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学徒出陣80年…「生還を期せず」答辞読んだ学生の苦悩

2023.10.16

○櫻井
「国立競技場にやってきました
 ピッチレベル、下から見ると圧巻の景色ですね」

東京・国立競技場。
2020年には
東京オリンピックとパラリンピックの開会式も行われた
“スポーツの聖地”。

この場所を今から80年前…。

銃剣を持って行進する学生たち。
1943年10月21日。
当時の明治神宮外苑競技場(現・国立競技場)で行われたのは
「出陣学徒の壮行会」。

太平洋戦争のさなか、兵力不足を補うため、
多くの学生たちが戦場に駆り出された「学徒出陣」です。

○櫻井
「降りしきる雨のなか
 多くの方に、見送られていたんですね」

今スポーツや音楽イベントが行われるこの場所に、

あの日、出陣する学徒約2万5000人と
見送る女子学生ら約6万5000人が集まっていました。

この決定を下した東条英機首相を前に
学徒の代表として答辞を読んだのは、
東京帝国大学の江橋慎四郎さん。

○東京帝国大学
江橋慎四郎さん(23)
「学徒出陣の勅令、公布せらる。勇躍軍務に従うを得るに至れるなり。
 生等もとより生還を期せず」

「生等もとより生還を期せず」。
「はじめから生きて帰るつもりはない」という意味です。

戦って死ぬ覚悟を読み上げる江橋さんの姿を
観客席で、複雑な思いで見ていた女性がいました。

江橋一枝さん100歳。
慎四郎さんの妻です。

○櫻井
「きれいな着物」

実は、壮行会の翌月に結婚が決まっていた2人。

○櫻井
「どういった方ですか、慎四郎さんは?」
○答辞を読んだ江橋慎四郞さんの
 妻・一枝さん(100)
「くそまじめで。一生懸命勉強する」

婚約者として、競技場のバックスタンドから
壮行会を見守っていた一枝さん。

○櫻井
「どのようなお気持ちで
 壮行会をご覧になっていたんですか」
○答辞を読んだ江橋慎四郞さんの
 妻・一枝さん(100)
「(慎四郎さんは)日本の学生の代表だからね
 晴れがましい気持ちでしたね」

ただ慎四郎さんが口にしたのは、
「生きて帰るつもりはない」という覚悟でした。

○答辞を読んだ江橋慎四郞さんの
 妻・一枝さん(100)
「慎(慎四郎さん)はね、
『もしかすると戦死するかもしれない』と
 時々言っていた。
 そういうこともあるかもしれないと
        自分に言い聞かせました」

式を挙げると、慎四郎さんは陸軍へ入隊。
航空整備兵として国内の基地を転々とし、終戦を迎えました。

ただ慎四郎さんは…。

○櫻井
「戦争が終わった後にお話しすることもなかった?」
○答辞を読んだ江橋慎四郞さんの
 妻・一枝さん(100)
「戦争のことは何も触れません」



今から5年前、97歳で亡くなった慎四郎さん。
長年、戦争について語ってこなかったといいます。
そのワケは…。

○答辞を読んだ江橋慎四郞さんの
長女・香子さん(75)
「『生等もとより生還を期せず』と
 答辞を読んだにもかかわらず生還したこと。
 誹謗中傷があったと(聞いている)。
         答辞の内容と違うって」
 
○櫻井
「あそこで答辞を読んだことを
 ずっと背負っていた?」
○答辞を読んだ江橋慎四郞さんの長女
香子さん(75)
「そうですね、重荷だったと思います。
 言いたくなかった」

大学生や専門学校生ら約10万人が徴兵されたとも言われ、
特攻や玉砕戦などで、多くが命を落としました。


一方、「生き残った自分は何も言えない」と、
沈黙を貫いた慎四郎さん。


ただ家族にも伝えなかった思いを
亡くなる2年ほど前に、
東大の後輩研究者に明かしていました。

○答辞を読んだ
江橋慎四郎さん(当時96)
「こういう過ちをした
 先輩の後を追っちゃいけないの」

当時96歳。
90歳を過ぎたころから
“自分を教訓にしてほしい”と
体験を話すようになったのです。

壮行会での答辞については…

○答辞を読んだ
江橋慎四郎さん(当時96)
「僕が書いたんじゃないんだよ」
『代表の文章を作ってこい』と言うけど
 先生なりにそれを添削したんだよ」

○東京大学大学院教育学研究科・教育学部
新藤 浩伸 准教授
「最初にお書きになられた文章は
 どんな内容だったんですか?」
○答辞を読んだ
江橋慎四郎さん(当時96)
「『元気でいってきます』というようなもの」

慎四郎さんいわく「味も素っ気もない文章」。
それを戦意を高揚させる「勇壮な文章」に
書き換えられたのだといいます。

○答辞を読んだ
江橋慎四郎さん(当時96)
「船が沈められた子とか、東シナ海を漂った子がいる。
 あの学徒出陣の時に、あんな大見えをきらないで、
『戦争には行きません、戦争は絶対反対です』って
 東条(英機)の前で言わなきゃいけなかった」

そして慎四郎さんが、
若い世代に伝えたかった思いは…。

○答辞を読んだ
江橋慎四郎さん(当時96)
「繰り返してほしくないと今の若者に言いたい。
 僕らと同じ過ちはしないでほしい。
 青春は二度と返ってこないんだから、
 もっと青春時代の生き方を大事にしてくれればいい」

この思いを、後になって知ったという一枝さん。

○櫻井
「若い世代に向けて伝えたいことは何かありますか」
○答辞を読んだ江橋慎四郞さんの
 妻・一枝さん(100)
「戦争なんかに一生懸命にならないで、
 自分の大切にすることをした方がいいと思います」

 

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