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DB導入企業の積立状況-退職給付信託が積立比率の改善に寄与。しかし課題も。
金融研究部 企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 梅内 俊樹
1――DB導入企業の積立比率
積立型制度と非積立型制度に区分される退職給付債務のうち、積立型制度の退職給付債務(DBなどの企業年金制度、および、退職給付信託が設定される退職一時金制度1の退職給付債務の合計)に対する積立比率に至っては、2019年度の94.4%から2020年度には103.7%に上昇し、年金資産が退職給付信託を超過する状況にまで達している。
背景には、日銀によって国内金利がゼロ近傍でコントロールされる状況が長期に亘って続き、分析対象企業の割引率の平均が0.6%弱の水準で安定し、退職給付債務がほぼ横ばいで推移する一方で、内外の株価上昇率が40~60%になるなど、2020年度は極めて良好な運用環境に恵まれて、年金資産が大幅に増加したことがある。
1 退職一時金制度は通常、非積立型制度に分類されるが、退職給付信託が設定される場合には積立型制度に分類されるのが一般的である。
2――退職給付信託と積立比率
図表1の対象企業のうち、2020年度に「年金資産の合計額に対する退職給付信託の額の割合」を開示している企業2を「退職給付信託を設定している企業」、割合を開示しない企業を「退職給付信託を設定していない企業」と見做して、それぞれの積立比率を比較したのが図表2である。これによると、「退職給付信託を設定している企業」の積立比率は2019年度の80.5%から2020年度には91.0%に上昇しており、「退職給付信託を設定していない企業」の70.8%から76.9%への上昇に比べ、積立比率の改善幅が大きい。
退職給付信託には、母体企業の保有株式を拠出する「株式拠出型」と現金を拠出して効率的な運用を目指す「運用型」の2つがあるが、退職給付信託の大半を占めるのが、持ち合い株式の受け皿として広がり、株式割合が高いと推測される「株式拠出型」であり、株高を背景にその時価残高を大きく伸ばしたことが、「退職給付信託を設定する企業」の積立比率を大きく押し上げたものと推測される。会計情報から事実関係を確認することは容易ではないが、年金資産の期待運用収益率3は2.0%強で大差がないにも関わらず、「退職給付信託を設定している企業」の年金資産における株式割合は39%と、「退職給付信託を設定していない企業」の23%に比べ高いことや、会計数値から推計される2020年度の運用利回りが、「退職給付信託を設定している企業」では13.2%と、「退職給付信託を設定していない企業」の7.1%よりも高いことなどを総合的に勘案すると、少なくとも退職給付信託の株式割合が高水準となっていることは間違いと考えられる。
2 退職給付信託を設定する全ての企業が「年金資産額に対する退職給付信託の額」の割合を開示しているとは限らない。
3 退職給付「株式拠出型」の退職給付信託の期待運用収益率は合理的に見積もることが難しいため、期待運用収益率がゼロや配当利回りとされるケースが多い。
2020年度は株式割合の高い「株式拠出型」を中心に株価上昇で積立比率は押し上げられる結果となったが、株式割合が高いことには弊害もある。株価下落時には積立比率を押し下げて、母体企業のバランスシート上の負債を増幅させることになる。大きな時価変動を伴う結果として、母体企業が負担する退職給付に係る費用の変動性を高めることにもなる。母体企業の財務の安定性という点ではメリットよりもデメリットの方が多いとも言える。
実際に、コーポレートガバナンス・コードの原則1-4で、「政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべきである。」とされ、持ち合い株式の解消が求められていることも踏まえると、政策保有株式として認識される「株式拠出型」の退職給付信託については、中長期的な方向性として「運用型」に切り替えていくことが求められていると言える。退職給付の原資として相応しい運用が実践されるように、退職給付信託が見直されることが望まれる。
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03-3512-1849
- 【職歴】
1988年 日本生命保険相互会社入社
1995年 ニッセイアセットマネジメント(旧ニッセイ投信)出向
2005年 一橋大学国際企業戦略研究科修了
2009年 ニッセイ基礎研究所
2011年 年金総合リサーチセンター 兼務
2013年7月より現職
2018年 ジェロントロジー推進室 兼務
2021年 ESG推進室 兼務
(2021年08月31日「基礎研レター」)
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