<日本シリーズ:巨人2-3西武>◇第7戦◇9日◇東京ドーム

 「シリーズ男」が連夜のでっかい仕事をやってのけた。第6戦の打のヒーロー西武平尾博嗣内野手(32)が8回、決勝中前適時打を放って立役者となった。日本シリーズMVPは岸孝之投手(23)に譲ったが、MVP級の働きを演じた。

 逆転Vへのおぜん立ては、やっぱりシリーズ男の打席で用意されていた。平尾が連夜の大仕事を成し遂げた。中島の内野ゴロで同点に追いついた8回。連続四球でなお2死一、二塁の好機。平尾は冷静に狙い球を待っていた。フルカウント、4球続いたスライダーに目いっぱい腕を伸ばした。

 平尾

 カウント0-3からスライダーを続けてきた。パッとしたひらめきがあった。もう一丁来るだろうと思って決め打ちした。

 投手越智の足元をすり抜け中前へ転がった。一塁ベース上で仁王立ちした15年目の役者は、2度、お祭り騒ぎのベンチへ向けてガッツポーズを送った。

 平尾

 今日の流れも自分に必ずチャンスがめぐってくると思っていた。絶対に打ってやろうと思った。

 前夜の第6戦は1回に3点適時二塁打、5回に中押しのシリーズ2号ソロで全4打点をたたき出した。乗りに乗っている男は、第7戦でも、ここ一番で勝負強さを発揮した。この日2安打で今シリーズの打率は5割7分1厘、6打点。シリーズ終盤のハイライトを独占し優秀選手にも選ばれた。「僕のような控えがもらっていいんですか」。阪神、西武で15年、内野のスーパーサブを務め上げてきたいぶし銀は、照れながら喜びをかみしめた。

 茶髪のロングヘア、軽い性格に見られがちだが、熱いハートの持ち主でもある。誰よりもチームを思い、若手の相談役として輪をまとめてきた。今年9月13日のこと。今季新加入した三浦貴が、楽天戦で移籍後初ヒット、初打点を記録した際には、記念球を探し出して本人に手渡した。同じ埼玉出身の後輩。自分も同じように苦労してきた。球界で懸命に生き残りを図る後輩を叱咤(しった)激励できる度量の広い男だ。

 最後の打者ラミレスは遊ゴロ。ウイニングボールは一塁平尾の手の中にあった。届ける相手は決めていた。「監督、もらってください。ありがとうございました」。勝利の瞬間、もみくちゃになって渡辺監督を胴上げしたが、記念球だけはしっかりと握り締めていた。「みんなが監督を男にしたいと思ってやってきた1年。最高にうれしいです」。02年の日本シリーズでは巨人に1度も勝てずに終わった。「借りを返せた。最高の思い出になりました」。左翼席から沸き起こる平尾コールが、いつになく心地よかった。【山内崇章】