1 新海洋秩序の対応体制


  国際社会における新しい海洋秩序の形成への動きは昭和50年代に入り急速な歩みを見せ,48年に始まった第一次国連海洋法会議は複雑な利害の対立の中で審議が続けられ,深海海底開発の問題等一部についてはなお対立が残されているが,領海幅員を12海里とすることができること,200海里の排他的経済水域において沿岸国が漁業資源をはじめとする海洋資源の管轄権や海洋汚染防止のための法令の制定及び執行権を行使しうること等については概ね合意が形成されている。こうした中で,その一部を先取りする形で200海里の漁業水域ないし経済水域を設定する国が相次ぎ,その数は現在既に70か国に達しており,また,領海幅員についても同様約80か国が12海里の領海を設定するに至っている。

  各国はこのように拡張した自国の主権及び管轄権の及ぶ海洋の秩序の維持の重要性を認識し,海洋の警備業務を所掌する組織体制の確立や巡視警戒に当たる船艇,航空機の充実・強化を行っている。
  我が国も52年7月,このような国際社会における新海洋秩序形成の動きに対処するとともに,沿岸漁業の保護等を図るため「領海法」及び「漁業水域に関する暫定措置法」を施行し,領海を3海里から12海里へ拡張するとともに200海里漁業水域を設定した。更に,我が国は隣接するソ連,韓国及び中国との間で漁業,大陸棚開発について様々の国際協定を締結し,国際的に複雑に錯そうした我が国周辺海域における海洋の利用・開発についての調整を図るべく努力を払っている。
  一方,海洋二法の施行により海上保安庁が警備しなければならない海洋の面積は領海で従来の約4倍へ,漁業水域を含めれば従来の領海の50倍へと飛躍的に増加することとなった。海上保安庁は,当面は外国漁船の操業状況を勘案しつつ現有の巡視船艇,航空機を重点的に配備する海域を定め,その効率的運用により総力を挙げてこれに対処してきたが,こうした状況に恒常的にも対応できるよう,52年度以降巡視船艇,航空機の整備等新海洋秩序対応体制の整備に全力を挙げて努力してきている。著しく広大な海域において,領海警備,漁業操業秩序の維持,海洋汚染の監視取締り,日本漁船の保護等の業務を迅速・的確に,かつ,効率的に遂行するためには,卓越した機動力により主として監視活動を担務する航空機と,対象船舶への立入検査,捜査活動等を担務する巡視船艇との連携による総合的な監視取締体制を確立する必要があるとの考え方に基づき,外洋警備の効率化を図ることを目的としたヘリコプターとう載型巡視船,外洋における長期行動等に対処する1,000トン型巡視船,外洋に面した沿岸海域における行動性能等を高めた30メートル型巡視艇,監視能力の大幅な向上を図った大・中型飛行機,航続性能,吊り上げ能力等に優れた中型ヘリコプターに重点を置いて整備を行うとともに,陸上基地,通信体制の整備を行っている 〔1−6−12表〕。また,こうした施設面の整備にあわせ,要員の拡充を図るとともに職員の資質の向上のため語学教育を中心とする研修制度の充実強化に努めているが,海上保安庁は,今後,迅速・的確,かつ,弾力的にこうした国際的な業務を執行していかなければならず,そのために,巡視船艇,航空機,陸上基地,通信体制を一丸とした効率的な運用体制の一層の充実を図っていく必要があり,また,海上保安官の資質の向上を図るための教育・訓練体系についても一層の充実を図っていくことが必要である。

  また,我が国の周辺海域で資源の保護,海洋開発等の海洋に関する諸活動を安全,かつ,効率的に行っていくためには,その前提としてこうした海域を円滑裡に警備することはもち論我が国の領海,200海里水域の基準となる海岸線や遠隔島しょについて調査確定するとともに,海底の状況や自然現象,海洋の環境等,管轄権を行使し得る海域の状況について基礎的情報を十分に把握しておくことが必要である。
  このため,海上保安庁は,その調査能力を活用し,遠隔無人島しょの調査,その周辺海域の調査の原点となる測点標識の設置等を行うとともに,大陸棚の海の基本図,沿岸の海の基本図,海洋環境図等の海洋の利用,保全のための基礎的図類の作製,海象観測,海洋汚染調査,海洋データの整備及び提供等の業務を行っている。一部についてはかなりの成果を挙げてきたが,200海里の海洋は領土の10倍に及ぶ広大なものであり,社会的要請に応えるには未だ十分な状態になっていないので,今後とも船艇の効果的な活用を図るとともに高性能・高能率の調査資機材の開発等によって調査自体の効率化・高度化を図っていく必要があろう。
  なお,尖閣諸島の利用開発の可能性と必要性については,沖縄開発庁が54年度に調査を行っており,海上保安庁は他省庁とともにこれに協力している。


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