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全くやる気のなかったお誘い…一つの“アイデア”で意欲的に

放送作家・海老原靖芳さん聞き書き連載(72)

 2010年の、確か松の内の頃だったでしょうか。「軽井沢で落語会をやりませんか」と小宮ちゃんから電話がありました。あんなことやこんなことがあって私は軽井沢を離れ、妻と一緒に生まれ故郷の佐世保に帰っていました。

 小宮ちゃんに説明すると「えっ、海老原さん、佐世保出身? そこに住んでいるんですか」と意外そうな反応。テレビ局でいかにも都会人のような標準語、振る舞い、においをぷんぷんさせていた、私のナナフシのようなカムフラージュが見抜けなかったようです。「じゃ、佐世保でしませんか」と小宮ちゃんは再度誘ってきました。

 え? 小宮ちゃんって誰かって? まだ紹介していませんでしたね。

 小宮孝泰。渡辺正行、ラサール石井と「コント赤信号」を結成し、1980年代のお笑いブームで活躍しました。リーゼントの渡辺に「アニキ~アニキ~ッ」って、ラサールとともに叫んでいた眼鏡の小柄な青年です。それを受けた渡辺のせりふが「待たせたな」。あれです。思い出しましたか。そうそう、MCハマー似の彼が小宮ちゃんです。

 「赤信号」がまだテレビに出始めた頃、私は彼らの番組のコント台本を書いていました。テレビ業界は番組が終了すると疎遠になるのが普通ですが、律義な小宮ちゃんは出演する芝居や映画などの連絡をくれていました。

 最近は役者として存在感を増しています。鉄道員で朝鮮半島から引き揚げた小宮ちゃんのお父さんを題材にしたひとり芝居「線路は続くよどこまでも」や、ラサールらと演じた「星屑(ほしくず)の会」の舞台には深い感銘を受けました。

 私の両親や叔母も朝鮮半島からの引き揚げ者で、父は向こうで鉄道員として働いていましたから「線路は続くよ」の世界に通底するものを感じました。戦後、140万人もの引き揚げ者が上陸した浦頭(うらがしら)の港は佐世保にあります。佐世保でこの芝居をぜひやってほしいですね。

 で、その小宮ちゃん。落語にも本格的に取り組んでいて「落語で街を盛り上げよう」と考え、私に電話をしてきたのです。当時の私は落語会をやる気など全くありませんでしたが、彼と話しているうちに、ある思いがふつふつと湧いてきました。子どもたちも参加できないだろうか-。

 頭にあったのは、2004年にわが故郷で起きた凄惨(せいさん)な事件でした。

………………

 海老原靖芳(えびはら・やすよし) 1953年1月生まれ。「ドリフ大爆笑」や「風雲たけし城」「コメディーお江戸でござる」など人気お笑いテレビ番組のコント台本を書いてきた放送作家。現在は故郷の長崎県佐世保市に戻り、子どもたちに落語を教える。

※記事・写真は2019年09月11日時点のものです

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