佐賀 吉野ケ里 “愛馬とともに” 馬場馬術 古賀千尋選手
- 2023年11月01日
来年2024年に、これまでの「国体」から名前が変わり、「国民スポーツ大会・全国障害者スポーツ大会(国スポ・全障スポ)」が佐賀県で開かれます。10月に「かごしま国体」が閉幕したばかりですが、県内では、次の大会に向けて新たなスタートを切っている選手や関係者がいます。馬術競技の古賀千尋(こが・ちひろ)選手もそのひとり。実家が運営する吉野ケ里町の乗馬クラブで、競技にかける思いを取材しました。
吉野ヶ里で修練される「馬術」
吉野ヶ里町を拠点に馬術競技に取り組む、古賀千尋さん(26)です。実家が乗馬クラブを運営し、幼い頃から、豊かな緑と馬に囲まれて育ちました。脊振山(せふりさん)系の山あいは、朝晩涼しく、馬にとって心地よい環境が整っています。
古賀さんが取り組むのは、馬とともに演技する競技「馬場馬術」です。
足を交差させながら斜めに進む「ハーフパス」。
馬が走りながら空中で足を入れ替える「フライングチェンジ」。
座る姿勢や太ももの締め具合など体を通じて馬に指示を出し、さまざまな技を繰り出します。技の美しさ・正確性を競うのが、馬場馬術。なかでも、古賀さんが力を入れる「自由演技」は、音楽に乗せて技を組み合わせるのが特徴で「馬術のフィギュアスケート」と呼ばれています。
「(古賀千尋さん)完璧に演技をするとすごく美しくて、馬場馬術を知っている私でも、知らない方でも、『素敵』『やってみたいな』って思える競技だと思うんですよね。」
国スポで目指すは“表彰台” 馬との絆を大切に
古賀さんは馬場馬術で、高校生の頃から、あわせて9回、国体に出場。最高成績は、東京大会の4位。佐賀の国スポでは、3位以内の表彰台を目指して、練習に励んでいます。
10代からの活躍できたのは、5歳の時から、馬術選手の父親、勝己(かつみ)さんから、手ほどきを受けてきたからでした。
実は、父親の勝己さんは、障害物を飛び越える「障害馬術」で、日本人で最初に世界大会に出場したレジェンド。馬との接し方や馬術の難しさを誰よりも知っています。娘の成長を嬉しく思いながらも、専門競技が異なるため、少し距離を置いて見守ります。
「(勝己さん)きついでしょうねえ。どうしても相手が生き物だし、仕事も頑張らなきゃ行けないし…」
古賀さんが父親から受け継いだのは、馬を大切に思う気持ち。会社員として働きながらも、馬とのふれあいは欠かしません。
「(古賀千尋さん)降りて、一緒に馬と過ごす時間とか、そういうのはすごく大切にしていて。誕生日にはケーキも作ってあげたりとか。そういうのがコミュニケーションにつながって、信頼関係を築けるのかなって思ってます。」
長年連れ添った愛馬との別れ
そうしたなか、ことし6月。大きな出来事がありました。
これまで8年間コンビをくみ続けてきた愛馬・アンパイアを亡くしたのです。
「(古賀千尋さん)もう信じられなくて。母から電話もらったんですけど、もう泣いて、会話にならないぐらい。」
1年ほど前から体調が優れず、競技は退いていたアンパイア。別れは突然のことでした。
「(古賀千尋さん)亡くなったあとに、私がここにきて、動かなくなったアンパイアと会ったのが最後なんですけど。遠くで開催された国体に行く時も、いつも一緒にトラックに乗っていて、いて当たり前の存在。何かつらいことがあってもアンパイアの顔を見たら、悩みとかそういうのも吹き飛ぶぐらい、私の中で大きな存在でした。」
競技を続けるか悩んだこともありましたが、アンパイアに恩返しをする意味も込めて、再び歩み出しました。
「(古賀千尋さん)結果を残すことも、アンパイアに対する、やらなきゃいけないこと。お礼なのかなっていうふうに思ってます。」
ことしの国体に手ごたえ 新たなスタート
別れのあと迎えた、10月の「かごしま国体」。新たな馬「フィノ」と出場しましたが、曲はアンパイアの時と一緒です。
「(古賀千尋さん)いろいろ悩んで迎えたことしの国体だったんですけど、アンパイアに助けてもらえたらいいなっていう意味も込めてこの曲を選びました。」
結果は10位。でも、いまできる最高の演技ができたといいます。
佐賀の国スポに向けはじまった新たな1年。
ともに国体を戦い続けたアンパイアは、ずっと、すぐ近くで見守っています。
「(古賀千尋さん)自分がやれることっていうのは、佐賀の国スポで成績を残すこと。達成するために1年間、今まで以上の努力と経験を積んでいけるように頑張っていきたいなと思ってます。」
取材ができたのは短い期間でしたが、家族に接するように馬に話しかける古賀さんの姿から、その愛情が伝わってきました。同じ乗馬クラブからはこれまで多くの国体選手を輩出していて、馬術に取り組む高校生以下の選手も練習に訪れています。古賀さんは自身の鍛錬も続けながら、後輩の選手たちに馬との接し方などのアドバイスも行っています。来年の国スポでは、「チーム吉野ケ里」で、全国に向けて素晴らしい競技を見せてくれることを信じています。
2024年に佐賀で開かれる国スポ・全障スポに向けて、県内20市町のそれぞれ魅力を伝えるプロジェクト「さがめぐりまるっと20」。古賀さんのお話は、このプロジェクトの一環で、20市町のスポーツに関する動きをキャスターが出向いて取材する「あなたのまちの応援団」でお伝えしました。下記リンク先の特設サイトには、古賀さんの動画も掲載しています。
プロジェクトでは、ほかにも、佐賀県出身のモデル・吉松育美さんが地域の美しいものに出会う旅「6分間のショートトリップ」、佐賀放送局に眠る膨大な映像から地域の歴史を感じる「プレーバック佐賀」など、さまざまなコンテンツがあります。ぜひ特設サイトもご覧ください。