冬の深夜・強風下、南海トラフ地震の死者最大32万人に
東海地方の被害が大きいケース
東海沖から日向灘にかけての「南海トラフ」を震源とする巨大地震で、死者が最大32万人に達するとの推計が29日公表された。東日本大震災を大きく上回るとされる被害想定は、「千年に一度」の最大級地震が起きた場合の数字で、次に発生する地震・津波の被害がこうなるというものではない。推計結果を正確に理解したうえで、防災対策を着実に進めることが重要だ。
被害想定で内閣府は(1)東海、近畿、四国、九州の4地方のいずれの被害が大きい地震か(2)発生場所は陸に近いか遠いか(3)発生時刻(冬の夕方、深夜、夏の正午)(4)風速(平均風速、風速秒速8メートル)(5)早期避難率の高低――で場合分けした96ケースを推計。死者は最も多い場合で32万3千人から最少3万2千人まで大きく変動するが、最少でも東日本大震災を大きく上回るとしている。
時間帯別で被害が大きくなるのは、冬の深夜に地震が起きた場合。在宅率が高い上、多くの人が就寝していて、避難に移るまでの時間が日中に比べて3倍の15分程度かかるためだ。冬場は気温が低いため、津波から逃れても低体温症などで死亡する人も増える。半面、在宅率の低い夏の昼間の被害は小さくなる。
通常より強い秒速8メートルの風が吹くと、延焼が進み火災の死者が増える。地震のタイプ別では、人口が多い上、津波が短時間で到達する東海地方の被害が大きい地震で被害が拡大する。
死者が最多の32万3千人になるのは、東海地方の被害が大きい地震が冬の深夜に発生し、強風のケース。内閣府は「津波などで堤防・水門が機能不全になると、さらに2万3千人増える可能性がある」としている。
死因別では津波が23万人と最多で、全体の71%に達する。次いで建物倒壊が25%の8万2千人、火災は1万人と見込む。
死者は関東から九州・沖縄まで30都府県で発生するとみられる。内閣府は地域別内訳は「マクロの被害を把握する目的のため」として都府県単位のみ公表し、市町村単位の数値は示していない。
各都府県の死者が最大になる地震は、地方ごとに異なる。最も多くなるのは、東海地方が大きく被災する地震ケースの静岡県で、10万9千人の見込み。このうち87%の9万5千人が津波によるとしている。東京都内の死者は1500人と見込まれるが、いずれも島しょ部の津波によるという。
これに次いで和歌山県は、近畿地方が大きく被災する地震で最大死者8万人に達する。
このほか、それぞれ異なるケースの地震で、高知県は最大4万9千人、三重県は同4万3千人、宮崎県は同4万2千人の死者になるとした。
四国の愛媛県や香川県は建物倒壊による死者が半数近くにのぼり、他の地方より高い。東海地方などに比べて建物の耐震化が遅れていることが一因とみられる。
内閣府は、負傷者は最大62万3千人と推計。救助が必要な人は、建物に閉じ込められるなど揺れによる被害で最大31万1千人、津波被害で同3万6千人と試算している。津波による要救助者は海水浴客がいる夏の正午に最多となる県もある。
建物の被害が大きくなるのは冬の夕方に地震が発生した場合。台所や暖房器具などで火を使っている家が多く、火災で焼失する建物が増えるためだ。死者数は深夜に発生した地震で最多となり、被害が最大になる地震の発生時間帯が異なる。
陸に近い領域で地震が起き、強い風が吹いていると、被害はさらに拡大。最多になるのは九州地方が大きく被災する地震のケースで、全壊・焼失は238万6千棟に達する。次いで東海地方が大きく被災する地震の238万2千棟。堤防や水門が機能不全になると、さらに増える。建物の被害は福井県や鳥取県など日本海側にも及ぶ。
倒壊原因別に被害が最多となるケースをみると、揺れによる全壊は134万6千棟と半数以上を占める。愛知県と静岡県で20万棟を超え、高知、三重、愛媛の各県も10万棟を大きく上回る。火災による焼失は75万棟前後で、家屋が密集する大阪府が26万棟で全国最多。
津波の被害は最も多い場合で15万4千棟。都府県別の被害が最大になる地震はそれぞれ異なるが、高知県は最大4万9千棟、和歌山県は同4万8千棟が全壊すると見込まれる。このほか2万棟以上が全壊する可能性があるのは静岡、三重、大分、宮崎の各県だ。
液状化によっても最大13万4千棟が全壊するとしている。神奈川県で1千100棟のほか、東京都1千棟、埼玉県700棟など関東地方でも被害が広がるとみられる。
一方、強い地震の領域がより海側にあり、冬の深夜に発生する最も被害が少ないケースでは、いずれの地方が大きく被災する地震も全壊・焼失は95万棟前後としている。
死者(人) | 死者最大の ケースで 各対策を 徹底すると | 揺れによる 要救助者 (人) | 津波被害 による 要救助者 (人) | ||
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合計 | 水門・堤防 機能不全時 の増加数 | ||||
茨城県 | 20 | ― | ― | ― | ― |
埼玉県 | ― | ― | ― | ― | ― |
千葉県 | 1,600 | ― | ― | ― | 500 |
東京都 | 1,500 | ― | 400 | ― | 300 |
神奈川県 | 2,900 | ― | ― | 10 | 1,500 |
石川県 | ― | ― | ― | ― | ― |
福井県 | ― | ― | ― | ― | ― |
山梨県 | 400 | ― | 30 | 1,300 | ― |
長野県 | 50 | ― | ― | 100 | ― |
岐阜県 | 200 | ― | 10 | 1,000 | ― |
静岡県 | 109,000 | +5,300 | 29,000 | 57,000 | 8,800 |
愛知県 | 23,000 | +4,000 | 3,200 | 68,000 | 2,700 |
三重県 | 43,000 | +1,800 | 4,600 | 33,000 | 1,600 |
滋賀県 | 500 | ― | 40 | 1,800 | ― |
京都府 | 900 | ― | 60 | 3,000 | ― |
大阪府 | 7,700 | +2,100 | 300 | 16,000 | 1,700 |
兵庫県 | 5,800 | +1,600 | 100 | 6,000 | 6,900 |
奈良県 | 1,700 | ― | 100 | 6,600 | ― |
和歌山県 | 80,000 | +1,300 | 14,000 | 19,000 | 5,300 |
鳥取県 | ― | ― | ― | ― | ― |
島根県 | ― | ― | ― | ― | ― |
岡山県 | 1,200 | +500 | 70 | 4,100 | 10 |
広島県 | 800 | +1,000 | 40 | 2,400 | 200 |
山口県 | 200 | +90 | ― | 200 | 70 |
徳島県 | 31,000 | +2,300 | 1,600 | 19,000 | 4,200 |
香川県 | 3,500 | +500 | 200 | 6,900 | 400 |
愛媛県 | 12,000 | +1,200 | 800 | 22,000 | 800 |
高知県 | 49,000 | +1,400 | 3,300 | 32,000 | 11,000 |
福岡県 | 10 | ― | ― | ― | 40 |
佐賀県 | ― | ― | ― | ― | ― |
長崎県 | 80 | ― | ― | ― | 400 |
熊本県 | 20 | ― | ― | 10 | ― |
大分県 | 17,000 | +60 | 20 | 600 | 3,400 |
宮崎県 | 42,000 | +900 | 3,400 | 9,600 | 8,300 |
鹿児島県 | 1,200 | +70 | ― | 20 | 300 |
沖縄県 | 10 | ― | ― | ― | 100 |
全国計 | 323,000 | +23,000 | 61,000 | 311,000 | 36,000 |