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特別展「鑑真和上と戒律のあゆみ」特集

鑑真の情熱、宿る面差し

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奈良時代に戒律を伝えた中国の高僧・鑑真和上と、その後の日本仏教の足取りをたどる特別展「鑑真和上と戒律のあゆみ」(日本経済新聞社ほか主催)が、京都国立博物館(京都市)で27日開幕する。国宝・鑑真和上坐像(がんじんわじょうざぞう)が唐招提寺から出るのは12年ぶり。仏教史の知識を洗い直す手掛かりが探し出せるかもしれない。(編集委員 岡松卓也)

瞑想(めいそう)しているのか、それとも失った視力をおして異郷の草木国土を感じ取ろうとしているのか。または身命を賭して伝えた戒律が、極東の島国にこの先うまく根付くかを案じているのか。

日本最古の肖像彫刻である国宝・鑑真和上坐像は、端正でおだやかな相貌をしている。面差しのなかに、5度にわたる渡航失敗にもくじけなかった意志の強さが宿る。戒律を授けることのできる高僧らしい威厳も、両肩に備わっている。

ただ、唇こそ結んでいても、会話をはね付けるような厳しさは表情にない。むしろ今にも弟子たちに語りかけるような柔らかさをたたえている。老成した人物には似つかわしくない、謙虚さや含羞のようなものさえ感じてしまう。

井上靖の「天平の甍(いらか)」を引き合いに出すまでもなく、鑑真和上の生涯は日本であまりに有名だ。

中国・唐時代の揚州に生まれ、14歳で出家。洛陽・長安で修行し、故郷の大雲寺に戻る。江南第一の大師とまでいわれながら、日本からの留学僧・栄叡(ようえい)、普照(ふしょう)の熱心な招請に打たれ、渡日を決意。しかし渡航は容易でなく、失敗を重ね、753年に6度目でようやく日本の地を踏む。初志貫徹まで12年がたっていた。

渡来を一番喜んだのは聖武天皇だった。すでに娘の孝謙天皇に譲位していたが、開眼供養を済ませて程ない大仏がある東大寺に戒壇を築かせ、受戒一番乗りを果たす。仏教による鎮護国家を強く願った人物らしいエピソードだ。

仏教では本来、戒律を守るよう誓う授戒儀式を経て人は仏教徒となる。授戒には3人の師と7人の僧侶が立ち会うのがおきてだ。この儀式を受け継いでいくことで、教団は永続性を保つ。鑑真は随行した弟子らと、授戒儀式の作法一連を伝えた。すでに仏教は日本に伝わっていたものの、鑑真より前は正式な僧侶10人がそろう機会がなかった。極言すればそれまで日本には「なりきり僧侶」しかいなかったことになる。

鑑真和上坐像を安置する世界遺産の奈良・唐招提寺は鑑真を開祖とする律宗総本山でもある。同寺の西山明彦長老は、鑑真来日の宗教史上の意義をこう説明する。「和上は仏教のDNAともいえる戒律をもたらしただけでなく、日本に根付かせる授戒の儀式も公式に伝えたわけです」

ひげの一つ一つまで描き込んだ鑑真和上坐像の写実的なリアルさは、造像の経緯を知ると納得がいく。弟子の忍基が、講堂の梁(はり)が折れる夢を見て、師の死期が迫っていることをさとり、急いで造ったという。師を慕う一念が、風貌を生き写しに再現した。

像は、脱活乾漆という製法でつくられている。麻布を二重三重に重ねた張り子の本体表面に、ペースト状の木屎漆(こくそうるし)で細かく肉づけしていく。石彫や木彫に比べて試行錯誤を重ねるのが比較的容易なため、迫真の造形につながったようだ。

文化財の保存修復技術にも明るい彫刻家の籔内佐斗司さんの著書「ほとけの履歴書」によると、脱活乾漆は中国・江南地方で生まれた技法だが、中国や朝鮮半島に作例はほとんど残っておらず、日本ほど残っている国はない。「しかも、絶頂期につくられた傑作が多い」(同書)。興福寺の阿修羅(あしゅら)像、東大寺の不空羂索観音(ふくうけんさくかんのん)立像などと並び、鑑真和上坐像は脱活乾漆造りの最高峰の一つだ。

若葉して 御目の雫(しずく) 拭はばや(芭蕉)

「戒律は仏教に息づくDNAのような原点。釈迦の説いた教えは、1000年近くかかって極東の島国にたどり着く。北インド発祥の宗教が日本に根付くには曲折があったものの、様々な宗派の花を咲かせた。その足取りを、戒律に焦点を当ててたどると、みえてくるものがあります」(唐招提寺の西山明彦長老)

戒律とは出家した仏弟子たちが守るべき規則のこと。盗むな、殺すなといった倫理的基準「戒」と、僧団生活で守るべきおきて「律」からなる。ただ出家しても在家信者や僧侶見習いなどの段階があり、男で3段階、女で4段階に分かれ、それぞれに戒律が設けられていた。多い場合は男性で250戒、女性で348戒と複雑だった。

もともと釈迦が生きた時代と社会を反映したもので、合理的な意味もあったが、ひとたびインドを離れると、風土や生活習慣などの尺度に合わないものも増えていく。「たとえば修行の身では本来なら一切の生産が禁じられ、自活自炊はおろか、作物の栽培さえできません」(西山長老)。喜捨に頼って食糧をまかなえるほど豊かな社会がなければ、戒律は守れず、僧団の維持は難しい。

こうしたことから仏教が西域を経て中国に入ると、必要に迫られ戒律への解釈が変容する。細かくきめられていた戒律の要素を煎じ詰めて「大乗菩薩戒(だいじょうぼさつかい)」が生まれる。殺生や盗みを禁じ、噓をつかぬ、酒を遠ざけるといった重要項目を10項目に集約。授ける対象を出家者と在家者に分け隔てなかったばかりか「男女の別さえ設けなかった。まるで現代社会を先取りしている」(西山長老)。

母国でこの大乗菩薩戒のほか、釈迦のオリジナルに近い小乗戒も受戒していた鑑真は、両方を日本に伝えた。これにより日本に戒律の礎ができた。この後、日本仏教は大きな変遷をたどる。

東大寺で受戒した最澄が比叡山に開いた延暦寺に9世紀、戒壇が建立され、大乗菩薩戒を授けられるようになった。「これは日本の仏教を一変させるほど意味のあることだった」(末木文美士「日本仏教入門」)

「誰もがブッダになる可能性を持っている」という大乗思想を苗床に、ここ天台宗総本山の延暦寺で学んだ法然や親鸞、道元らは浄土宗、浄土真宗、曹洞宗と相次いで12~13世紀にかけ新しい宗派を開く。

「宗祖と仰がれるこうした高僧たちも、ほぼ例外なく戒壇で受戒されており、独自の戒律解釈を展開する人もいた。宗派を開くまでの経緯や主張こそ千差万別でも、一様に戒律を仏道修行での重要な問題としてとらえていたことはたしか」(西山長老)

鎌倉新仏教といわれるこうした新宗派が咲き競う一方で、鑑真の眠る奈良では源平争乱により、東大寺大仏殿ほか多くの伽藍(がらん)が焼失。危機感に目覚めた覚盛や叡尊ら僧たちが、原点回帰をめざし、戒律復興と社会活動を繰り広げた。

今日、周囲を見回すと宗教の居場所は小さい。幅を利かせているのは会社や学校だろう。ただ会社が主役になったのはせいぜいここ100年、200年。一方、仏教はゆうに1000年以上、永らえてきた。時には歴史を旋回させる駆動力の一つにさえなってきた。戒律をものさしにしてみると、星雲状態に見えた仏教地図が、整然と立体的に浮かんでくる。今回の特別展は、さび付いた教科書知識を洗い直す良い機会になりそうだ。

《特別展 鑑真和上と戒律のあゆみ》
期 間 3月27日~5月16日
(月曜休館、ただし5月3日は開館し同6日休館)
会 場 京都国立博物館 平成知新館(京都市)
開 館 午前9時~午後5時30分
(入館は午後5時まで)
観覧料 一般1800円、大学生1200円、高校生700円
中学生以下、障害者手帳を提示すれば本人と介護者1人まで無料
主 催 京都国立博物館、律宗総本山 唐招提寺、日本経済新聞社、京都新聞、NHK京都放送局
特別協力 華厳宗大本山 東大寺、真言宗泉涌寺派総本山 御寺 泉涌寺、真言律宗総本山 西大寺
協 賛 岩谷産業カシオ計算機NISSHA日本通運三井不動産
4月19日を境に前期・後期の展示替えあり

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