クローズアップ現代 メニューへ移動 メインコンテンツへ移動
2023年11月20日(月)

認知症行方不明者 1万8000人の衝撃

認知症行方不明者 1万8000人の衝撃

認知症やその疑いがあり「行方不明」になった人が全国で延べ1万8700人余りと過去最多に。この10年でおよそ2倍に増えました。中には亡くなるケースも。現場で何が?行方不明の家族を捜す人、対応に追われる警察、そして、軽度の診断や未診断の人たちが行方不明になっているという実態を独自取材。2023年、認知症基本法が成立する中、認知症になっても安心して暮らせる社会をどうやって実現していくのか。最新情報・対策も報告。

出演者

  • 永田 久美子さん (認知症介護研究・研修東京センター)
  • 高井 正智 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

認知症行方不明者 1万8,000人の衝撃

高井 正智キャスター:

“認知症行方不明者”をご存じでしょうか。認知症や、その疑いがあり、中には自分の名前や住所が言えず、自宅に帰れなくなってしまう人もいます。警察への届け出も増えていて、9割以上の方は見つかって保護されているのですが、毎年のように100人を超える方が行方不明のままで、死亡して見つかる人は2022年、1年間で491人に上っています。その実態を取材しました。

半年前から行方不明 認知症の父はどこに

およそ半年前から行方不明になっている、長崎市の坂本秀夫さん。11年前に認知症と診断されていました。

2023年4月、夕方に1人でいつもの散歩に出かけたあと、行方が分からなくなりました。

妻 悦子さん
「初めてのことだったので全く分からない。今まで迷子になることがなかったので。名前も住所も電話番号もちゃんと言えて」

警察が3日間、のべ50人で捜索しましたが、見つかりませんでした。その後は、長女の愛子さんが中心となって各地を捜し続けています。

長女 愛子さん
「雨風しのげるから、どうかなと思って」

愛子さんが活用しているのがSNSです。父親の特徴や服装などを投稿し、情報提供を呼びかけると5件の目撃情報が寄せられました。

愛子さんが注目したのが、こちら。

「似た人が、つえを2本ついて座り込んでいる」

現場の写真や地図など具体的な情報があり、捜しに行くことにしました。その場所は、自宅から100キロ以上離れた福岡市。

長女 愛子さん
「同じような経験をされた人が『隣の隣の県で見つかりました』とか、確かにありえないこともないなって。どういう手段かは分からないけれど」
長女 愛子さん
「ここっぽくない?屋根がこれ。ここに座っていたら目につくかな」

周辺を捜すこと2時間。

長女 愛子さん
「見て、あの人じゃない?」

つえを2本ついて歩く人を見つけました。しかし…

取材班
「あれはお父さんでは?」
長女 愛子さん
「ない…」

結局この日、父親の情報は得られませんでした。

長女 愛子さん
「がっかり。でも、絶対的に無駄ではない」

対応に追われる警察 今後どうなる?

全国的に増え続ける、認知症の行方不明者。警察は対応に追われています。

全国でも行方不明の届け出が多い神奈川県。毎日、県内54の警察署から行方不明の情報が寄せられています。認知症や、その疑いのある人が行方不明になる事案は「特異行方不明事案」と呼ばれるケースに含まれ、神奈川県では、この10年で7倍に増加しています。

神奈川県警察本部 人身安全対策課 角田賢吾 警部補
「ほぼ毎日、認知症高齢者の行方不明が発生しているのが現状。特異行方不明として特別な早急に発見・保護の必要性がある行方不明と位置づけています」

この日、横浜市内で80代の女性がいなくなったという通報がありました。

警察官
「自宅の住所は言えますか?」
家族
「住所は言えないかもしれない」
警察官
「名前は言えますか?」
家族
「名前は言えます」

出かけたときの服装や背丈などの特徴を聞き取り、顔写真を頼りに捜索を始めます。1時間の捜索の末、見つかったという連絡が入りました。

警察官
「一般人が『独り言を言っているおばあちゃんがいる』と通報を入れてくれた」
警察官
「大丈夫ですか。けがはないですか」
80代 女性
「ないです」
警察官
「じゃあ、ご自宅にお送りしますので」
80代 女性
「いいよ、そんなのしないで」

女性は自宅から1キロほど離れた路上にいました。通りかかった学生が心配になって声をかけたのです。最近は一般の人の通報で見つかるケースも増えているといいます。

家族
「よかったです。こんなに早く見つかって。でもちょっと思いもかけない場所でしょ。ちょっとびっくりしたけれど、皆さんに捜してもらってよかった」

その後、家族は散歩に付き添うなど、これまで以上に気にかけるようになったといいます。

一方、町なかで保護されたものの身元が分からずに警察署にやってくる人も相次いでいます。

警察官
「おうちに帰らないといけないが、住所分からない?家の住所」
男性
「家の住所?ちょっと急に言われてもな」
警察官
「それはマスクの袋だから書いていないんじゃないかな」

だれか分からない場合、県内の行方不明届と照合します。この男性は、5キロ離れた隣の警察署に届け出があったことから、妻と連絡を取ることができました。

男性の妻
「すみません、本当に。お父さん、大丈夫?」
男性
「大丈夫だよ」
男性の妻
「疲れているんでしょ」
警察官
「きょうの朝出てきたっていうけど、きょうの朝じゃない?」
男性の妻
「きのうの朝」
警察官
「きのうからなんだって」
男性
「そんなこと気にしていないから」
警察官
「でもご無事でよかった」

10月の2週間だけでも、認知症や、その疑いのある人が町なかで保護されたケースは391件に上りました(神奈川県内)。認知症の行方不明者が増え続ければ、今後、対応しきれなくなると警察は危機感をつのらせています。

角田賢吾 警部補
「当然、届け出があれば我々は一生懸命、誠心誠意、捜しますけれども、社会全体の高齢化に伴うもので、発生自体は非常に増えています。予断を許さない状況ではあります」

保護されたものの…約10年も身元不明の男性

取材を進めると、保護されたものの長期間、身元が分からないままの人がいることも分かりました。

京都市内の公園で衰弱していたところを保護された認知症の男性です。身元不明のまま、9年あまり施設で暮らしています。

取材班
「お名前、教えてもらってもいいですか?」
男性
「田中 清」
取材班
「お年はおいくつですか?」
男性
「とり年」

保護されたときに田中清と名乗り、今もその名前で生活しています。これまで京都市は戸籍を調べたり情報提供を呼びかけたりしてきましたが、今も有力な手がかりはありません。入所している施設は、今回、何か新しい情報が寄せられてほしいと取材に応じました。

NHKが全国75(県庁所在地・政令指定都市・東京23区)の主な自治体に取材したところ、身元不明のまま施設で暮らし続けている人が田中さんを含めて少なくとも5人いることが分かりました。

施設スタッフ
「何か本当はもっとしたいことがあったりとか、誰かに会いたいとか、この約10年いる中でなんの手がかりもなくこういう形でおられるので、非常に複雑なことかなと思います」

行方不明なぜ倍増? “軽度”の認知症も

なぜ、認知症やその疑いのある人が行方不明になるケースが増えているのか。専門医が背景のひとつとして指摘するのが“軽度”の認知症。行方不明になりやすいといいます。

認知症の中で軽度の人は、物忘れが出始めるものの介護の必要性が低い場合も多く、会話など日常生活にはあまり支障が無い人たちです。

1人で買い物や散歩に出かけることができる軽度の認知症の人たち。しかし、何かのきっかけで曲がる角を間違えるなどして道に迷うとパニックに陥り、冷静に行動できなくなることがあります。さらに比較的体力もあるため、より遠くに行ってしまって行方不明になることもあるというのです。

京都府立医科大学 成本 迅 教授
「高齢になっても体力もあり、アクティブにいろいろなところに外出する。認知症になっても、そういう習慣を続ける、そういったところで行方不明になりやすい」

認知症の人の家族を対象に行った調査です。行方不明になったことのある人のうち、およそ6割が介護の必要性がないか低く、認知症の症状が比較的軽度の人たちだったのです。

熊本県阿蘇市の島田八重子さんは2022年5月に行方不明になり、その2日後に亡くなっているのが見つかりました。家族が警察などとともに必死に捜したものの、自宅から4キロ離れた用水路の中で発見。死因は長時間、水につかったことによる低体温症でした。

長男 博幸さん
「まさかここにいるとは」
長女 清美さん
「全然、思いもよらないところだった」

島田さんは自宅近くを散歩するのが日課で、近所の人からも元気な人だといわれていました。一方で徐々に物忘れが多くなり、認知症が疑われるように。ただ、介護が必要なほどではなく、本人も嫌がっていたため、専門医の受診は先延ばしにしていたといいます。

長女 清美さん
「『まだ大丈夫だよね』というのがどこかにはあって。先延ばしにしていたところが悔やまれます」
長男 博幸さん
「いろいろな話をしっかり聞いてあげる。行動もしっかり見てあげる。いまはそういう後悔がいちばん大きい」

軽度の認知症と、どう向き合っていけばよいのか。模索を続けている家族がいます。

齊藤共成さんと、暁さん夫婦です。5年前、共成さんが軽度の認知症と診断されました。若いころからフルマラソンに参加したり、ボディービルに挑戦したりするなど体を動かすことが趣味の共成さん。

齊藤共成さん
「私は走るのが速いから、こういうもの(大会)に出るのが大好き」

今も1人で散歩したり、ジョギングしたりするのを楽しみにしています。しかし、2023年になって何度も行方不明に。9月には3日戻らず、15キロ離れた場所で警察に保護されました。できるだけ本人の楽しみを奪いたくないと考えている暁さん。ただ、毎回付き添うのは体力的にも限界があるため、対策をすることにしました。

妻 暁さん
「取れないように縫い付けてある。これにするようになってから本当に気が楽」

位置情報を知らせる小型の発信器。共成さんの靴に付け、どこにいるかスマートフォンで常に把握できるようにしたのです。

この日、朝5時から共成さんは日課の散歩に出かけました。

妻 暁さん
「やきもきタイム。気が休まらない。帰ってくるまで」

ところが、いつもなら帰宅するはずの7時になっても帰ってきません。雨が降り始めたため、暁さんはスマートフォンをたよりに捜しに行くことにしました。

妻 暁さん
「完全に迷っていますね」

位置情報のデータが送られてくるのは5分に1回。タイムラグがあり、なかなか見つけることができません。暁さんは警察に通報しました。

妻 暁さん
「夫が行方不明になっていまして、2時間近く走り回っても、どうしてもつかまらない」

自宅の周辺を3時間にわたって捜しました。

そして午前10時。

妻 暁さん
「お父さん、よかった」

道路脇でたたずんでいた共成さんを見つけました。

齊藤共成さん
「ご心配をかけます」
妻 暁さん
「ホッとしました」

暁さんは、不安は尽きないものの、夫の自由を制限するよりも好きなことをなるべく長く続けられる方法をこれからも模索したいと考えています。

妻 暁さん
「もう何もできないではなくて、(本人が)何かやりたい気持ちはまだある。私にもできるかぎりはやらせてあげたい気持ちがもちろんある」

本人・家族ができる対策

<スタジオトーク>

高井 正智キャスター:
番組で取材した行方不明の方、そして身元不明の方について心当たりのある方、こちらまでご連絡をください。

左から行方が分かっていない鳥取県の荒川さん。長崎県の坂本さん。そして、いちばん右、身元不明で京都府で見つかった田中清さんと名乗る男性です。

きょうのゲストは、認知症行方不明者の問題に取り組んでいる永田久美子さんです。亡くなって見つかった方のご家族の言葉、本当に胸が締めつけられるわけですが、今回は深刻なケースにつながる前に防ぐためのポイントを教えていただきます。

“認知症行方不明者”防ぐポイント
・早期発見

まず「早期発見」とあります。これはどういうことでしょうか。

スタジオゲスト
永田 久美子さん (認知症介護研究・研修東京センター)
認知症行方不明者の問題に取り組む

永田さん:
早く見つかれば、ご本人が遠くまで行ったりとか消耗しないで済む。一刻も早く見つけることが大事で、そのためにも姿が見えないなとか、戻ってこないなと思ったら、迷わず家族とか周りの方が警察に「いないんだ」と通報することが本当に必要です。迷っている間にもう命の危険が高まってしまいます。

高井:
早く見つけるために、まずは早く通報をすることが大事だということですね。早く見つけるために欠かせないのが「周囲の助け」ですけれども、ご本人やご家族ができることはこちらです。

“認知症行方不明者”防ぐポイント
・周囲の助け
地域の人と情報共有
「SOSネットワーク」への事前登録

地域の人と情報共有、「SOSネットワーク」への事前登録とあります。どういうことでしょうか。

永田さん:
隠す時代ではないです。認知症は当たり前で「このごろちょっと変化があるんだ」「ちょっと見守ってほしい」とか、本人も家族も、周りの方とか友達とか、いつも行きつけのお店屋さんとか、怖がらずにちょっとひと言、言うことが、そのあとの見守りとか何かあったときの声かけの強力な力になっていきます。

高井:
これは、認知症だということを明確に言わなくてはならないものですか。

永田さん:
認知症ということにハードルがあるなら、それよりも周りが配慮してくれたり、声かけしてくれることが大事ですので、認知症とあえて言えなくても、まずは「ちょっと見守ってね」と言えることが大事です。

高井:
そして「SOSネットワーク」への事前登録。

永田さん:
ちょっと道に迷ったり心配が出てきたりしたら、市町村のほうで早めに登録をしておいて、そのことでいざとなったらスムーズに捜すためのネットワークや、ふだんの見守りをする、そんなネットワークがありますので、お住まいの市町村の情報、認知症の方への支援の一覧表とかホームページでもそういった情報がありますので。

高井:
まとまっているんですね。

永田さん:
そうですね。うちの町でどんなものがあるか、事前にちゃんと知って使えるものはぜひ使ってほしいと思います。

高井:
そして、認知症のご本人との向き合い方、ここも大事になってくるわけですが。

“認知症行方不明者”防ぐポイント
・“外出力”を伸ばす

こちら「“外出力"を伸ばす」とあります。

永田さん:
ここからが新しい鍵になると思います。今まで行方不明のことは行方不明になったらどう捜すかとか、なってからの対処が主だったけれども、これからはこれだけ認知症の方が増えるし、ご本人には分かる、できる力が相当ありますので、閉じ込めたり外に出さなかったりというよりも、どんどん外に出て、本人なりに工夫したり、つながりを増やしたり、本人が外出しても大丈夫な力を保ち、伸ばすことが重要です。

高井:
外出すると対応する力もついていくと?

永田さん:

ご本人たちが編み出したものにヘルプカードというものがあります。自分が何をしたいかとか、ちょっと困ったときにこれを手伝ってほしいというのをご本人たちが書いておいて、自分で持ち歩いて必要なときに出す。連絡先とか、あるいは行きたい場所を案内してもらったりとか、これで行方不明を防げた方が結構いらっしゃいます。

高井:
裏面に「家への帰り道を教えてください。目印は○○保育園です。そこまで行けば帰れます」と。

永田さん:
こうした道のこととかバスの乗りかえのこととか、タクシーでどう降りるかとか、ご本人なりに自分がやりたいことを分かってもらい、ちょっと助けてほしいことを書いて出す。ご家族が「行ってらっしゃい」と本人が外出するのを後押しする安心材料にもなるし、先ほどの方も、もし持っていらっしゃったらもっと早く周りが分かったり、対応できたりした方もいらっしゃったのではないかなと思います。

高井:
ご本人、ご家族の負担、本当に大きいと思うのですが、その一方で社会が、認知症の人を理解して支えていくのはまだまだちょっとハードルが高いようにも感じます。

永田さん:
そうですね。やっぱり認知症になったら怖いとか、あと今回ちょっと要注意なのですが、「行方不明」とか「死亡」とかと言うと、認知症はすごく深刻で他人事で目を背けたくなるみたいなマイナスイメージを持ってしまうんですけれども決してそうではなくて、人ごとではなく自分事であり、今の時代、認知症になっても外に出て堂々と楽しみながら自分らしく生きていく、そういう方が増えてきている。そういう本人たちの姿と声で、ずいぶん目からうろこだというくらい、認知症になってもこんなふうに生きられると。
そして、さっきの映像でもご本人がやりたいことをなんとか続けさせてあげたいという、ああいうご家族も増えておられる。でも、それを本人、家族だけで頑張らせないで、どう社会全体で守っていくか。それを推進するために2023年6月、共生社会の実現を推進するための「認知症基本法」という非常に重要な法律が成立しました。これからはもう人ごとではなく、これだけ認知症の人が増えていく時代、ともにどう生きていけるか。

今回出てくださったご家族が悪いのではなくて、社会の意識や対応力がまだ伸びていないというのが問題ですので、こうした法律ができたのをきっかけに、どの市町村、地域でも行方不明にならないようにという本格的にスタートしていく、そんな段階だと思います。

高井:
認知症の方は増え続けていますし、国の推計では2060年まで増加傾向にあると。やはり誰にでも起こり得る問題ということですね。

永田さん:
私にも高井さんにもあり得る。すぐ自分の家の周りでも日常的に起きているので、あまりかしこまったり深刻になったりしないで、ともにちょっと一緒に外に出られる町にしていこうというね、行方不明を防いでいきたいと思います。

高井:
私自身も自分の問題として捉えていきたいと思いました。永田さん、どうもありがとうございました。

見逃し配信はこちらから ※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

この記事の注目キーワード
認知症

関連キーワード