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「あえてビールで勝負」サッポロ新社長の戦略は

東京ウオッチ

サッポロビール次期社長・野瀬裕之さんインタビュー

 サッポロビールの社長に今月30日付で就任する野瀬裕之常務執行役員(58)=福岡市出身=が西日本新聞のインタビューに応じ、「ビールが元気でないと他の商品も支持されない」と述べ、主力のビールの販売に力を入れる考えを示した。若い世代を中心に「ビール離れ」が進む中、あえてビールで勝負すると宣言する狙いとは。社長として注力する事業の方針を聞いた。

140年超の歴史を生き残ってきたものづくりへの思い

 ―社長就任が間近に迫ってきたが、どのような心境か。

 「新型コロナウイルス禍は、今まで当たり前だと思っていたものを根本から崩した。見通しが不透明な中、一定の方向性を示して会社を経営するので、重たいバトンを引き継いだと思っている。おかげさまで当社は140年を超える歴史を、厳しい中でも何とか生き残ってきた。そのベースにある、ものづくりへの思いを大切にしていきたい」

 ―コロナ禍の事業環境を、どう見ているか。

 「お酒のチャネル(流通経路)には、小売店と飲食店の二つがある。コロナ禍の巣ごもりで、小売店で販売する家庭用は好調だが、飲食店に卸す業務用は厳しい。サッポロは、業務用が約4分の1を占めるが、それが大幅に減って打撃を受けた。まずは好調な缶ビールをしっかりと伸ばすことが重要だ。その一方で、外食が楽しいのは間違いなく、コロナの感染が落ち着けば、業務用の需要は必ず戻る。その時に向けて営業提案などの準備を進める」


インタビューに答えるサッポロビールの野瀬裕之氏=東京都渋谷区(撮影・中村太一)

ビール会社の本業は、ビール。ビールが元気でないと

 ―家庭用と業務用のバランスをどう取るのか。

 「家庭用のお酒は、戦略として今後も伸長を続けないといけない。短期的にも、中期的にも力を入れる。特にビールは大事で、基幹ブランドの黒ラベル、ヱビスビール、サッポロクラシック(北海道限定)が元気であることは何より重要だ。ただ、家庭用と業務用はつながっている。おいしいビールを飲食店で飲んでもらうことは、ブランド発信になる。品質の向上や特別感の演出など、業務用も丁寧に取り組んでいきたい」

 コロナの感染拡大前から、国内のビール消費量は減少傾向が続いており、「ビール離れ」への対応がビールメーカー共通の課題となっている。同社の社長交代が発表された2月の記者会見で、野瀬氏は「ビールの成長をあきらめずに確実に続けたい」と力強く語った。野瀬氏を中心に進めた黒ラベルのブランド戦略刷新が、顧客層拡大や成長につながった実績への自信がのぞく。

 ―酒類業界では、RTD(レディー・トゥー・ドリンク)と呼ばれる缶酎ハイなどの商品の人気が高まっているが、ビールの成長を重視するのはなぜか。

 「ビール会社の本業は、ビールだからだ。ビールが元気でないと他の商品も支持してもらえなくなる。海外の貿易会社などと話していても、主力ビールのブランドの評判を大事にしていることが伝わってくる」

 「黒ラベルは販売数量が6年連続で前年比プラスになり、成長軌道に乗っている。課題はヱビスだ。今年から、多様な味覚や色が楽しめるビールとしてブランド戦略を変える」


サッポロビールの主力製品「黒ラベル」(右から二つ目)と「ヱビスビール」のシリーズ

黒ラベルは妻夫木さんのCMで世代交代が起きた珍しいビール

 ―黒ラベルの販売が伸びているのはなぜか。

 「2010年に広告宣伝を一新した。福岡県出身の俳優、妻夫木聡さんを起用したテレビCMを作り、中身やパッケージも修正した。音楽イベントなどに積極的に協賛し、そこで飲んでもらう機会を増やした。それまでの黒ラベルは年配の人が居酒屋で飲んでいるイメージが強かったが、こうした取り組みを数年続けるうちに、徐々に若い世代の購入が増えた。顧客の世代交代が起きた珍しいビールだと思っている」

 野瀬氏の出身地は福岡市で、九州大を卒業した。地元の九州には、サッポロビール九州日田工場(大分県日田市)があり、主にビール類を生産。九州や中国、四国といった国内のほか、アジアにも出荷している。

 ―九州の事業の状況は。

 「ビール類の販売を首都圏と比べると、九州は新ジャンル(第三のビール)の割合がやや高い。ドラッグストアなどで新ジャンルの需要が高いので、しっかりとシェアを取れるように提案していきたい。一方、黒ラベルも好調だ。もともと、九州ではシェアが低かったという事情もあるが、12年から8年連続で増加しており、販売数量は8年間で3・6倍になった。まだ伸びるとみている」


東京・恵比寿にあるサッポロビール本社。ビールのブランド発信に向け、恵比寿でのビール醸造の復活も検討している

自分の根っこをつくってくれたのが福岡。活性化はうれしい

 ―黒ラベルの販売増加に向け、どのような取り組みを具体的に進めるか。

 「350ミリリットル缶しか置いていない小売店に、6缶のパックや500ミリリットル缶の販売を提案するなど、商品に触れてもらう機会を増やす営業を地道に続ける。SNSなどを使った情報発信も強化する。売れている商品の勢いは小売店やお客さまにも伝わる。提案のやりがいがある」

 ―出身地の九州への思いを教えてほしい。

 「生まれも、育ちも福岡市。(市中心部の)大名小学校出身で、大学卒業まで二十数年間過ごした。自分の根っこをつくってくれたのが福岡だと思っている。だから、再開発が進んで、インバウンド(訪日外国人客)が増えて、活性化しているのはうれしい。ただ、九州の経済力は、まだまだこんなものではないと思っている。今はコロナ禍で大変だが、人が戻ればもっと伸びるはずだ。私たちは日田で造るおいしいビールを通じて、九州のお客さまに貢献したい」

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