ヴァンフォーレ甲府 ACLの舞台裏に密着 山梨から世界へ
- 2024年02月05日
2022年 天皇杯で優勝し、ACL(アジアチャンピオンズリーグ)に挑むことになったヴァンフォーレ甲府。
クラブ史上初の大舞台に挑む選手、そしてスタッフの姿を追った。
ヴァンフォーレが世界とつながる日~初の国際大会ACLの舞台裏に密着~
2022年10月、J2チームでありながら歴史的な勝利をあげ、天皇杯優勝。初のビッグタイトルを獲得したヴァンフォーレ甲府。
天皇杯王者として、ACLへの出場権を得ました。
そして、それは小さな地方クラブにとって一大プロジェクトが始まった瞬間でした。
世界に挑む地方クラブ 戦いの始まり
ヴァンフォーレのフロントスタッフはおよそ20人で、J1のビッグクラブの3分の1以下です。そのため、全員が一丸となってプロジェクトを進めていく必要がありました。
ACLの準備の責任者として初めての国際大会出場の成功を託されることになった植松史敏さん。
18年前に入社し、J1昇格と降格を繰り返すチームを見つめてきた植松さんは、2022年の天皇杯優勝でチームが新たなステージに立ったと感じていました。
ヴァンフォーレ甲府スタッフ・植松史敏さん
「ヴァンフォーレでACL行けるじゃんって。その時、思ったのは、日々できることを一生懸命やっていくことが一番の近道で、みんなで一生懸命積み上げてきた結果でACL出場が勝ち取れたんで、それはすごくいい経験でしたね」
ACL出場が決まった年から始めたのが、みずから費用を負担しての英会話のオンラインレッスンです。夢だった国際舞台のためには何でもしようと、朝4時に起きて勉強してきました。
ACL初戦に向けて、海外渡航の手続きや、AFC=アジアサッカー連盟との連絡に追われる日々は多忙ながらも充実しているといいます。
ヴァンフォーレ甲府スタッフ・植松史敏さん
「ヴァンフォーレのような地方の、規模がそれほど大きくないクラブでも世界とつながることができるというのを感じてもらって、周りの人に火がつけばうれしいです」
1次リーグ 組み合わせは…
2023年8月24日。マレーシアのクアラルンプールでACL1次リーグの抽選会が開かれ、ヴァンフォーレの対戦相手はオーストラリア、タイ、中国のクラブに決定しました。
このとき、初戦まで残り1か月。
植松さんたちスタッフはスケジュール調整、ホームページの更新など、慌ただしく準備を進めていきます。
8月末にはACL専用ユニフォームが届き、選手たちの写真撮影がおこなわれました。
胸にはクラブのエンブレムと日の丸。日本を代表して戦う証です。
入団3年目の関口正大選手はこの年の7月に選手の移籍にともなって急遽、新キャプテンに就任。特別な思いでこの大会に臨もうとしていました。
ヴァンフォーレ甲府 キャプテン・関口正大選手
「僕たちがアジアで戦うことで、山梨県内が盛り上がっていったり、ファンやサポーターの方たちが日々生きる活力になったりすればいいなと思う。僕も試練を乗り越えてもっともっと成長していかなければならない」
サポーターとともに メルボルンシティーとの初戦
初戦はアウェー、オーストラリアのメルボルンシティーと対戦することになったヴァンフォーレ。
クラブ史上初となる海外公式戦です。
サポーターたちはメルボルンへ旅立つ直前、選手たちに力強い声援を送りました。
チームの移動はエコノミークラス。荷物運びも選手たちが率先して手伝い、甲府を出発してから25時間。決戦の地、メルボルンに到着です。
準備に追われる日々を過ごしてきた植松さんも、ほっとした表情を見せました。
ヴァンフォーレ甲府スタッフ・植松史敏さん
「ちょっと涙もんというか(笑)。やっとここまできたなということで、SNSのサポーターの皆さんの投稿とか見ながら、涙するくらいのこう……感じでしたけれど、こんな大舞台にこのクラブが立てる日が来るっていうのは、本当に感激というか、うれしい限りです」
サポーターの中には、はるばるメルボルンまで応援にかけつけた人たちも。
試合前夜には、メルボルン市内のレストランに集まって決起会が開催されました。
決起会を企画した矢部智之さんは、世界各地でのサッカー観戦の経験が豊富。今回、初めて海外遠征をするサポーターたちをオンラインサロンでサポートしました。
メルボルン郊外にはヴァンフォーレのスポンサー企業の現地工場があり、そこからも応援団が。
多くの人たちの熱い思いを受けて、ヴァンフォーレの海外デビューの時が迫ります。
およそ300人のサポーターが声援を送った2023年9月20日のACL初戦。
オーストラリア王者のメルボルンシティーを相手に序盤から攻め立てたヴァンフォーレ。
試合は0-0の引き分けで、初の国際大会で歴史的な勝ち点1を手にしました。
待望のホーム戦 しかし…
舞台を日本に移しておこなわれる第2戦。
しかし、その開催に向けては大きな課題がありました。
甲府市小瀬のホームスタジアムは、「背もたれのある席が5000席以上」というACLの開催基準を満たしていません。
ヴァンフォーレが小瀬の代わりにホームとして選んだのは、日本を代表するスタジアム、東京・国立競技場でした。スモールクラブに多額の費用がのしかかります。
8月、植松さんは下見のため、国立競技場を訪れていました。
使用料や人件費など運営にかかる金額は、ホーム3試合でおよそ9000万円。赤字を覚悟しつつも、少しでも収入を増やす方策を考えなくてはいけません。
ヴァンフォーレ甲府スタッフ・植松史敏さん
「チケット収入がメインになるので、たくさんの方にチケットを購入して試合を応援していただくことが重要になってくると思いますし、収入を確保していかなきゃいけないとか、そういうプレッシャーはありますね」
試合が行われるのは平日のため、ACLの観客動員は苦戦が予想されていました。
クラブが掲げた目標は、山梨でのリーグ戦の平均およそ7400人を大きく上回る1万人。
植松さんは、これを成功させればクラブの成長につながると考えていました。
ヴァンフォーレ甲府スタッフ・植松史敏さん
「ヴァンフォーレが頑張っている姿を多くの人に知ってもらって、このチームを応援したいなとか、国立競技場で山梨のチームが試合をやるんだったらちょっと行ってみるかといった機運というか、ムーブメントが起きればいいなと思っています」
国立競技場 1万人動員へ
集客のターゲットを、ヴァンフォーレサポーターからJリーグの全てのサポーターへと広げようと、クラブが動き始めました。
東京の渋谷や新宿といった若者たちが行き交う駅にインパクトのあるポスターを貼りだすことに。
キャッチフレーズは「Jサポに告ぐ#甲府にチカラを」。
さらに、日本を代表して戦うヴァンフォーレをみんなで応援しようと、山梨出身の著名人やヴァンフォーレのサポーターたちがSNSで呼びかけ、次第にその輪が広がっていきました。
2023年10月4日、試合当日。
平日水曜日のナイトゲームにもかかわらず、明るいうちからサポーターが集い始めました。
その中には、他のチームのユニフォームを着たサポーターの姿も。ヴァンフォーレにチカラを与えに来てくれたのです。
キャプテンの関口選手もサポーターの熱気を感じていました。
ヴァンフォーレ甲府 キャプテン・関口正大選手
「ファンやサポーターが来てくれて、ヴァンフォーレ甲府のファンじゃない方もスタジアムに多く駆けつけてくれましたし、自分たちで自信をもってプレーしようと思いました」
タイの代表クラブ、ブリーラムとの一戦。
前半はお互い決め手を欠き、0対0で折り返します。
後半13分、背番号10、長谷川元希選手が投入され、流れが変わりました。
終了間際、長谷川選手がACLでのチーム初ゴールを決め、ヴァンフォーレは1対0でACL初勝利。多くのサポーターが集った国立競技場が沸きました。
発表されたこの日の入場者数は11802人。目標の1万人を大きく上回ったのです。
ヴァンフォーレの奮闘は、クラブの垣根を超えたあたたかい応援の輪を作り出しました。
ヴァンフォーレ甲府 キャプテン・関口正大選手
「日本を代表して戦っている責任感や、人を笑顔にできるすばらしい職業であるというプロサッカー選手のあり方を本当に感じた試合でした」
クラブ創設から58年。初の国際大会で初勝利。
そんな歴史的な快挙の裏には、クラブのスタッフである植松さんたちの地道な歩みがありました。
ヴァンフォーレ甲府スタッフ・植松史敏さん
「本当によかったですね。すげーやったな!っていうよりも、当たり前のことを当たり前のようにやった、それがうまくいく一番の近道かなと改めて思いました。このクラブが好きとか、このクラブに関わってくれる方々と一緒に喜び合いたい、単純にそういう気持ち。いろいろな大変なこともつらいことも乗り越えてまずは1勝できたという気持ちですね」
みごと1次リーグを突破したヴァンフォーレ。2024年2月15日からは、いよいよラウンド16が始まります。選手、そしてスタッフの世界への挑戦は、これからも続いていきます。