沢尻エリカ(37)の主演舞台を見てきました。テネシー・ウィリアムズの名作舞台「欲望という名の電車」で、東京・新国立劇場で10日から18日まで上演されました。

米国南部の上流家庭に育ったブランチが妹を頼ってニューオーリンズにやってきたものの、過去の隠された秘密が明らかになり、精神が病んでいく姿を描いた作品。これまでも新劇の大女優杉村春子をはじめ、浅丘ルリ子、樋口可南子、大竹しのぶ、高畑淳子ら舞台経験を重ねたそうそうたる女優たちが演じてきたが、沢尻は初舞台での挑戦だった。ブランチ挑戦が発表された直後のコラムで、「ハードルの高い舞台に挑戦するところに、沢尻らしさを感じた」と書いたけれど、その舞台は期待に違わないものでした。

驚いたのは演技のうまさでした。沢尻の作品は映画「パッチギ!」を見たぐらいで、こんなに芝居ができる女優とは知りませんでした。零落した現実を受け入れられず、満ち足りていた過去の幻想に逃避するブランチを見事に造形。優雅に振る舞うものの、内なる孤独、弱さを巧みに表現し、ブランチの哀れさが鮮明に浮かび上がりました。4年ぶりの女優復帰、しかも初舞台でしたが、物おじせずに堂々としたブランチぶりでした。

そして、沢尻の美しさが舞台で輝いていました。6列目という舞台に近い席だったため、一挙手一投足を間近に見ることができました。高慢なブランチ、おびえるブランチ、優しいブランチ、錯乱するブランチと、さまざまに変化する表情は美しく、ある意味で「眼福」でした。休憩を含めて3時間20分を超える舞台でしたが、長さは感じませんでした。

今回の公演のチケットは12月の発売時に即完売する人気で、私が見た日もキャンセル待ちの行列ができていました。今後は映画、ドラマにも出演していくのでしょうが、また舞台に戻ってきてほしいものです。1回だけで終わるのはもったいないですから。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)