに受けないんですけど、その変な答え方に興味を持った周りの芸人が、それってどういうことなの?って。2、3回のラリーは必要なんですけど結果それで受けちゃう。特殊ですよね。たぶん一発で落とさなきゃいけないとか、考えていないんですよね。

▼西村 いや、思い付けば一発で返したいよね。でも思い付かないからね。思い付いてないまま見切り発車で返している感じですね。

★記者 周りが面白がってくれるのも人徳というか、一つの武器ですよね

●小峠 ちょっとした起爆剤的な要素があるんでしょうね。今でこそこういうキャラとして、人間として勝負しているからいいですけど、僕は長いこと一緒にやっているから、やっぱイラッとしていましたよ。なんだその返しは!って。

▼西村 横をパッと見たら、(小峠の)顔がこわばってる時がありましたよ。

●小峠 そういったコンビの進む方向が定まっていない感じって、第三者が見たら面白いんですよ。ただ、横にいるやつはたまらないですよ。張本人だから。それをやっと僕も面白がれるようになってきたのかもしれませんね。

【ソニー(SMA)の若手】

★記者 幕あい動画の中で健康についての話をしていましたけど。40代半ばを過ぎて2人の話題は変わってきましたか?

▼西村 僕は体がボロボロだけど、小峠は健康すぎて共感できないんですよ。やれ肝臓の数値が高いだとか尿酸値がどうだとかなんて、興味ないでしょ。

●小峠 これぐらいの年の中堅芸人が集まると、気付いたらみんな薬の話とか、病院の話をしてるんですよ。俺、健康の話が大っ嫌いで、その話になったら会話の輪に交ざらないようしてるんです。

▼西村 (小峠は)健康に気を使ってるんですよ。

●小峠 青汁を飲んだり、サプリを飲んだりね。

★記者 最近、ソニー芸人のくくりで注目されていますね。

●小峠 M―1グランプリを錦鯉が取ったときはうれしかったですね。よく言われていますけど、M―1、キングオブコント、R―1、この3つを取った事務所は吉本とうちだけ、これは本当に誇れることだよな。全ジャンルにチャンピオンがいる。しかも僕らの事務所なんて、他よりも歴史が浅いですから。

★記者 事務所の下の世代は有望なんですか?

●小峠 マネジャーさんとかとよく話すんですけど、「しばらくしんどいんじゃないか」みたいなことを言ってますね。僕はそんなに若手のことは知らないですけど、やっぱり有望なやつがいたら、人づてに耳に入ってくると思うんですよ。やす子が来て、さあここからどうなんだろうっていう感じですね。

 僕らもザコシさんも錦鯉も、事務所を立ち上げた時に大体30代前半くらいだったように、今後うちの事務所がもっと繁栄していくには先輩を意識するんじゃなくて、30代前半くらいまでの新しい集合体が生まれないと、先細りしちゃうんじゃないかな。キングオブコントも新しい風が吹いているように、時代も変わってきているから。

★記者 よその事務所を辞めたおじさん軍団というくくりとは違う、オリジナリティーを出していかなければならないということですね。

●小峠 その通りです。正直、そっちはもうないんじゃないかと思いますね。錦鯉が最後のような気がしますね。

※インタビュー音声の一部をポッドキャスト番組「山崎あみ『うるおう』リコメンド」(略称うるりこ)で公開しています。Spotify、Apple、Amazon、Googleの各ポッドキャストで聴けます。(共同通信)