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秋の七草 : 万葉の歌に詠まれた可憐な花、食に適さず、なじみは薄し

文化 環境・自然・生物

春の七草は粥に入れて食べる習慣が現代まで続いているためか、親しみやすい存在だ。「せりなずな / ごぎょうはこべら / ほとけのざ / すずなすずしろ」と五七調の並び順が耳になじむので、覚えている人も多い。ところが、秋の七草を最後まで言える人は少ないのではないだろうか? 食べられないから存在感が薄い?

秋の七草は、万葉集に収録されている奈良時の歌人、山上憶良(やまのうえのおくら)が詠んだ歌に由来する。

『秋の野に 咲きたる花を 指折り(およびおり) かき数ふれば 七種(ななくさ)の花』

『萩の花 尾花 葛花 瞿麦(なでしこ)の花 女郎花 また藤袴 朝貌(あさがお)の花』

萩(ハギ)

マメ科の落葉低木。晩夏から秋にかけて、枝垂れた細い茎に赤紫色の小花を咲かせる。風にそよぐ様子に風情があり、万葉集にもたびたび登場する。

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桔梗(ききょう)

キキョウ科。東アジアに広く分布する多年草。山上憶良が読んだ「朝貌の花」は、今でいう朝顔ではなく、桔梗と考えられている。

武家の家紋としても広く使われた。桔梗紋から派生した「陰桔梗」は明智光秀の家紋として有名。

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葛(くず)

マメ科。根に多量のでんぷんを含み、葛粉(くずこ)として料理や菓子に利用されてきた。せき止め・解熱作用のある漢方薬としてよく知られる「葛根湯」はクズの根を乾燥させた葛根を主成分に複数の生薬を配合したもの。

風に吹かれて葉裏が見えることから裏見草と呼ばれ、「恨み」とかけた枕詞として歌に詠まれることも多い。

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藤袴(ふじばかま)

キク科。河原の湿った草地などに自生する多年草だが、開発が進むとともに自生地が消失し、環境省の準絶滅危惧に指定されている。香りがよく、中国では匂い袋など芳香剤として使われてきた。

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女郎花(おみなえし)

オミナエシ科オミナエシ属。「をみな」は「女性、美人・佳人」の古語。「をみな」を圧す(へす)ほど美しい花と名付けられた。近種の男郎花(おとこえし)は、白い花を咲かせる。

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尾花(おばな)=すすき

イネ科。東アジアの草地に広く分布。中秋の月見の席には、ススキを飾るのが習わしとなっている。

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撫子(なでしこ)

ナデシコ科。北半球に広く分布。平安時代中期、清少納言は『枕草子』に、「草の花は撫子、唐のはさらなり、大和のもいとめでたし=草の花といえば撫子。唐のものは言うまでもないけれど、大和のものも素敵」と記している。「大和撫子」は日本の女性の奥ゆかしさ、たおやかさを称える言葉として使われてきた。サッカー日本女子代表の「なでしこジャパン」は、大和にとどまらず、世界にはばたいた。

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バナー写真 : PIXTA

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