盧武鉉元大統領死去から10年 再評価広がる
【ソウル=鈴木壮太郎】韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の政治姿勢に大きな影響を与えた盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領が死去して10年目の23日、生家がある慶尚南道金海市で追悼式典が開かれた。保守勢力だけでなく身内の革新勢力からも批判され、「失敗した大統領」の烙印(らくいん)を押された盧氏だが、近年では歴代大統領中、信頼度で首位に浮上するなど、再評価の動きが広がっている。
式典にはブッシュ(子)元米大統領も出席した。盧氏と同じ時期に国のトップを務め、米韓自由貿易協定(FTA)交渉で妥結し、韓国軍のイラク派遣を決めた。ブッシュ氏は「米国はイラクでの韓国軍の貢献を忘れない。FTAは両国の利益だ」と謝意を述べた。
韓国の週刊誌「時事IN」の最近の調査では信頼できる歴代大統領として盧氏を挙げた人が42%と最も多く、2位の朴正熙(パク・チョンヒ)元大統領に2倍近い差をつけた。07年は6.6%だった。世論調査会社リサーチビューが好感度を尋ねた調査でも盧氏が66%と、金大中(キム・デジュン)氏(63%)を上回り首位だった。
再評価の背景には世代交代に加え、盧氏を見限った革新層による強い後悔の念がある。李洛淵(イ・ナギョン)首相は式典で「大統領を愛する人々の最も大きな痛みは世の中の侮蔑と歪曲(わいきょく)から大統領を守ることができなかったという自責だ」と語った。
盧氏は自ら命を絶った。保守の李明博(イ・ミョンバク)氏に政権を明け渡した後は故郷で暮らしたが家族の不正資金疑惑で捜査を受けた。
盧政権で秘書室長だった盟友の文在寅氏は自著で「我々は失敗した政権と後ろ指をさされ、青瓦台(大統領府)を去った」と振り返る。盧氏は革新政権を終わらせてしまったという自責の念にさいなまれていたという。
保守勢力に対する文政権の不信は強い。李明博氏、朴槿恵(パク・クネ)氏と2代続いた保守系の大統領経験者は「積弊(積み重なった弊害)清算」の対象となり、有罪判決が下った。
盧氏には敵対勢力とも腹を割って話そうという姿勢があったが、文政権では保革の対立が激しい。国民統合を掲げた盧氏の理想の実現はむしろ遠のいているように映る。
盧氏は異色の政治家だった。ヨットで遊ぶ裕福な弁護士だったが、学生運動で勾留された若者を弁護した経験から人権派に転じた。政界入り後は韓国で根強い地域対立の解消を公約に掲げ、総選挙では保守の地盤の釜山であえて出馬し、落選したこともある。型破りな行動が「ノサモ」と呼ばれる熱狂的な支持層を生み、2003年には大統領にまで上り詰めた。
政権運営はいばらの道だった。反米志向が強かった盧氏だが、現実路線を歩んだ。03年に米国のイラク戦争を支持し韓国軍の派遣を決めた。07年には米韓FTA交渉で妥結した。支持者から「左(革新)のウインカーを点滅させながら右折(右傾化)した」と批判され、多くが離れた。
盧氏の思いとは裏腹に社会の経済格差は拡大した。国民は閉塞感を強めた。世論調査会社の韓国ギャラップによると、政権発足時に60%だった支持率は06年末には12%まで下落。保守からも革新からも見放され、07年の大統領選では後継の革新系候補が大敗した。