防衛力強化へ財源調整急ぐ 有識者会議「幅広い税目で」
22日にも最終提言を公表
政府の防衛費増額に関する有識者会議は21日、岸田文雄首相に提言案を示した。防衛力強化の財源は「幅広い税目による国民負担が必要」とする内容で、年末の2023年度の予算編成や税制改正に向けて政府・与党で調整を急ぐ。
首相は会合で「必要な予算規模の把握、財源の確保を一体的かつ強力に進めていく」と述べた。22日にも座長の佐々江賢一郎元外務次官が最終提言を首相に手渡し公表する。外務・防衛・科学技術などの10人の専門家が参加する同会議は21日が最終回だった。
有識者会議は中国や北朝鮮情勢など日本周辺の安全保障環境が厳しくなっているのを受けて9月に設けた。政府全体で安全保障の概念を捉え直して機運を高めるとともに、防衛力強化の必要性について国民に理解を求める狙いがあった。
提言では日本が自立的にできる防衛強化策として防衛費の増額のほか、相手のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力」の保有などで抑止力を高めるよう提起する。
「総合的な防衛体制の強化に資する経費」を創設し、毎年の予算編成で特別枠として計上できるようにする。府省縦割りを排して横断的に関連予算を確保し、政府全体で防衛力の向上につなげる。
米欧の「国防費」のような位置づけを念頭におく。自衛隊が有事と平時の境目なく各府省庁の関連予算を使える体制をめざしている。
提言原案では①港湾・空港などの公共インフラ②科学技術研究③サイバー④安保面での国際協力――の4項目を総合防衛費の対象に挙げた。沖縄県・尖閣諸島周辺などを警戒監視する海上保安庁の関連予算も防衛費に組み込むことを想定する。
自民党は防衛費を「5年以内に国内総生産(GDP)比で2%以上」に増やすよう主張する。GDP比2%なら年11兆円ほどの予算が必要となる。政府・与党内には恒久財源を確保するための税負担や、国債発行に頼る案など複数の意見がある。
提言原案は「歳出改革で財源を捻出することを優先的に検討すべきだ」と指摘し、国債に依存しない仕組みを設けるべきだと提起した。首相は21日の会合で「有識者会議の報告書を踏まえつつ与党と相談しながら政府として検討を進めていく」と話した。
計4回の有識者会議では反撃能力の導入も議論した。中国や北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対応するため、政府・与党内で配備の是非の検討を進める。
提言原案では反撃能力は必要と明記し、射程の長い国産ミサイルの改良や外国製ミサイルの購入を促した。5年以内を念頭に十分な数のミサイルを配備するよう要請した。5年後の27年は中国による台湾有事の一つの目安の時期とされる。
防衛力強化を巡っては自民・公明両党の実務者協議が毎週テーマを設けて意見交換している。反撃能力の発動要件などでは自公の考えに依然隔たりがある。
財源は与党の税制調査会でも議論が始まっている。政府は有識者会議や与党の考え方を踏まえ予算規模と財源を決めるほか、年末に改定する国家安全保障戦略など防衛3文書にも反映する。