「猫が好き」になった理由
千葉:仕事をしていれば踏ん張りどきも確かにありますが、無駄なことってすごく大事なんですよね。
室井:そう、大事なんですよ。
千葉:心を亡くすと書いて「忙しい」だと、よく師匠に言われました。
室井:本当に。忙しいというのはその人の心を殺しちゃうんですね。
千葉:なおのこと、現代人は己を知り、世の中を知るためにもっともっと無駄な時間を過ごすべきですね。
室井:ウチの事務所の社長はフグママって愛称で、動物が大好きな愛護の塊みたいな人なんです。野良猫とか鳥とかにいっぱい餌をやっているようなおばちゃんタイプ。でね、私があるとき猫を拾って、すごく忙しい時期だったから自分では飼えないと思って人に譲るという話をフグママにしたんです。
そうしたら自分で飼いなさいって、ものすごく叱られたんですよ。だってそんなことしたら女優をやめなきゃいけないと反発したら、「じゃあ、女優をやめてちょうだい」とクビになりかけちゃって。
千葉:あらまぁ、そんなことが……。
室井:フグママが何でそんなことを言うのか、そのときは不思議でした。よそに行くまで3日ほど手元に置いたらかわいくなってしまって、あげられなくなっちゃったの。それを知ったフグママが泣きながら電話をくれて「ありがとう、ありがとう」とメッセージが残されていました。
その後、私が女優としてお母さん役をやるようになったときに、「子育てを経験していないから母親の気持ちをうまく表現できるか心配もあったけれど、猫を飼うようになって包容力がついたわね」と、とても喜んでくれたものです。
千葉:1匹の猫との出会いで、思いがけない変化が訪れたのですね。
室井:その頃には6匹に増えていました(笑い)。最初の猫はチビと名付けて。チビと出会ったときは忙しいことを理由に猫を飼うことを無駄だと思っちゃったけど、飼うことで性格や気持ちがすごく変わったのは事実です。
千葉:役に立つ、役に立たない。忙しくする、暇である。私たちはそういった効率重視の行動基準をいったんすべて取り払うべき時期に来ているような気がします。
ライフスタイルを転換させるAIやコロナの出現を逆手にとって、無駄であること、意味のないことこそ絶対的な価値のあることだと生き方を新たにするチャンスにするべきですし、そもそも、これまでが異常な時代だったのかもしれないとも思うんです。
室井:私たちは無駄を嫌い、意味を求めすぎているということですね。