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第1回防衛力強化の有識者会議 出席者の発言全文

22年9月30日開催分

詳しくはこちら

政府は24日、防衛力強化の内容や財源を巡る方針を決めた「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の全4回分の議事録を公表した。2022年9月30日に開いた第1回会合での出席者の発言全文は下記の通り。

木原誠二・官房副長官 日本を取り巻く厳しい安全保障環境を乗り切るためには経済力を含めた国力を総合しあらゆる政策手段を組み合わせて対応していくことが重要だ。自衛隊の装備および活動を中心とした防衛力の抜本的強化のほか、自衛隊と民間との共同活動など実質的に日本の防衛力に資する取り組みを整理する。総合的な防衛体制の強化について議論していただきたい。

日本の信用や国民生活が損なわれないよう経済的な基礎条件を要請していくことが不可欠だ。総合的な防衛体制の強化と経済財政のあり方についても議論していただきたい。座長は佐々江賢一郎・日本国際問題研究所理事長にお願いする。

秋葉剛男・国家安全保障局長 日本を取り巻く安全保障環境や防衛力の抜本的強化等について説明する。ロシアによるウクライナ侵略、中国の力による一方的な現状変更の試み、北朝鮮の繰り返される弾道ミサイル発射など国際秩序は深刻な挑戦を受けている。ロシアによるウクライナ侵略のような事態は将来、インド太平洋地域においても発生し得る。

日本が直面する安全保障上の課題は深刻で複雑だ。日本はロシア、朝鮮半島、中国の最前線に位置し、尖閣諸島、台湾、南シナ海をめぐる問題などに直面している。日本周辺の主要国等が軍備を拡張して国防費を増加させるなか、ミサイル戦力の増強・精密打撃能力の向上が顕著だ。

米ロは新戦略兵器削減条約(新START)における弾頭およびミサイルの配備数、発射機の保有数の3つの削減目標を達成している。他方、中国は30年までに少なくとも1000発保有することを企図している可能性が高い旨が指摘されている。

中距離ミサイルについて米ロは中距離核戦力(INF)廃棄条約の締約国だったため、地上発射型中距離ミサイルは保有していない。だが中国は同条約の締約国ではなく制約がなかったため合計2000発以上を保有している。

昨今、無人・人工知能(AI)アセットの開発が急速に進展している。無人有人を組み合わせた戦い方が提唱され、従来の軍隊の構造や戦い方が根本的に変化する可能性が指摘されている。

近年、偽情報の拡散を含む(通常戦力とサイバー攻撃などを組み合わせた)「ハイブリッド戦」などが展開されている。軍事的手段と非軍事的手段を組み合わせた脅威が高まっている。

西太平洋における米中戦力の変化について述べる。1999年は中国の軍事力は現在と比較すると低く、相対的に米国に優位なレベルにとどまっていた。現時点の見込みでは2025年には米中の戦力バランスも中国側の優位に傾くと見込まれている。

中国軍の日本周辺海空域での活動は急速に拡大・活発化しており、一方的な活動のエスカレートも発生している。沖縄県・尖閣諸島周辺では、中国艦艇が恒常的に活動している。8月には先島諸島から80キロメートルの地点を含む日本周辺海域に弾道ミサイル9発を発射した。艦艇の共同航行など、ロシアと連携する動きも見られる。

北朝鮮は変則軌道の弾道ミサイルなど弾道ミサイル防衛(BMD)での迎撃が困難な弾道ミサイルを開発している。複数同時発射や極めて短い間隔での連続発射などミサイル運用能力も向上させている。

ロシアはウクライナへの陸上戦力の動員にもかかわらず、日本周辺海域に多くの海空戦力を動員している。例えば北方領土に新型戦闘機やミサイルなどの装備を配備している。ウクライナ侵略では情報戦を含むハイブリッド戦のほか、核の威嚇による様々な態様の広範囲な行動が見られた。

岸田文雄首相は日米首脳会談などで日本の防衛力を抜本的に強化し、裏づけとなる防衛費の相当な増額を確保する決意を表明している。政府は日本周辺の安全保障環境をめぐる課題に対処するため、国家安全保障戦略をはじめとする「3文書」を策定しているところだ。

防衛力の抜本的強化の7つの柱は次の通り。

①(長距離でもミサイルで敵を狙える)スタンド・オフ防衛能力②総合ミサイル防空能力により日本への侵攻そのものを抑止③無人アセット防衛能力④領域横断作戦能力⑤指揮統制・情報関連機能により、万一抑止が破られた場合に相手を阻止、排除⑥機動展開能力⑦持続性・強靱(きょうじん)性を持って迅速かつ粘り強く活動――。これらを支えるものとして防衛生産・技術基盤という要素も重視している。

日本の防衛関係費は当初予算でみると10年連続で増えている。しかし厳しい安全保障環境にもかかわらず、1997年度の水準を初めて上回ったのは2019年度で、およそ20年間のトレンドで見ると微増にとどまる。

北大西洋条約機構(NATO)の定義による国防関係支出について。NATO加盟国は国力が異なる加盟国の国防に関する貢献を公正な形で示すため、国防関係支出の共通定義に基づいて加盟国の国防努力を一貫した基準で比較している。国防目的に資する経費もNATO定義による国防関係支出に含まれる。

NATO定義と日本の経費の関係について。日本では19年に安倍晋三政権でNATO定義を参考に恩給費・国連平和維持活動(PKO)関連経費、海上保安庁予算など安全保障に関連する経費を試算し、対外的に初めて明らかにした。21年度で補正予算を含め国内総生産(GDP)比1.24%となっている。韓国は既に2.57%となっている。

日本は主要国のなかでも、科学技術関係予算のうち防衛関係が占める割合は小さい。国防研究開発費の額も他の主要国と比べて比較的低い水準で推移している。

NATO国防費のルールでは汎用目的の予算は軍事部分が特定される形で説明・試算がなされる場合に限り計上される。研究開発予算においても同じだ。国防当局以外の国防目的の研究開発予算でもNATOルールに当てはまれば、NATO国防費として計上される。ただし研究開発の定義の詳細部分は各国により異なる。

佐々江賢一郎・座長 有識者の皆様から意見をいただきたい。

上山隆大・総合科学技術・イノベーション会議議員 科学技術において安全保障上ターゲットとすべきことは防衛に直結する技術に限らない。科学技術と人的資源と国際的なネットワークの3つが掛け合わさったところに科学技術と安全保障の問題がある。

その上で2点申し上げる。まず科学技術分野における人材というソフトパワーと安全保障の問題を真剣に考えなければいけない。日本で昨今指摘される科学技術研究力の低下は、多くが国際的なネットワークにおける毀損に関わっている。これが間接的に日本の安全保障上の技術の問題とつながっている。

研究力でも多くの大学で国際的な立場が弱くなっている。科学者が世界のインナーサークル中にどれほど入っているかという問題だ。

もう一つはトップクラスの科学者を安全保障上の文脈にどのように参画してもらうのかという点だ。日本では科学技術者が安全保障(に関わる研究)を避けるという傾向がある。日本だけの問題ではなく、米国でも難しい問題がある。

まずは大学などの内部または学外に科学者が安心して安全保障上の問題について発言・研究できるような空間をつくっていくことが必要ではないか。また米国では米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)のような組織がある。日本で導入された「経済安全保障」は軍事を除いたDARPAという側面がある。これも十分に理解しながら日本の科学技術と安全保障の問題を考えていきたい。

翁百合・日本総合研究所理事長 日本周辺の安全保障環境は厳しさを一段と増しており、国民が安心して暮らしていくために防衛力強化を政府全体として総合的に検討することが急務だ。

少子化で低成長が進む日本は人や科学技術など未来への投資やエネルギーの安定確保・安定供給など整合的に総合的な国力を強くしながら、防衛力の持続的な強化を可能にする必要がある。

その意味で財政支出も、全体最適の視点での検討が一層重要になっている。防衛関係支出についてはNATO基準のGDP比2%を機械的に追い求めるのではない。真に実行的な防衛力・抑止力に資する支出内容の検討やNATO加盟国とは異なる日本の国情に即した検討が必要だ。

例えば日本のシーレーン(海上交通路)の安全性確保の重要性を考えれば、海上保安庁関係支出などは大事だ。核関連支出を含む国と日本では国情も異なり、被爆国である日本ならではの取り組みを計上するなど国際的な説明も勘案した工夫も必要ではないか。

宇宙・サイバー・AIなど科学技術は、経済発展の基盤と同時に防衛力の基盤にもなっている。防衛省以外の他省庁計上の予算について、総合的な防衛体制の構築に資するよう安全保障分野におけるニーズとシーズをマッチングさせる政府横断的な枠組み構築を検討すべきではないか。

財源については国の債務残高GDP比率が既に主要7カ国(G7)諸国でも突出して高い。無駄を取り除く歳出改革の取り組みを一層進めるととも現世代の負担が必要だ。ただ負担能力に特段に配慮しながら具体的な道筋をつける必要がある。持続的な経済成長実現と財政基盤確保という視点に立った検討が重要だ。

喜多恒雄・日本経済新聞社顧問 大前提として考えたいのは自分の国は自分で守るという考えを明確にすることが必要だ。それが同盟国の信頼を得る第一歩だと認識したい。防衛力強化といっても単に防衛費を積み上げるだけでは効果が限られている。経済力や外交力、科学力などを総合的に強化することが肝要だ。

経済力が経済を成長させて国を豊かにする。外交力はまず米国との信頼関係を強固にすることに努めていただきたい。そして米国だけではなく、アジアの国々との友好関係を強めることが防衛力の強化につながるのではないか。科学力は防衛に役立つ科学技術研究を広げることだ。

科学技術の水準は世界的にも高く、研究開発予算もそれなりに計上されている。だが現実的には大学や政府機関で軍事と民生の両方で使える「デュアルユース」技術の研究を避ける傾向が残っていると聞く。これを転換して防衛力強化につながる仕組みをつくることが大切だ。

民間の力を活用することが不可欠だ。防衛産業を育成する政策が必要になるのではないか。長年、日本は武器輸出を制約し、日本の防衛企業の成長を妨げてきた。この制約をできる限り取り除き、民間企業が防衛分野に積極的に投資する環境をつくることが必要だ。将来、防衛分野ではサイバーやAIなどでの防衛力の強化が不可欠になってくる。この分野では有力な日本企業が複数ある。こうした企業の国際的な競争力の向上に取り組むべきだ。

さらに日本の課題とされるのが省庁の縦割りの弊害だ。防衛関連の分野は多岐にわたる。多額の予算をつけている公共投資も安全保障を目的にもっと活用すべきだ。台湾有事の際、拠点となる南西諸島の空港や港湾などの既存インフラは安全保障の資産になり得る。有事を見越した備えを平時から政府全体で取り組むことをこの会議で示してもらいたい。

国を守るのは人だ。防衛というと装備品に注目が当たりがちだが、最前線で国を守る人々の処遇を良くすることを忘れないでもらいたい。

防衛費の強化は金額がありきではなく、有効かつ効率的に資金を使うということが大切だ。防衛力強化は単年度の話ではなく将来にわたり継続して取り組む課題だ。必要な財源を安定して確保しなければならない。財源は安易に国債に頼るのではなく、国民全体で負担することが必要ではないか。

国部毅・三井住友フィナンシャルグループ会長 周辺国による軍備の拡充や示威行為の増加、足元のロシアによるウクライナ侵攻などを踏まえると、防衛力の強化が急務であることは論をまたない。防衛力を考える際の基本的な視点として3点申し上げたい。

1点目はグランドデザインと優先順位だ。装備品の拡充にとどまらず、宇宙・サイバー・電磁波・AIといった分野など備えるべき範囲が広がっている。米国との役割分担や価値観を共有する同志国との連携強化も含め、日本としてどうしたら抑止力・対処力を総合的に高めていくことができるのかというグランドデザインが必要だ。

企業経営者の感覚で言えば予算に限りがあるなか、投資の成果を最大化できるよう優先順位をつけて取り組むのが自然だ。防衛力の強化でも優先順位を意識して検討すべきだ。

次に防衛産業の強化だ。防衛力を総合的に強化していくためには装備の生産やデュアルユース分野を含めた技術開発を担う基盤の強化は欠かせない。企業に撤退を余儀なくさせている商慣行の見直しなどを通じ、サプライチェーン(供給網)の再構築に取り組むべきだ。

研究開発に関しては防衛省以外の省庁の予算で取り組まれているものや、民間企業がしているもののなかにも防衛力の強化に資するものがあるはずだ。省庁間や官民の連携を深め、国を挙げて取り組む体制を検討すべきだ。

最後に財源の確保だ。有事でも経済活動や国民生活の安定を維持するには機動的に財政出動できるよう一定の財政余力を平時から保持しておく必要がある。防衛費が恒常的な歳出であることを踏まえると全てを国債に頼るのではなく、それを賄う恒久財源についても併せて議論すべきだ。

黒江哲郎・三井住友海上火災保険顧問 基本的なことを2点申し上げる。まずは自衛隊だけでは国は守れない。次に自衛隊が強くなければ国は守れない。

1点目についてはハイブリッド戦が象徴的だ。日本の最大の脅威である中国についてはロシア以上に洗練されたやり方でハイブリッド戦を展開してくるだろうと考えられる。既に沖縄県・尖閣諸島に侵入し、毎日サイバー攻撃を仕掛けてきている状況にある。

日中間の状況は既に平素ではなくグレーゾーンということだ。台湾有事の際、容易に武力侵攻事態につながっていくという認識を持つ必要がある。この状況に対しては海上保安庁あるいは、サイバーであれば警察や総務省、あるいは民間企業が対応している。全ての関係者が上記の認識を共有し、整合性ある対応を取っていくことが必要だ。

科学技術あるいはインフラの整備という点で自衛隊だけでは守れないという政策がたくさんある。あらゆる施策を国として一丸となって総動員する仕組み、例えば内閣官房を中心とした司令塔機能を強化することが必要だ。

2点目の自衛隊が強くなければ国を守れないということは、ロシアのウクライナ侵略が端的に表している。我々が最も懸念している事態は中国による台湾に対する武力統一だ。では自衛隊をどこまで強くしなければならないかを示す必要がある。

私は台湾有事の際、国と国民をきちんと守れる防衛力をつくる必要があり、これを国民に明らかにすることが大事だと思う。そのための道筋あるいは国民の負担をどうすべきかを安保3文書の見直しに向け、国民に説明することが大事だろう。

この有識者会議も何ができる防衛力を目指そうとするのか、そのための道筋として何をやるのか、どのような国民負担が必要になるのかについて、政府側の考えを聞きながら議論したい。

中西寛・京大教授 2点申し上げる。まず安保3文書について、それぞれの文書の性格の明確化が必要だ。防衛計画の大綱(防衛大綱)は40年ほど前、中期防衛力整備計画(中期防)は30年ほど前につくられた。その時々につくられ、必ずしも各文書の意義づけははっきりしていない。

国家安全保障戦略は防衛や自衛隊以外の部分を含んだ安全保障政策について扱う。防衛大綱は主に自衛隊が関わること。中期防は予算を含めた整備計画を扱うような形に整理すべき段階に来ている。

国家安全保障戦略においてはとりわけ、非防衛あるいは非自衛隊部分で何が重要かについて整理する必要がある。エネルギー・食料・サイバーなどの分野それぞれについて安全保障の課題がある。もちろん経済安全保障もあり、各政策分野を統合するような形で国家安全保障戦略を考えることが必要だ。

2点目は防衛費について。防衛費は恒常的なもので財源はしっかりしたものが必要だ。他方、日本の財政状況を考えれば単に防衛費だけを例えば増税で支弁しても、全体としての公債管理には必ずしもつながらない。

いまの日本にとっては有事でも経済財政状況が安定した基盤を維持できるような公債管理政策についてのシミュレーションの検討が必要だ。例えば経済財政諮問会議などの組織があるわけだから、有事における経済状況のシミュレーションなども含めて最適な財政のあり方を検討すべきではないか。

橋本和仁・科学技術振興機構理事長 日本を取り巻く環境は考えていた以上に深刻な状態だ。困難なことも多いが厳しい現実を国民にもよく認識してもらうことはとても重要だと改めて感じる。

私は科学技術の専門家としてこの会議に参画しているが、ウクライナで起きていることから見ても先端科学技術が国家防衛にとっていかに重要なのかをわかってもらえるだろう。一方、専門家にとっても最先端の科学技術の進展の速さはこれまでの常識をはるかに超えている。

近年の特徴として先端科学の基礎研究成果がすぐに実用技術で展開されるケースが増えている。この傾向は直近の10年、5年で加速度的に進行しているように思える。このような観点から3点申し上げたい。

1点目に先端的で原理的な技術はほとんどが民生でも防衛・安全保障でも、いずれにも使えるように思う。つまり民生用の基礎技術、防衛用の基礎技術といった区別は原理的には無意味ではないか。防衛力強化にあたり、防衛省の研究者に加えて民間やアカデミアの最先端の研究者の協力が必須だろう。

次に最先端の基礎研究に資源を投入することは防衛力の強化につながるとともに、民需利用でも経済的な成果として戻ってくる可能性が極めて高いということだ。基礎科学研究への投資は防衛力強化だけでなく、経済力強化の視点からも重要だ。

3点目として、ただ民生にせよ防衛用途にせよ、世界をリードする技術はいくつもの異なる分野の技術の組み合わせによって初めて得ることができる。必要とする性能を様々な技術に分割する高度な作業が重要で、その優劣が成否を決める。

単に基礎科学研究の費用を増やせばよいのではなく、目的とする技術の大きな方向性や枠組みを示した上で、防衛の専門家と最先端研究者が議論できる場を構築することが重要だ。

山口寿一・読売新聞グループ本社社長 岸田首相は日本の防衛力を抜本的に強化するという歴史的な決断をした。この会議は首相の決断を受けて様々な角度から議論することを求められていると理解する。総合的な国力という視点が特に重要だと考えている。

国力に関し、岸田氏が成長戦略の第1の柱に挙げた科学技術立国の実現が改めて強調されるべきだ。東アジアの軍事バランスが不安定化し、新たな危機の時代に突入したと認識すべき状況にある。日本にとり脅威が高まっている現実を直視し、防衛力強化の目的を明確にすることが求められている。

防衛力強化の目的は日本の平和を守り、東アジアの安定を図ることにある。そのために有事の発生自体を防ぐ抑止力を確保しなければならない。日本の弱点を見つめ直し、既存装備品のスクラップ・アンド・ビルドを的確にする。その上で反撃能力を保有し、継戦能力を高めるといった対象の重点化を図ることが必要だ。中途半端な改革では済まされないという厳しい姿勢が求められる。

防衛に結びつく研究開発の促進や、宇宙・サイバー・電磁波など新しい分野への対応は省庁の縦割りを超えて政府全体で取り組む姿勢が不可欠だ。研究開発予算の策定に安全保障の観点を取り込む仕組みづくりを含め、確実に成果を上げる体制をどうつくり上げるかを議論すべきだ。

防衛産業についていえば、防衛産業を国力の一環と捉え直して「自由で開かれたインド太平洋」の安全保障環境の整備につなげる大きな視点に立つ。防衛装備品の輸出拡大を日本の安全保障の理念と整合的に進めていくための対策が検討されるべきだ。

これら研究開発費を包含した防衛力を測る物差しが必要だ。NATO基準を参考にしつつ、日本の課題解決に適した海上保安庁と海上自衛隊の連携強化にも資する新たな基準を持つことが検討されてよいだろう。

財源としてつなぎ国債はよいとしても、恒久的な財源を確保していかなければならない。既存の歳出削減とあわせて具体的な議論が急務だ。多くの困難はあるが日本の未来を拓(ひら)く大事な議論だ。しっかり取り組んでいきたい。

佐々江氏 一委員として重要と思われる点を申し上げたい。第1に防衛力を抜本的に強化することについては恐らく委員の中で異論がない。重要なのは何のための防衛力強化なのかということだ。

東アジアの軍事的な不均衡がある。これを解消して日本側に十分な抑止力を確保して、日本の国民の生命と安全を守る。そして地域の平和と安定を維持するためのものだと考える。したがって5年間で必要な予算をしっかりつけて防衛力強化をやり切ることが最重要だ。

第2にNATO基準に関して議論があると思う。NATO基準は軍事的にばらつきがあるNATO諸国の国防努力を国力に見合った形で公平に比較するために設定されたものだ。

米国は最重要同盟国の日本にもNATO諸国同様にGDP比2%の国防支出を期待していることは分かるが、例えば2%を達成するためには日本としての安全保障関連経費の算定基準をつくっていくことが非常に重要なことは明らかだ。

その際、日本の努力を国際的に公正に評価してもらう視点も重要だ。日本固有の事情に配慮することは当然で、同時にNATO基準と大きく乖離(かいり)するあるいは離れていくような算定基準とすることは問題が生じる。

特に研究開発あるいは公共インフラの予算について、防衛省の具体的ニーズを踏まえながら関係省庁が連携し、予算が本当に国防のために効果的に活用される仕組みをつくる必要がある。

第3に防衛費の財源について。優位な抑止力の強化をやり切るためには、率直に言って過去に例を見ない大幅な防衛費の増額が必要なことは確実だ。財源について私の立場で意見を述べるのは差し控える。

ただ防衛力の強化が待ったなしであることと、防衛費の大幅な増額をしながら国民の将来のために財政状況の改善も必要だということを国民に率直に話して理解を求める必要がある。閣僚からの発言をお願いする。

林芳正外相 力による一方的な現状の変更の試みが正面からされるようになった。いっそう安全保障環境は厳しさを増すなかで、外交・安全保障双方の大幅な強化が求められている。

実は防衛力が強化されると外交も力強い展開がさらに可能になる。そういう関係もあるということを指摘したい。外交実施体制の抜本的強化や外交力の強化にも全力で取り組んでいく。

外務省としては日米同盟を深化させ、抑止力・対処力の強化に努めることを旨としている。22年5月の日米首脳共同声明でも岸田首相から日本の防衛力を抜本的に強化し、裏づけとなる防衛費の相当な増額を確保する決意を表明いただいた。バイデン米大統領からも強い支持を受けている。

普遍的価値を共有する有志国との多層的な安全保障協力を進めるとともに、ルールに基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向け「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた取り組みを強化していきたい。日本および地域の平和と安定の確保に努めていきたい。

鈴木俊一財務相 安全保障環境が厳しさを増しているなか、日米同盟を基軸としつつ日本の防衛力を国力として総合的に強化するためには、財源の問題も含めて国民の理解と納得が不可欠だ。この会議での議論が極めて重要だ。

▽省庁の縦割りを超えて国力としての防衛力を強化するための枠組みを構築すること▽防衛省自身も自己改革と合理化に取り組み、実効的に機能する抑止力強化に集中すること▽軍事的有事に備えた経済財政のあり方を検討していくこと――。これらが重要であると実感しており、議論を一層深めてもらいたい。

浜田靖一防衛相 国際社会はいま、戦後最大の試練を迎えている。日本の国力を総合して対応することが極めて重要だ。一番肝となるのが防衛力の抜本的強化だ。他国の軍事侵攻から真に日本を守れるものであることが必要だ。

日本への侵攻を防げるか防げないのか、国民を守れるのか守れないのかという問題だ。中途半端なものでは降りかかる火の粉を払うことはできないことはウクライナ侵略が証明している。

私たちの目的は紛争を阻止することであり、そのために残された時間は少ない。直ちに行動を起こし、5年以内に防衛力の抜本的強化を実現しなければならない。このような点を踏まえ、他の政策手段についても防衛力の抜本的強化に大いに貢献するかどうかの観点から議論を期待したい。

岸田文雄首相  防衛力の強化については必要となる防衛力の内容の検討、そのための予算規模の把握、財源の確保を一体的かつ強力に進めていくと申し上げてきた。これに関連して幅広く総合的に議論いただくため、有識者会議を設置した。

現下の厳しい安全保障環境のなかでも、国民の命と暮らしを断固として守り抜かなければならない。日本周辺における核・ミサイル能力の向上や一方的な現状変更の試み、サイバーなど新しい領域や国民保護といった幅広い課題に対応していくため、あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討し、防衛力を抜本的に強化していく。

日本の安全保障上の課題は幅広い。官民の研究開発や公共インフラの有事の際の活用などを含めて縦割りを打破し、政府全体の資源と能力を総合的かつ効率的に活用した日本として必要とされる総合的な防衛体制の強化について検討していく必要がある。有識者の皆様には、こうした点について議論をしてもらいたい。

防衛力の強化は一過性のものではなく一定の水準を維持・継続する必要がある。そのために経済力の強化も不可欠で、それを促す研究開発・技術力の向上も求められる。有事であっても日本の信用や国民生活が損なわれることを防がなければならない。

総合的な防衛体制を強化するにあたり、それを支える経済財政のあり方や基本的な考え方についても議論してもらいたい。有識者の皆様には年末に向けてさらに議論を進め、取りまとめをしていただけるようお願いする。

同日の会議に欠席した船橋洋一委員が提出した発言要旨は下記の通り。

船橋洋一・国際文化会館グローバル・カウンシルチェアマン 平和を維持する最大のカギは抑止力を維持・発展させることだ。戦わないために、戦える備えを常に維持することだ。抑止力を維持するには相手の能力と意図を的確に把握し、こちらの能力と意図を相手に的確に把握させることが大切だ。

だが日本の周囲の国々のうち脅威を与えうる中国、北朝鮮、ロシアのいずれも専制主義国であり、個人独裁体制を特徴としている。そのような体制の政策決定過程は不透明で、意図は不可測的である。

従ってこれらの国々に対しては意図よりも能力を中心に把握し、同時にこちらの能力を的確に把握させることが重要だ。アジア・太平洋におけるパワーバランスが大きく変わるなか、日本の能力(打撃能力を含む)の増強が抑止力の維持・発展のために不可欠だ。

日本の防衛力はこれまで実戦で使えるのか、継戦に耐えられるのか試されずに済んできた。しかし防衛は「いざ」という時の対処の備えで「いざ」を起こさないための抑止の要だ。実戦・継戦防衛力があってこそリアルな対処力と抑止力も期待できる。

とりわけ実戦・継戦防衛力でもっとも重要かつ急を要する課題は陸海空および宇宙、サイバー、電磁波の領域横断作戦を迅速に遂行できる常設統合司令部の創設、常設統合司令官の任命だ。

同時に宇宙、サイバーなどの防衛関連インフラや防衛関連産業基盤・研究開発、最先端技術を駆使できる防衛関連の人的資源を持続的に強化する必要がある。

実戦・継戦防衛力強化ではミサイルを含む打撃能力(反撃能力)の保有も欠かせない。情報収集・警戒監視・偵察(ISR)やターゲティングを含め打撃能力を真に効果的に発揮するには、米国との役割分担と相互補完機能を明確にし、相互運用性を向上させ、戦略を共有することが求められる。

日本の防衛は沖縄県・尖閣諸島と台湾海峡をめぐる海の脅威の増大に加え、新たな複合的な脅威(宇宙、サイバー、ミサイル等)に十分に対抗し切れていない。

防衛力と防衛費のあり方を探求するにあたり、複合的な脅威の動態を的確に見据えた上で何を優先させ、何を捨てるかの「スクラップ・アンド・ビルド」の原則を貫徹しなければならない。

防衛費を増やす際、陸海空自衛隊の予算配分をレガシー(遺産)と組織的既得権益の惰性に委ねてはならない。「スクラップ・アンド・ビルド」を「基盤的防衛力」時代の予算枠のなかでの予定調和的すみ分けと縮小均衡の道具として使うべきではない。

脅威対抗型の動的な防衛費拡大の費用対効果を極大化し、官僚機構のセクショナリズムと前例踏襲を打破し、三軍の運用統合とイノベーションを促進するテコとすべきだ。

世界では国力を示す指標として「国家サイバー力」が重要なモノサシとなりつつある。政府と民間がサイバー空間を活用してイノベーションを進め、デジタル資産・人材を防衛できるかどうかが国力と国富を決する。政府は日本の「国家サイバー力」を向上させるための目標を設定し、方策を策定すべきだ。

サイバー空間はつねに非平和の状態で常在戦場だ。国際秩序とルールが確立しておらず、抑止もバランス・オブ・パワーも十分に機能しない。サイバー戦の防御には攻撃が必要で、攻撃にはインテリジェンスが必要だ。またレジリエンスが大切になる。

日本にはサイバーセキュリティーを担当するトップ直結の統合的な機構が存在していない。国家安全保障局長と内閣危機管理監に並ぶ首相直属の担当官と組織を設立すべきだ。また現行法ではサイバー攻撃とサイバーインテリジェンスの活動が制限されている。制約を克服すべきだ。

海に囲まれる日本の海の守りにおける海上保安庁の法執行活動の重要性を明確に認識する必要がある。「法の支配」とルール順守に基づく法執行機関としての「海の平和」追求の理念と枠組みと実践を南シナ海にも広げ、フィリピンやベトナム、インドネシアなどと協力することでアジアの「海の平和」定着に寄与することができる。

海上保安庁の役割と機能、なかでも持続的に作戦できる運航費を強化すべきだ。法執行機関の間の連携を図る「アジア海洋安全保障イニシアティブ」は「海の平和」のグレーゾーン化に対する抑止効果を持つ。そのための「アジア海洋安全保障支出」を海洋国家基準として打ち出すべきだ。

規準化そのものが抑止力となりうる。法執行機関による「アジア海洋安全保障支出」は基本的に軍事組織・軍事関連費用を措定するNATO定義の所要経費とは必ずしも合致しないが、海洋アジアにおけるこの経費の重要性の国際的認知を得るべきだ。

これからの時代の安全保障を考えると2つのことを肝に銘じておく必要がある。一つは国を守るのは自らの責任であるという国家としての当事者意識だ。

日本が自らを守る明確な意思とリアルな能力を持ち続けない限り、日米同盟は「いざ」という時に作動しない。友好国も本気で日本と協力関係を結ばないだろう。「世界は自ら助くる者を助く」

もう一つは国を守るのは国民全体の仕事だという国民の当事者意識だ。原発事故、気候変動、パンデミックなどの非軍事的脅威の巨大化や非友好的な国家による個人のデータ窃取、個人の行動変容への政治工作、さらには社会・政治の分断を図るディスインフォーメーションなどの脅威に対し、個人の生命、安全、人権を守り社会と国家と価値を守ることが重要になってきている。国民一人一人が当事者意識を持ち、危機に備える体制をつくる必要がある。

有事の際の対応にあたり、国民の関与と参画のあり方、その際の国民の権利と義務のあり方に関する新たな社会契約を結ぶときに来ている。「国民安全保障国家」という新たな国の形を追求すべきだ。その基は国民一人一人の当事者意識だ。

防衛費の増大を国民に求めるにあたり、国民に当事者意識を持って受け止めてもらい幅広く負担してもらうことが大切だ。為政者は襟を正し、意を尽くして必要性を国民に説明する責任がある。

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