世界的な新型コロナウイルスの感染拡大や、デジタル時代の到来で社会は急速に変化しています。グローバル経済や人口減少による市場縮小の荒波の中、企業はどう生き残っていくのか。既存の価値観にとらわれることなく、新たな事業分野を切り開く沖縄の経営者や組織のキーパーソンの挑戦を追います。第1弾は、経営体制の刷新でさらなる飛躍を目指す琉球ゴールデンキングスの全4回連載。1回目は、7月にあった経営交代の内幕に焦点を当てました。

【全4回連載】
#1)夢のリーグへ キングスが選んだ経営譲渡の道
#2)NBA流アリーナで日本バスケ界を変革
#3)コンビ二やモノレールにも 地域密着で成長描く
#4)本拠地を満員に ライト層へ届けるチームの魅力

 プロバスケットボールBリーグでは、2022~23年シーズンの熱戦が繰り広げられてる。bjリーグ時代から数えて16年目の琉球ゴールデンキングスで今季、変化の象徴となる存在が白木享(52)だろう。

 7月にキングスを運営する沖縄バスケットボール社のトップに就き、初めてのシーズン。「キングスの経営を担えるのは誇り。沖縄を日本一のバスケットボールの聖地にするため、世界に通用する強い企業を5年をかけて作っていく」と誓いを立てる。

宇都宮ブレックスとの2022~23年シーズン開幕戦で、コートを見つめる琉球ゴールデンキングスの運営会社、沖縄バスケットボール社の白木享社長(左)=2022年10月1日、沖縄市・沖縄アリーナ(西里大輝撮影)   
宇都宮ブレックスとの2022~23年シーズン開幕戦で、コートを見つめる琉球ゴールデンキングスの運営会社、沖縄バスケットボール社の白木享社長(左)=2022年10月1日、沖縄市・沖縄アリーナ(西里大輝撮影)   
宇都宮ブレックスとの2022~23年シーズン開幕戦で、コートを見つめる琉球ゴールデンキングスの運営会社、沖縄バスケットボール社の白木享社長(左)=2022年10月1日、沖縄市・沖縄アリーナ(西里大輝撮影)   
宇都宮ブレックスとの2022~23年シーズン開幕戦で、コートを見つめる琉球ゴールデンキングスの運営会社、沖縄バスケットボール社の白木享社長(左)=2022年10月1日、沖縄市・沖縄アリーナ(西里大輝撮影)   

 〈経営体制変更に関する重要なお知らせ〉。開幕戦からちょうど4カ月前の6月1日、キングスの公式ホームページに突然、1本のニュースが載った。

 内容はこうだ。沖縄バスケットボール社を創業した社長の木村達郎(49)が退任する。その上で同社の株式をIT関連のプロトソリューション(宜野湾市)が取得し、木村の後任にプロト社長の白木が就くー。

 「私も、びっくりしました」。白木は株式譲渡を打診された今年2月ごろを率直に振り返る。

 キングスの原点は、東京都出身の木村らを中心に「沖縄にプロバスケを!」と掲げて始まった市民運動だ。06年に沖縄バスケットボール社が発足。木村はバスケに打ち込んだ学生時代や、米国留学で本場の競技力や熱気に触れた経験を生かし、カリスマ的な経営手腕を発揮してきた。

キングスがbjリーグに参入した年、初代ヘッドコーチに就任したヘルナンド・プラネルズ氏(左から2人目)と木村達郎GM(同3人目)、ドラフトで指名を受けた澤岻直人選手(左)、ブライアン・シンプソン選手(右)=2007年5月、那覇市・産業支援センター(肩書きはいずれも当時)
キングスがbjリーグに参入した年、初代ヘッドコーチに就任したヘルナンド・プラネルズ氏(左から2人目)と木村達郎GM(同3人目)、ドラフトで指名を受けた澤岻直人選手(左)、ブライアン・シンプソン選手(右)=2007年5月、那覇市・産業支援センター(肩書きはいずれも当時)

 キングスは07年にbjリーグに参入し、2年目に初優勝。bjを4度制した後、bjと日本バスケットボールリーグ(JBL)が統合し16年に発足したBリーグでは、西地区で5度の頂点に立った。そして21~22年シーズン。プレーオフのチャンピオンシップで初めて決勝に進出し、準優勝を遂げた。

 リーグ屈指の強豪クラブと称されるゆえんは、プレーだけではない。

 コンサルティング大手、デロイトトーマツがBリーグの全クラブを経営面から評価した21年のランキングで、キングスは1部のトップだった。

 同年にスポーツ興行で8千人の収容が可能な新たな本拠地、沖縄アリーナが稼働した。新型コロナウイルスの感染拡大による入場制限の影響を受けつつ、21~22年シーズンの1試合当たりの平均入場者数はBリーグトップの4763人。22年5月22日の島根スサノオマジック戦に訪れた観客8309人は、クラブ主管試合では当時のリーグ過去最多を記録した。

 集客力の高さを裏付けるように、20~21年シーズンのBリーグのクラブ決算概要によると、キングスの入場料収入は1部に所属する20チーム中2番目に高い約3億2000万円。1試合当たりの平均入場者数、客単価のいずれも3番目に高く、県民からの圧倒的な支持を基盤に安定収入を確保できている。

 そんな上り調子のクラブ経営のバトンを、白木は木村から手渡された。「こんなに成功しているのに、なぜですか」。当初、困惑を隠せなかった白木に、木村が重要ポイントとして挙げたのが26年から始まる新Bリーグの将来構想だった。

  構想では売上高12億円、平均観客数4千人、5千人以上を収容できるアリーナの整備などの要件を満たしたクラブを「新B1」に認定する。昇降格の基準を競技成績ではなく事業力に置くのが最大の特徴。新B1のクラブ数に上限はなく、基準をクリアしたクラブは27年度以降も順次参入できる。

 Bリーグの構造改革を進めるチェアマンの島田慎二は「現行制度では、経営力が高いクラブが選手への投資を加速させて上位カテゴリーを占め、いっそう経営格差が広がる弱肉強食の未来が待っている」と危惧する。

Bリーグの将来構想について語る島田慎二チェアマン=2021年11月30日、那覇市・沖縄タイムス社
Bリーグの将来構想について語る島田慎二チェアマン=2021年11月30日、那覇市・沖縄タイムス社

 実際、その格差はすでに表面化している。20~21年シーズンの決算概要によると、赤字は1部、2部合わせた36クラブ中17クラブと約半数に上る。負債が資産を上回る「債務超過」のクラブも10クラブあり、クラブ経営の厳しさを物語る。特に、赤字などの苦境に陥っているのは2部所属が多く、有力選手の獲得に窮している状況がうかがえる。

 さらに、トップチームを維持するための人件費は右肩上がりだ。リーグ発足翌年の17~18年シーズンは約1億9300万円だったリーグ平均人件費が、20~21年シーズンは約2億8800万円となり、4年で1億円近く増加。人気と実力を兼ね備えた選手を獲得したくても、試合中止や入場制限といったコロナ禍の影響による収入減などで実行に移せないという、クラブ側のジレンマがうかがえる。

 12億円規模の売上高やアリーナ保有など、厳しいハードルを設けた改革について島田は「一見、痛みのようだが、クラブが永続的な存在となり、地域に貢献し続けるための施策」と力を込める。

 クラブの稼ぐ力を高めたその先に目指すのは「クラブの平均売上高で、米プロバスケットボールリーグNBAに次ぐ世界2位の夢のあるリーグ」。19年に日本人で初めて年俸1億円プレーヤーとなった富樫勇樹(千葉ジェッツ)にとどまらず、2億、3億円級のスター選手が次々と誕生し、子どもたちが憧れを大きく膨らませる未来を描く。...