限りある時の中でいかに生きるか、奥華子 アルバムに込めた真意
INTERVIEW

限りある時の中でいかに生きるか、奥華子 アルバムに込めた真意


記者:長澤智典

撮影:

掲載:17年05月16日

読了時間:約16分

恋愛の歌だけではない新たな側面を見せた奥華子がこのアルバムに込めた想いとは

 シンガーソングライターの奥華子が17日に、通算9枚目となるアルバム『遥か遠くに見えていた今日』を発売する。昨年、メジャーデビュー10周年を記念した、ライブツアー『奥華子 10周年ありがとう! 弾き語り全曲ライブ!』を開催。このツアーではこれまでに作成してきた150曲以上を演奏、ひとつの集大成を成し遂げた。この経験で彼女は、今まで曲にしっかりと向き合ってきたことに改めて気づかされたと語っている。そして、新たな幕開けとなる本作。収録曲は、TVアニメ『セイレン』オープニングテーマ「キミの花」、テレビCMソング「プロポーズ」などのタイアップ曲を含む全14曲。アルバムタイトルは、自身をさらけ出すように書いたという「遥か遠くに」の歌詞から名付けた。恋愛の歌だけではなく、現代的なシチュエーションを描いた歌など、新たな側面も見せた彼女がどのような想いを胸に本作を作りあげたのか、その歌詞や曲に秘めた真意を聞いた。

時代や年齢という枠にとらわれず

初回限定盤

――アルバムタイトルの『遥か遠くに見えていた今日』。この言葉に強く惹かれました。

 この言葉は、最後に収録した「遥か遠くに」のサビの一節に記した<遥か遠くに見えていた未来は 今日という現実の中で>という一節から取りました。理由は「遥か遠くに」がアルバムを象徴している楽曲であり、この作品で描いた曲たちが持つテーマにピッタリだと思ったからです。

――アルバムは、女性・男性両方の目線からの想いを綴っているように感じます。それぞれの表現の違いも気になりました。

 アルバム『遥か遠くに見えていた今日』には、「Rainy day」や「思い出になれ」など幾つか男性目線の失恋曲を収録していますが、男性目線は過去にも書いてきたことでした。なぜ、男性目線なのかの理由は特にありません。とくに意識しているわけではなく、書いていくシチュエーション的に男性目線のほうが似合うなと思ったら、そういう目線で書く失恋ソングが好きなのかも知れません。

 「Rainy day」は、インディーズ時代に作った楽曲。インディーズとして活動していた頃に一度CD音源にしたことはあったんですけど、大事にしてきた歌だし、メジャーの作品としてまだ形にしていなかったからこそ、このタイミングでと思いレコーディングをおこないました。しかも今回は、バンドスタイルで録音したことでとても満足のいく形に出来たことから、「この歌を聴いてもらいたい」という気持ちが強くなり、アルバム1曲目に持ってきています。

――今の話を聴くまで、「Rainy day」が17年前に作った曲だったなんてまったく想像も出来ませんでした。この歌に限らずですが、時代の流れに左右されず、人が持つ普遍的な感情を歌にしているのでしょうか。

 個人的に、「今はもう、こういう風に歌詞は書けないな」という気持ちはありますけど…。私自身、時代や年齢という枠にとらわれることなく、いつの時代でも胸に響く歌を作るという意識は持っています。ただし、今回電子メールを題材にした「Mail」やスマホがテーマの「スタンプラリー」にも書いているように、本質的な気持ちは普遍的でもシチュエーションは現代的という歌もあります。

奥華子

奥華子

――本質として持っているのは「いつの時代でも変わることのない人の気持ち」ですよね。

 とくに意識しているわけではないですけど、自然とそういう歌を書いていることが多いですね。理由はきっと、私自身がスタンダードやエバーグリーンな歌が好きだからなんでしょうね。同じ失恋と言っても、いろんな切り口を持ってこられるじゃないですか。

――華子さんの場合、人の心を打つ失恋ソングを数多く生み出していますし、本作にも多く収録しています。これだけ多く失恋歌を書いていると、シチュエーションをどうしようかと悩むことありませんか?

 もちろん、産みの苦労や苦悩はありますけど、意外に自然と出来てしまうと言いますか。同じ失恋と言っても、いろんな切り口を持ってこられるじゃないですか。それこそ、「自分が振られるのか、自分から振るのか」だけでも捉え方が変われば、描き方のバリエーションも広がっていく。何より、一つひとつの楽曲の中に必ず「これを言いたい、伝えたい」という想いや言葉があるんです。それが一行であれ、ひと言であろうと、そこから物語を広げていけますからね。

 先に話していた「Mail」で言うなら、<どうして こんな辛いんだろう 何も悪い事してないのに>という一節もそうなんですけど。最初にその言葉とメロディが浮かんだことから、その言葉をメインに物語を膨らませ、メールを題材にした歌に仕上げました。

 「アイスクリーム」も<今じゃなきゃ駄目だと>という一節が生まれ、アイスクリームは溶けたらアイスじゃなくなるし、(温かい)ラーメンだって冷めたら美味しくなくなるようなことを恋愛に例えようと思い、「昨日電話をもらうことが大事だったのに、翌日の今日になって『どうしたの?』と電話をもらっても意味ないよ」と歌にしました。そういうことって、実際によくありますからね。

――確かに。「Mail」はいつも短いメールを返してくる人に、じつは強く心惹かれている想いを歌にしていますよね。

 届くメールにいつも苦心しながら返事の言葉を返していく。「メールをもらう度にこんな苦しい想いをするのなら、いっそのこと他の人と恋愛をしたほうが楽じゃないか?」と思うんですけど、でも「やっぱりその人のことしか好きになれない。それはどうしてなんだろう?」。そんな風に強く思う気持ちを歌にしています。

 人が恋をしている時って、その人のことしか見えなくなるじゃないですか。それで辛くなったり。そういう何とも言えない気持ちも歌にしたくて、「Mail」を書きました。本当は大切にしなきゃいけないことなのに、いつでも出来るからと後回しにしてしまい、それで関係が終わったり、相手を失くしてしまったり…。

――幸せな歌という面では、<君に何度も恋をするだろう>と告白する「プロポーズ」から、「僕」の抱いた愛情が強く強く伝わってきました。

 そこまで「好き」と思える気持ちが凄いなと思って。この歌には、「好きという気持ちを大事に思わなくちゃ」というのが大きいテーマとしてあります。

 互いの(幸せな)関係が当たり前に過ぎちゃうと、その大切さに気付けなかったり、大切に出来なかったりもするじゃないですか。「アイスクリーム」じゃないけど、そういう気持ちに終わった後で気付いても遅いんですよね。

――互いの関係が当たり前になってくると甘えが出てしまうせいか、それによってお互いの関係が壊れ、後になって身近にいた人の大切さに気付くことは、恋愛に限らず、いろんな面で実際にあることですからね。

 すごく多いですよね。今回のアルバム『遥か遠くに見えていた今日』では、そういう想いを歌っている楽曲が多いです。自分のことをさらけ出して歌うのは難しい。それって、鏡に映った私自身と向き合うことのように、すごく苦しくなるんです。

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奥華子
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