英国民の王室離れは進むのか:日英共通の皇室・王室への無関心層の増大

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世界で敬愛されたエリザベス女王の跡を継ぐ英国、チャールズ国王の戴冠式が5月に行われた。「偉大なる女王」と対比される国王、そして王妃の国民的な人気はなかなか上昇せず、今回の代替わりで英国民の「王室離れ」が進んだとも言われている。その最新事情について、英王室に詳しい君塚直隆・関東学院大学教授に聞いた。

君塚 直隆 KIMIZUKA Naotaka

関東学院大学国際文化学部教授。1967年生まれ。上智大学大学院修了。東京大学客員助教授、神奈川県立外語短期大学教授などを経て、2011年より現職。専攻はイギリス政治外交史、ヨーロッパ国際政治史、王室研究。著書に『物語イギリスの歴史』(上下巻、中公新書、15年)、『立憲君主制の現在―日本人は「象徴天皇」を維持できるか』(新潮選書、18年=サントリー学芸賞)など。17年と21年の皇室に関する「有識者会議」に招かれ論述した。

「NOT MY KING」

2023年5月6日、ロンドン中心部は70年ぶりに行われる戴冠式の祝賀ムードに包まれた。国王らのパレードの沿道には大勢の市民が押し寄せ、ユニオンジャック(英国旗)の小旗を振っていた。

その一方で、「NOT MY KING」(私の王じゃない)と書かれた黄色のプラカードを掲げ、君主制に抗議する一団があり、逮捕者も出た。王室廃止を訴える市民団体「リパブリック」(君主のいない共和制を意味する)で、メンバーは約1万人という。

チャールズ英国王の戴冠式に合わせ、抗議活動をする人たち=ロンドン(共同)
チャールズ英国王の戴冠式に合わせ、抗議活動をする人たち=ロンドン(共同)

英国は21年末からインフレ、コロナ、ブレグジット(欧州連合=EU=離脱)、そしてロシアのウクライナ侵攻に起因する「生活費危機」に見舞われている。リパブリックは国民が苦しんでいる中での多額の経費がかかる戴冠式に、反対を訴えていた。こうした主張が支持されて、英国の反王室運動は今後、さらに拡大していくのだろうか。君塚教授はこう分析する。

「日本では報道されなかったが、70年前のエリザベス女王の戴冠式の時も王政反対と叫ぶ、同じような動きがあった。君主のいる国では、常に『君主制を廃止して共和制にすべきだ』という意見の人が一定数はいる。しかし、今の段階では英国民の大半は王室を支持しており、メンバーの人数から見てもリパブリックを過大に評価する必要はない。だが、今の英国には反王室運動よりも怖い問題がある。王室に無関心な人たちが若者を中心に増えていることです」

反対もしないが賛成でもない、王室に関心を持たない人たちの層が拡大しているのだ。

戴冠式に「関心ない」が64%

英国の社会調査団体「全国社会調査センター」が戴冠式直前の4月に世論調査の結果を発表した。それによると、君主制の存続を「大変重要」と答えた人が29%、「まあまあ重要」が26%。これに対し、「全く重要ではない」が25%、「あまり重要ではない」は20%で、君主制支持が過半数には達したものの「記録的な低さ」となった。

また、英国のデータ分析会社「ユーガブ」の4月の世論調査では、戴冠式に「あまり関心ない」「全く関心ない」が合わせて64%と約3分の2を占めた。無関心の傾向は若者ほど高く、18~24歳が75%、25~49歳は69%だった。

戴冠式のテレビ視聴者数でも、無関心層の拡大が感じられる。英国の公共放送BBCによると、今回の戴冠式をテレビ視聴したのは1880万人(国民の約28%)。70年前のエリザベス女王の戴冠式は約2700万人が視聴したとされているので、単純な比較はできないとはいえ、英王室の最大イベントに興味を持たない人が増えた。また、昨秋のエリザベス女王の国葬中継は英国内で約2800万人、つまり国民の40%以上が視聴したが、これと比べても代替わりで英国民の王室離れが進んでいるようだ。

王室を頼りとしない若者たち

なぜ英国の若者は王室に無関心な人が増えているのか。君塚教授はこう解説する。

「教育の問題が大きい。1979年から11年間の長期政権を続けたサッチャー首相が、衰退したイギリス経済を立て直すための政策(サッチャリズム)で、『努力するものは報われる、怠けていれば困窮する』という競争社会をつくった。以前は王室に恭順の意を示す教育が行われてきたが、時代の変革で、『王室だから偉いわけではない。国や国民のために努力する王族は評価するが、そうでない王族は評価しない』という考えが国民に広まった。

これで国民の王室への尊敬心がトーンダウンした。この時代に育った親の次の世代が今の若者だから、さらに王室への尊敬も関心も示さない人が増えている。今の若者はウクライナ戦争以後の高インフレなどで自分の生活が苦しいので、政府が対策をしっかりやってくれれば、それでいい、といった感覚なのです」

国民の王室を見る目は厳しくなり、また王室を頼りとしない人、特に若者たちが増えてきたのである。

戴冠式後、バッキンガム宮殿のバルコニーに姿を現わした英王室=ロンドン(Dutch Press Photo/Cover Images via Reuters Connect)
戴冠式後、バッキンガム宮殿のバルコニーに姿を現わした英王室=ロンドン(Dutch Press Photo/Cover Images via Reuters Connect)

新国王の人気がなかなか上がらないのは、「やはりダイアナさんとの離婚問題が影響している。今でも英国の中高年にはダイアナ元妃が大好きという人は多い。その人たちは、自分の不倫が原因でダイアナ妃を王室から追いやったチャールズ国王とカミラ王妃を、今でも好きになれない。若者の王室への無関心に加え、ダイアナ好きの中高年の支持を得られないから、チャールズ国王はエリザベス女王と比べ大きく国民の支持を失っているのです」(君塚教授)

王室の写真からも外れたヘンリー王子

英王室は戴冠式の後、新王室の中心メンバー12人が立ち並ぶ写真を公開した。国王夫妻の両脇にウィリアム皇太子、アン王女(国王の妹)、そして国王の末弟のエドワード王子、エリザベス女王の親戚たちだ。この中には、米国に移り住んだヘンリー王子(国王の次男)や、未成年女性への性的虐待疑惑が問題となったアンドリュー王子(国王の弟)の姿はなかった。

「これからの王室の公務を担うのはこのメンバーでいく、というチャールズ国王の意思が表れている。英王室は手分けして約3000の慈善団体(一部に軍関係の団体も)のパトロン(後援者)も務めており、政府の政策からこぼれ落ちた人々、つまり弱者救済の仕事もしている。

だが、王族は全体的に高齢化しており、本来なら次世代の中でも若いヘンリー王子が、ワーキングメンバー(公務を担う王族)として国王の父や兄(ウィリアム皇太子)を助けていくべきだった。ところが、一家で国外に出てしまい、王室との確執を招く“暴露本”まで出してしまったから、国民の厳しい批判を受け、王室の主要メンバーからも外されてしまった」(君塚教授)

皇室への無関心は英国より深刻

多くの問題を抱えている英王室だが、日本の皇室に関しても、無関心の国民が若い世代を中心に増えているという点では共通している。令和になって間もない2019年9月にNHKが行った世論調査によると、今の皇室に対する関心は「大いにある」「多少はある」を合わせて72%で、「全く関心がない」「あまりない」の合計27%を上回り、多くの人が関心を持っているといえる。

しかし、世代別に見ると18~29歳の若者層の皇室への関心は「大いにある」9%、「多少ある」40%だったのに対し、「あまりない」26%、「全くない」が25%で、無関心の人が少なくないことが明らかになった。年齢が高くなるほど皇室への関心が高くなる傾向にある。

「皇室・王室への無関心という問題は、英国よりも日本の方が深刻だと思う」と君塚教授は話す。

「特にこれからの皇室を盛り立てていくべき日本の若い世代が、皇室、天皇について教えられていないから、無関心の人がどんどん増えて、皇位継承などの重要な問題についても何も分からない。英王室はダイアナさんが亡くなった後、国民の批判を浴びたのを反省し、生き残りをかけて自分たちの活動を国民にアピールするため、若者たちが使っているSNSでどんどん発信するようになった。これに対して、日本はまだ無関心者への対策は打たれていない。もし、皇室が国民のためにこんなに頑張っていることを理解できれば、皇室を絶やしてはいけない、という声が沸き起こってくるはずなのだが…」

親王室国のタイでも、偉大なる国王亡き後に、王室改革を求める激しい動きがあった。日本でも遠い先ではあるが、お代替わりの際に混乱が起きないよう、他山の石とすべきものがある。

バナー写真:ウェストミンスター寺院で行われた式典でカンタベリー大主教から王冠を授かったイギリスのチャールズ国王=ロンドン(ロイター=共同)

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