NIKKEI GX

アンモニアで合成メタン ガスの脱炭素、水素より高効率

都市ガスの脱炭素を担うと期待される合成メタンを効率よく生産する技術を、広島大学や日揮ホールディングス(HD)が開発した。従来研究が進んできた水素ではなくアンモニアを二酸化炭素(CO2)と反応させる。ほとんど熱が出ないためエネルギー消費を抑えられ、コスト低下につながる。エネルギー由来のCO2削減に向けて、電力以外でも取り組みが進む。

水素は発熱でエネルギー浪費

メタンは都市ガスの主成分で、化石燃料の天然ガスを原料にして作る。電化が進んでも工場で熱を使う工程などではガス需要は残るとみられ、脱炭素に向けてはガス自体のCO2排出量を減らす必要がある。合成メタンは工場などから回収したCO2を原料に使えば排出量を実質ゼロにできる。日本政府は30年に都市ガス供給量の1%、50年には90%を合成メタンに置き換える目標を掲げている。
これまでは水素とCO2で化学反応を起こして生産する研究が進んできた。ただ、反応に伴い大量の熱が生じる。反応容器の中に冷却水を通す管を設置するなどして容器を冷やす必要があった。広島大の斉間等特任教授は「水素が本来持つエネルギーを浪費するうえに、水を運ぶポンプを動かす電気も必要で無駄が多かった」と説明する。

2種類の触媒活用

斉間特任教授は同大の市川貴之教授らとアンモニアとCO2から合成メタンを作る技術を開発した。アルミニウムや希土類(レアアース)のセリウムの酸化物に、貴金属のルテニウムやレアメタル(希少金属)のニッケルを加えた2種類の触媒を使う。セ氏475度、4気圧の環境で化学反応を起こして毎分25ミリリットルの合成メタンができる。
アンモニアには2つの利点がある。まずは運びやすさだ。長距離を船で運ぶ際、水素はセ氏零下253度の極低温まで冷やして液化する必要があるため、専用船や関連設備が必要だ。アンモニアはセ氏零下33度で液化できるため水素より扱いやすく、肥料用などで既に一定の輸送インフラがある。アンモニアは成分として水素を含むため、エネルギーキャリアとして水素をアンモニアに変換して輸送する方法も検討されている。
2つ目は化学反応の発熱を抑えられる点だ。水素を使う従来の方法に比べて4分の1ですむ。エネルギーを有効利用できるうえ、水などで冷やす必要がないため一般的な反応容器で生産できる。
広島大の試算ではアンモニアが持つエネルギーの95%をメタンの合成に使える。一方で再エネの適地で生産して輸入した水素を利用する場合は、メタンの合成に使えるエネルギーは80%程度にとどまる。

反応ペース30倍に

実用化に向けて量産技術を開発中だ。現在は日揮HDなどと協力し、毎分750ミリリットルと反応ペースを30倍に高める研究を進めている。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受けて23年度末まで研究し、24年度以降は実験施設をさらに大型化する。CO2が持つ炭素をメタンに変える効率も現在の8割から9割超に引き上げ、30年までに実用化する目標を掲げる。
普及の鍵を握るのが生産コストだ。天然ガスや石炭から作った水素と窒素からを高温高圧で化学反応させる「ハーバー・ボッシュ法(HB法)」でアンモニア1トンをつくるコストは、斉間特任教授によると200〜1000ドル。一方、アンモニア原料として使う水素を再生可能エネルギー由来に切り替えると500〜1000ドルと高くなるという。水素を大量に安く供給する体制構築が合成メタン普及の鍵を握る。
合成メタンの生産に使うCO2を日本国内で集める仕組みも求められる。工場や発電所、ゴミ焼却施設から効率的に集めて保管する仕組みが必要だ。CO2が大気中に出るのを防ぎ、きちんと原材料として扱うためには、精緻な排出測定法の開発なども重要になる。
熱利用に伴う排出削減としては都市ガスの代わりに水素を燃料に使う方法があるが、水素の輸送や保管に新たなインフラが必要になる。合成メタンは化学反応を繰り返してつくるためエネルギー効率が悪い面がある一方、既存のガス設備をそのまま使えるメリットがある。
(サイエンスエディター 草塩拓郎)

NIKKEI GXに登録すると、すべての記事を全文お読みいただけます。今なら春割で2カ月間無料でご利用いただけます。

この記事へのご意見をお聞かせください。

ご入力いただいた情報は、サイトの改善に関する目的以外には使用いたしません。 また、このフォームからの投稿に対する返信は行っていないため、お客様のご連絡先等の個人情報のご入力はお控えください。 サイトの使い方やサポートへの問い合わせは、ご購読サポートをご利用ください。

  • この記事はいかがでしたか?

  • この記事は他の媒体(日経電子版含む)では得られない内容だと思いますか?

  • 読みたい記事・内容、ご意見・ご要望をご記入ください