信千世氏が継ぐのは父・信夫氏の地盤
洋子夫人の孫となると、後継者候補は寛信氏の長男と長女、岸信夫氏の長男と次男の4人に絞られることになる。そのうち、国政に意欲的なのは岸信千世氏だ。フジテレビ記者から父の秘書官に転じ、すでに“政治家修業”を行なっている。安倍家に近い関係者は、安倍氏も信千世氏を後継者に考えていたという。
「洋子夫人は寛信氏の長男をなんとしても安倍家の後継者にしたかったのでしょうが、本人は固辞し続けた。その点、信千世氏は政治家をめざす姿勢がはっきりしていた。晋三さんは周囲に『(跡を継ぐのは)信千世でいいじゃないか』と漏らしていました」(同前)
しかし、洋子夫人は、信千世氏はあくまで「岸家の跡取り」と考えていた。岸信介・元首相の長女で若い頃から父の選挙を手伝い、安倍晋太郎氏に嫁いでからは夫の地盤を守った洋子夫人は、「安倍家」と「岸家」の2つの地盤、政治的血脈を守っていくことが自分の役目だという強い思いを持つことで知られる。
夫の死後、地盤を次男の晋三氏に継がせると、次は実家の岸家へ養子に出した三男の岸信夫氏を政界入りさせ、参院議員から衆院に鞍替え。岸家の本拠地、田布施町のある山口2区から当選させて岸家の“お家再興”を図った。
「商社マンだった信夫さんはもともと政治家になる気はなく、洋子夫人の兄で信夫さんの養父母である信和さん夫婦も反対でした。しかし、洋子さんは信夫さんに“あなたを養子に出したのは政治家・岸信介の後を継がせるため”と説得し続けた。政界の名門・岸家再興に懸けるすさまじい執念を感じた」(同前)
そのため、岸家の後継者は信千世氏、安倍家の後継者は安倍家、つまり寛信氏の子供たちからという気持ちが強かったようなのだ。
「それでもここ最近では、洋子さんも信千世氏を安倍総理の後継者にして、岸家のほうは信夫氏が十分政治的実績を残すまでやってから、引退後は次男に継いでもらうという考えに傾いていたようです」(同前)
ところが、その信夫氏は菅内閣の防衛相で初入閣し、岸田内閣でも再任されてこれからというときに健康不安が表面化。8月の内閣改造では防衛相を降りて総理補佐官に転じ、国葬にも電動車椅子で参列するなど体調悪化が心配されており、地元選挙区では信千世氏への世襲が早まるとの見方が強まっている。自民党山口県連関係者はこう言う。
「昨年10月の総選挙では防衛大臣の公務で東京を離れられない信夫さんに代わって信千世氏が選挙区の山口2区に入り、支持者に後継者としてお披露目も済ませた。地元では信夫さんは次の総選挙で引退、信千世氏が出馬して世代交代するというのが既定路線と見られています」