乱歩賞、贈呈式を初めて公開 コロナ下の試行錯誤
ミステリー小説の著名な公募賞である第67回江戸川乱歩賞は、伏尾美紀(54)の「北緯43度のコールドケース」と桃野雑派(41)の「老虎残夢」に決まった。10年ぶりの2作受賞となった贈呈式は11月1日、初めて一般公開された。
江戸川乱歩(1894~1965年)が長く暮らした東京都豊島区にある、東京建物ブリリアホールが会場となり、ファンが来場できるだけでなく、ライブ配信もされた。「一人でも多くの人に賞を知ってほしい。祝ってほしい。受賞作を読んでほしい」。賞を主催する日本推理作家協会代表理事の京極夏彦は、公開の狙いをこう明かした。続いて「エンターテインメント文芸は不要不急の塊だが、不要不急なくして豊かな人生を送ることはできない」などと、受賞者を励ました。
贈呈式のセレモニーが終わると、2016年に乱歩賞を受賞し、直木賞作家にもなった佐藤究が、旧江戸川乱歩邸を歩きながらその生涯を解説する映像が流れ、選考委員が選考会の内幕を明かすなど、ファンサービスもあった。「乱歩賞でデビューした選考委員は、賞への思い入れからか評価が厳しい」「武闘派の選考委員が推す作品に異議を唱えるのは怖かった」などという選考委員の声には客席から笑いが漏れた。
贈呈式は第74回日本推理作家協会賞と合同で、同賞はYouTubeの問題に材をとった結城真一郎の短編「#拡散希望」などが受賞した。文学賞の多くは受賞者や親族、出版関係者だけで開催され、ファンが参加できるものは少ない。「新型コロナウイルスの問題がある中での贈呈式のあり方を、暗中模索しつつ議論してきた。豊島区の協力で一つの変革ができた」と京極は話した。
(渡部泰成)
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