「先輩の成功、次の起業生む」元マッキンゼー語る
日本のスタートアップ企業で米コンサルティング大手、マッキンゼー・アンド・カンパニー出身者の存在感が高まっている。同社が次々に起業家を輩出するのはなぜなのか。日本支社長を務めた早稲田大学商学学術院の平野正雄教授と、マッキンゼーからミクシィ社長を経て新興企業経営を支援するシニフィアン(東京・港)を設立した朝倉祐介共同代表に聞いた。
■平野氏「ロールモデルがある」
――スタートアップを起業するマッキンゼー卒業生が増えています。
「コンサル業界で働く人は転職を前提に考えていることが多い。主体的にキャリア形成を考えているともいえる。私が支社長だった1998~2006年も、リスクを取って価値を生み出す起業家志向の人が多かった。ディー・エヌ・エーの南場智子会長がそうだ。最近の新入社員は南場氏やエムスリーの谷村格社長が成功した姿を見ている。そうしたロールモデルの存在が大きい」
――マッキンゼー出身者の特徴は。
「マッキンゼーも卒業生も、同窓生を意味する『アルムナイ』のネットワークを大切にしている。世界中の卒業生が巨大な人材のデータベースになっている」
「最近では、ベンチャーキャピタルに転じたマッキンゼー出身者がスタートアップとの橋渡しを始めている。投資先の成功を確かなものにしようとしてアルムナイを招く」
――スタートアップ側もマッキンゼー出身者を必要としていますか。
「新興企業を巡っては、資金が調達しやすくなっており、支援制度が充実してきた。だが、持続的な成長には優秀な人材が不可欠だ」
「マッキンゼーだけでなく大企業にも優秀な人材は多い。ただ、流動性が低く人材市場に出てこない。外資系企業の出身者がスタートアップに目立つのはそうした構造が背景にある」
――日本のスタートアップにどんな役割を期待しますか。
「スタートアップと大企業が組むオープンイノベーションは日本の企業を変える手段のひとつだ。大企業は会社を継続することが目的になりがちで、会社のあり方を変革する勢いに乏しい。新興企業と大企業が対等な関係を作り、人や技術が行き交うようにすべきだ」
■朝倉氏「仲間に刺激を受ける」
――朝倉さんがいたころも起業する人が多かったのでしょうか。
「私が入社した2007年の同期でスタートアップに転じたのは2人だけだった。06年のライブドア事件の後、スタートアップはしばらく流行らなかった。(01年のITバブル崩壊後をみても)プライベート・エクイティファンドに転職する人が多かった」
――会社を出るケースが多いのはなぜでしょう。
「採用段階から突出したリーダーシップにこだわっている点が、ほかのコンサルティング企業との違いだと思う。社会がどうあるべきかという理想を語り、実現に挑もうとする人が多いのではないか。また、多くの人がそうした周囲の姿勢に刺激を受けていく」
「コンサル出身者はブームの業界を後追いする人材でもある。現在は、盛り上がりを見た優秀な人がスタートアップに流れるようになっている」
――マッキンゼー出身者には何ができて、何ができないのでしょうか。
「大企業が抱える経営課題に助言する仕事のため、マッキンゼー出身者は法人向けサービスを手がけるのが得意だ。一方で、消費者向け製品やサービスでは強みが生かしにくいかもしれない」
「卒業生たちの間には損得を抜きにした相互扶助の精神のようなものがあり、ギルド(同業組合)のようになっている。本質的な課題解決のために、無駄な気遣いをせずストレートに議論するのが卒業生の特徴だ。その前提を共有しているので、コミュニケーションが円滑に進む」