2023年07月13日

パワーカップル世帯の動向(1)-コロナ禍でも引き続き増加傾向、子育て世帯が約6割

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

文字サイズ

1――はじめに~「女性の活躍推進」から10年、パワーカップルも増えている?

2013年に政府が成長戦略として「女性の活躍推進」を掲げてから10年が経過した1。女性が出産や子育て等で離職する「М字カーブ問題」の解消に向けて、育児休業制度や時間短縮勤務制度、テレワークなどの仕事と家庭の両立を図るための就労環境の整備が進んだことで、М字の底上げが進んでいる(図表1)。また、指導的地位に占める女性を増やすことも課題としてあげられていたが、民間企業における女性役員や管理職比率は上昇傾向にあり、足元では2025年の政府目標の達成が視野に入りつつある(図表2)。
図表1 女性の労働力率の変化/図表2 階級別女性比率(民間企業)の推移
これらの結果、共働き世帯数は専業主婦世帯数を一層上回って増加し(図表3)、2022年では子育て世帯の6割超が共働き世帯となっている(図表4)。
図表3 共働き世帯数と専業主婦世帯数の推移/図表4 18歳未満の児童のいる世帯の父母の就労状況の変化
このような中で当研究所では、妻が夫並みに稼ぐ「パワーカップル」に注目し、定期的にレポートを発信してきた2。本稿では、最新のデータを用いて、まず、世帯全体や共働き世帯の夫婦の収入の状況などを捉えた上で、パワーカップル世帯の動向を確認する。なお、パワーカップルについての明確な定義はないが、これまでと同様、一定程度の裁量権を持つ年収水準であることや所得税の税率区分などを考慮し、夫婦共に年収700万円以上の世帯と定義する3
 
1 「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」(平成25年6月14日)
2 久我尚子「パワーカップル世帯の動向-コロナ禍でも増加、夫の年収1500万円以上でも妻の過半数は就労」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2021/11/18)など。
3 当研究所以外の分析では、共働き夫婦の合計年収を2千万円以上とするものや年収に加えて金融資産の量を考慮したもの、あるいは政治家や事業家など影響力のある夫婦を指すものもある。

2――世帯の所得分布

2――世帯の所得分布~年間平均所得は546万円、1,200万円以上は7.2%、南関東や大都市で多い

パワーカップル世帯の状況を捉える前に、まず、世帯の所得4状況についての全体像を確認したい。

厚生労働省「令和4年国民生活基礎調査」によると、総世帯の年間平均所得金額は546万円、中央値は423万円である。

パワーカップルが含まれる高所得世帯に注目すると、1,200~1,500万円未満は全体の3.7%(201万世帯)、1,500~2,000万円未満は2.1%(115万世帯)、2,000万円以上は1.4%(74万世帯)を占める(図表5)。なお、過去10年ほど、1,200万円以上の世帯数や割合は、おおむね横ばいで推移している。

地域別に見ると、1,200万円以上の世帯は南関東(32.1%)や東海(16.1%)、近畿(13.2%)で多く(図表6)、これらの3地域で約6割を占める。また、都市規模別に見ると、1,200万円以上の世帯は大都市(政令指定都市と東京23区)では33.8%、人口15万人以上の市では27.1%、人口15万人未満の市では30.0%、郡部では9.2%を占め、高所得世帯は都市規模が大きい方が多い傾向がある(図表略)。よって、パワーカップル世帯も南関東を中心とした大都市に多く居住していると見られる。
図表5 所得金額階級別に見た世帯数の割合(2022年)/図表6 地域別に見た所得階級分布(2022年)
 
4 本節で用いる厚生労働省「国民生活基礎調査」は収入から給与所得控除額や経費等を除いた所得を捉えた統計だが、次節以降で用いる総務省「労働力調査」では収入を捉えたものであるため、パワーカップルの定義で示した通り、収入の観点から、パワーカップルの動向を捉える。

3――パワーカップル世帯の動向

3――パワーカップル世帯の動向~コロナ禍でも引き続き増加傾向、約6割は子育て世帯

1共働き夫婦の年収分布~高収入の妻ほど夫も高収入、ただし扶養控除枠を意識する妻も
次に、パワーカップル世帯を含む共働き世帯の状況を確認する。

総務省「令和4年労働力調査」によると、夫婦共に就業者の世帯(以下、共働き世帯)は1,646万世帯であり、総世帯(5,592世帯)の29.4%を占める。

この共働き世帯について、妻の年収階級別に夫の年収階級の分布を見ると、妻が高年収であるほど、夫も高年収層の割合が上昇する傾向がある(図表7)。2022年では、年収1,000万円以上の妻の72.7%が夫も年収1,000万円以上である一方、年収200万円未満を除くと、妻の年収が低いほど夫も比較的低年収の割合が高い傾向がある。つまり、高年収同士、あるいは低年収同士が夫婦であることで、夫婦(世帯)間の経済格差5の存在がうかがえる。
図表7 妻の年収階級別に見た夫の年収階級分布(2022年)
一方、妻の年収200万円未満(収入無しを除く)では、夫の年収が500万円以上の割合がやや高まる傾向がある。夫の年収500万円以上の割合は、妻の年収200万円~300万円未満では39.5%だが、100万円~200万円未満では40.7%、100万円未満では44.8%とやや上昇する。この背景としては、夫が一定程度の年収を得ているため、自身の収入を増やすよりも夫の扶養控除枠を意識して働く妻が増えることなどがあげられる。
図表8 夫妻の年収階級別に見た共働き世帯数(2022年)
 
5 夫婦世帯間の経済格差については、橘木俊詔・迫田さやか著「夫婦格差社会-二極化する結婚のかたち」(中公新書、 2013年)で指摘されている。
2パワーカップル世帯数の推移~2022年で37万世帯、共働きの2.3%、子育て世帯が約6割
夫婦共に年収700万円以上のパワーカップル世帯に注目すると、2022年では37万世帯で総世帯の0.66%、共働き世帯の2.25%を占める(図表9)。

なお、冒頭で述べた通り、パワーカップルの定義は様々である。参考までに、例えば夫婦の合計年収が2千万円前後・以上の世帯6について見ると15~30万世帯で総世帯の0.27~0.63%、共働き世帯の0.91~2.1%を占める。先に見た通り、年間所得2千万円以上の世帯は全体の1.4%であるため、このうち共働き世帯は3割前後を占めると見られる。また、夫婦の合計年収1500万円前後・以上まで広げると、55~176万世帯で総世帯の0.99~3.2%、共働き世帯の3.4~8.3%を占める。

視点を図表9の夫婦共に年収700万円以上のパワーカップル世帯数の推移に戻すと、パワーカップル世帯は近年、増加傾向にある。なお、2019年から2020年にかけて大幅に増える一方、2020年から2021年にかけてはやや減少しているが、パワーカップル世帯数は単年の変化ではなく中長期的な傾向として捉えるべきである。なぜならば、同調査の就業者夫婦の年収階級別世帯数の公表値は1万世帯単位であり、現在のところ、この集計単位に対してパワーカップル世帯数が少ないためだ。いずれにせよ、2020年以降の新型コロナ禍にもおいても堅調に増加していることは注目に値するだろう。

なお、コロナ禍においては、非正規雇用者より正規雇用者の方が、正規雇用者の中では管理職等の高収入層ほど悪影響を受けにくい傾向があり7、パワーカップルは悪影響を受けにくい層で多いと見られる。

また、パワーカップル世帯の内訳を見ると、過去から「夫婦と子」から成る核家族世帯が多く、2022では57.6%、次いで「夫婦のみ」世帯(39.4%)が多い。なお、「夫婦と子」と「夫婦と子と親」世帯をあわせた子どものいる世帯はパワーカップル世帯の60.6%を占める。つまり、高収入の共働き夫婦と言うと、DINKS(Double Income No Kids)との印象が強いかもしれないが、実際にはDEWKS(Double Employed With Kids)の方が多い。
図表9 世帯類型別に見たパワーカップル(夫婦共に年収700万円以上)世帯数の推移
 
6 図表7・8にて、妻の年収1,500万円以上で夫の年収500万円以上など合計が2,000万円以上に加えて、妻の年収1,000~1,500万円未満で夫の年収500~1,000万円及びその逆のパターンを加えたもの。
7 久我尚子「コロナ禍1年の仕事の変化-約4分の1で収入減少、収入補填と自由時間の増加で副業・兼業も」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2021/4/20)
Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【パワーカップル世帯の動向(1)-コロナ禍でも引き続き増加傾向、子育て世帯が約6割】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

パワーカップル世帯の動向(1)-コロナ禍でも引き続き増加傾向、子育て世帯が約6割のレポート Topへ