新型コロナウイルスの感染拡大を受けて制限してきた、中国人の日本への団体旅行について、中国政府は10日から解禁すると発表しました。これを受けて、東京都内のデパートでは回復傾向にあるインバウンド需要がさらに伸びることに期待を寄せています。
「コロナ禍」前に見られていた「爆買い」。こうした光景が戻ってくるのでしょうか。
中国政府は10日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて制限してきた、中国人の団体旅行と一部の旅行商品について、10日から日本を含む78の国と地域を対象に、新たに解禁すると発表しました。
日本以外の対象国には、韓国やインド、アメリカ、オーストラリア、イギリス、ドイツなどが含まれています。中国政府は、新型コロナウイルスの感染が最初に拡大した2020年1月以降、国内の旅行会社に対して海外への団体旅行の取り扱いを制限してきましたが、ことし2月以降、段階的に解禁を進めていました。
中国から日本への団体旅行が再開されるのは、およそ3年半ぶりで、これで日本を含む138の国と地域で団体旅行が再開されることになります。
日本を訪れる中国人旅行者は、2020年以降「ゼロコロナ」政策の影響で低迷しましたが、ことし春ごろからすでにビザを取得している人などを中心に個人の旅行者が増えるなど回復傾向が続いていました。
今回、団体旅行も解禁されたことで、今後、日本を訪れる中国人旅行者の数は大幅に増えるとみられます。
中国政府が中国人の日本への団体旅行を解禁したことを受けて、都内のデパートでは回復傾向にあるインバウンド需要がさらに伸びることに期待を寄せています。
東京・中央区のデパート「松屋銀座」では、コロナ禍からの回復に伴って去年秋ごろから外国人旅行者の来店数の増加が続いています。免税カウンターでは、10日もアジアなどからの旅行客が列をつくって手続きを行う姿が見られました。
この店舗では、コロナ禍の2020年度には外国人旅行者の売り上げが一時、ほぼゼロにまで落ち込みましたが、このところは、円安の効果もあって欧米やアジアなどからの客が高級ブランドの商品を買い求めるケースも多くみられるようになったということです。
7月のこの店舗の売り上げは、コロナ禍前の2019年の同じ月をすでに超えていて、およそ35%のプラスとなっています。
ただ、中国からの観光客が多く購入していた化粧品は、売り上げがコロナ禍前の水準には依然として戻っておらず、今回の中国からの団体旅行の解禁で売り上げの回復が加速することに期待を寄せています。
「松屋」顧客政策課の龍野由木課長
「足元ではコロナ禍前の水準を上回る売り上げになっている分野もあるが、化粧品などはまだ戻ってきていない。団体客はお土産でたくさんの商品を購入する傾向にあるので、期待したいです」
日本経済への影響や今後の課題を、観光分野に詳しい日本総合研究所の高坂晶子主任研究員に聞きました。
Q.中国人旅行者の日本への団体旅行が解禁されました。どうみていますか。
インバウンド需要の回復は順調に進んできたが、コロナ禍前に最もボリュームが大きかった中国からの旅行者は、戻りが遅かった。解禁によって、インバウンド需要の回復に非常に弾みがつき、日本を訪れる中国人旅行者はさらに増えることにつながるだろう。
Q.中国人旅行者は、一気に増えるとみていますか。
日本と中国を行き来する航空便は、コロナ禍前の水準に戻っていないなど、日本に行きたいと思ってもなかなか来ることが難しいという事情もある。中国人旅行者の数は、コロナ禍以前と同じ水準まで急激に戻ることはないと考えている。
Q.中国経済は回復のペースが減速しているが、その影響は?
中国国内での消費が思うように伸びていないのが現状だと聞いている。以前の「爆買い」のような、おう盛な消費意欲がそのまま戻ってくるかどうかは注意深くみていく必要がある。
Q.そうしたなかで中国人旅行者のどういった消費が期待できるとみているか。
いわゆる「コト消費」が期待できると考えている。「コト消費」は体験を重視する消費のことで自然や文化、農村での生活などの地方でも魅力的な体験を提供できる。そういった情報を中国人旅行者とも共有し、誘導することがインバウンドの消費効果を地方に広げていく上でも非常に重要だ。
Q.団体旅行の解禁で中国人旅行者が増加するということになれば、課題は何があるか?
課題は2つあると思う。
1つは、観光業の人手不足だ。特に宿泊業や飲食業が深刻で、キャパシティーが不足し宿泊をお断りしたりサービスに不備が生じてしまったりする問題が起きている。こうした問題の解消に向けた取り組みが求められているし、今のままでは日本の観光に対する評判が落ちてしまうことにつながりかねないと思う。
また、オーバーツーリズムも課題だ。観光客が集中する場所では観光する時間帯を分散させるなど、すでに混雑を緩和する取り組みが始まっているが、こういった取り組みをさらに強めることが必要だ。オーバーツーリズムを解決するのに特効薬はないが、この問題を放置していると、外国人旅行者が地域の住民に敬遠されることにもつながりかねない。混雑緩和への努力を怠らないことが重要だ。