1990年6月、妻の伊藤蘭の妊娠を仕事先の撮影所で報告する水谷豊。終始照れた様子で会見に臨んだ(写真/女性セブン写真部)

1990年6月、妻の伊藤蘭の妊娠を仕事先の撮影所で報告する水谷豊。終始照れた様子で会見に臨んだ(写真/女性セブン写真部)

 そして、バブル全盛期到来。日本ではトレンディードラマが制作され、人気を得ていく一方で、実直かつ硬派な作品に水谷は出演し続けていく。

「1980年代半ばから1990年代にかけてのバブル時代は、『人生に迷って悩むという価値観は古い』という風潮があったように思うのですが、水谷さんがこれまで演じてきたキャラクター像は、まさにそれ。バブルという時代には、そぐわなかったかもしれません。

 ただ、水谷さんが若い頃から抱え続けてきた“迷い続ける青臭さ”を、トレンディードラマ全盛期にも変わらず持ち続けていたからこそ、『相棒』という作品につながったのではないでしょうか」(太田さん)

ギスギスした現場によいものは生まれない

 バブル期が過ぎた後、2000年代に入っても1990年代から引き続き、『地方記者 立花陽介』(1993〜2003年/日本テレビ系)や『探偵左文字進』シリーズ(1999〜2013年/TBS系)など2時間ドラマのミステリー作品に出演。そして『相棒』へとつながっていく。

 この頃から「こだわりが強くなった」と言うのは、『探偵左文字進』で演出を務めた映像ディレクターの池澤辰也さんだ。

「私が豊さんと出会ったのは、『探偵左文字進 シリーズ11』からです。豊さんは、同じシリーズのドラマでも、常に新しく進化させることが必要という考えをお持ちなのですが、そう考えていた頃、私が手がけていたドラマ『こちら本池上署』(TBS系)をご覧になって、ディレクターに指名してくださったようです。

 当時の豊さんは、『視聴率も大事だけど、見る人の心に響くいいものを作らないのは本末転倒。監督がそういう気持ちを持って、役者たちと作品を作っていくことが大事だ』とよく話されていたのを覚えています」(池澤さん・以下同)

 水谷がいる現場の雰囲気はどうなのか。池澤さんは「理想的な現場」と話す。

「豊さんは、『ギスギスした中によいものは生まれない』とおっしゃっていて、常にユーモアを交えながら、共演者やスタッフと談笑されています。特に、新しくきた若手スタッフや共演者に関しては積極的に話しかけ、場を和ませてくれるんです」

 水谷と共演した俳優たちも同様に語る。『探偵左文字進』(シリーズ)で秘書の麻生史子役を演じた、さとう珠緒(48才)もその1人だ。

「いたずら好きというか、ドッキリを仕かけるのが大好きで、私も引っかかってしまったことがありました(笑い)。場を和ませるために、マネジャーさんとヒソヒソと何かを企んでいるような感じで、話されていることもありましたね」(さとう)

『相棒』で、警視庁刑事部捜査第一課の三浦信輔刑事を演じた大谷亮介(67才)は、水谷の現場の姿勢に感銘を受けたという。

「いかなるときも偉そうになることはなく、演者、スタッフともに分け隔てなく、そこにいるすべての人の懸け橋となっているのが水谷さんでした。水谷さんからは、どこに、どう立てば効率的に画面に映るのか、映像の演技のイロハを教えてもらいました」(大谷)

 この和やかな現場こそがいい作品を作る—これが水谷が大切にする仕事観なのだ。

(第3回に続く)

取材・文/廉屋友美乃

※女性セブン2021年12月9日号

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