落合博満/鉄壁のアライバ二遊間を生んだ“精密ノック”
守りの花形ポジションといえば、遊撃手。1998年に中日に入団し、二塁を守った荒木雅博との“アライバコンビ”で、7度もゴールデングラブ賞を受賞したのが井端弘和だ。新人時代は高代延博、そして2004年からは監督となった落合博満のノックを受け続けた。
「高代さんはリズム感のあるノックで、選手に気持ち良く捕らせるのが上手でした。ポンポンポコンという感じで、ツーバウンド目にグラブに収まるような。
落合さんの場合は、そこからさらに足を使わないと捕れないようなノックで、決して気持ち良くはなかったですね(笑)。ノックの巧さというのは、選手を疲れさせ過ぎないコツを知っていること。ヘトヘトになるギリギリを攻めてくる」
2015年に現役を引退した井端は、巨人の1軍内野守備走塁コーチに。現役時代の自身のように、2時間半に及ぶノックを志願したのが若手の岡本和真だった。
「とにかく下手でね。だけど変な癖がついていないから素直にアドバイスを聞き入れてくれた。手がかかったようで、誰よりも手がかからなかった選手です」
森脇浩司/世界の王も認めた「球界一のノック」
球界一のノックの名手とされるのが、5球団で監督やコーチを務めた森脇浩司だ。福岡ソフトバンクの三塁手・松田宣浩は、入団した2006年から4年間、森脇のノックで鍛えられた。
「当時のことは、土の味しか覚えていない(笑)。毎日、全体練習のあと、全身泥まみれになって、森脇さんのノックを受け続けました。
三塁線、三遊間、前、後ろと、4項目に分けて、飛びつけば捕れるか捕れないかの絶妙なところに打ち分けるのが森脇さん。あのノックが土台となって、守備に関しては今が一番巧いと思います。どうしても守備の練習はおろそかにしがちなんですが、守備がしっかりしないと勝つことはできない。一球のノックも無駄にはできません」
常勝軍団を牽引する松田でさえ、「野球はノック(守備)から始まる」と話し、今年も黒土にまみれるキャンプ地・宮崎に向かった。
※週刊ポスト2021年2月19日号