1回に犠打を決める木浪聖也に一部の虎党が注目していたようだ。先制チャンスだから。それは当然。同時にポイントは木浪が左手につけていたリストバンドにあった。黄色に赤のカミナリ模様が入ったそれは、近本光司が愛用しているデザインである。

あれは近本のものか? 試合後、虎番記者に囲まれた木浪はそれを認めた。「そうですよ。自分が『貸して!』って言って借りました。それだけです」-。

「それだけ」のはずはないだろう。なぜ突然、理由もなく人のリストバンドを使う。そこには当然、思いがあるはず。大卒から社会人と時間をかけ、プロ入りしたドラフト同期生。「キナチカ・コンビ」で売り出した2人だ。

順調だった近本に比べ、木浪は苦労したけれど今季はここまでともにレギュラーを張り、チームの首位に貢献している。年齢的にも脂が乗っており、まさにコンビで輝くときのはず。それがここに来て相方の負傷離脱。胸に去来するものはあるだろう。だからこそのリストバンドなのだ。

「それは、そうですよ。それがあるからです。でも自分からそんな思いで借りた、付けたって言わないじゃないですか」。真意を重ねる質問に木浪は苦笑しながら、そう話した。

近頃は離脱した選手のユニホームをベンチに飾ったりする風潮があるけれど独断と偏見で言わせてもらえば、正直、こそばゆいような感じも受けたりする。指揮官・岡田彰布の引っ張る阪神には似合わないかもしれない。プロはライバル選手が故障したときはチャンスでもある。

だが個人として木浪が近本に思いをはせ、身につけるのはいい。2人にしか分からない感覚があるだろうし、近本も「木浪なら」と思うはず。「やることは同じなので」と、木浪は近本不在の間のプレーを誓っていた。

それにしても痛い。右肋骨(ろっこつ)骨折による近本の離脱。それでも物事は前向きに考えたい。スロースターターから脱却し、今季はほぼ不動の1番打者として引っ張ってきた近本。疲労が見え、不調に陥っても「あいつは休ませられへんやろ…」と岡田も話していた存在だ。

だが、ここはもう休むしかないのだ。負傷はともかく春からの疲労を取る機会と受け取りたい。そして8月後半の正念場、コンビの復活を待つ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)