健康の豆知識

2008年11月1日

(得)けんこう教室/原因不明の「突発性難聴」/早期の受診と治療が効果的

飯塚 譲 山梨・甲府共立病院耳鼻咽喉科

 あるとき急に、片方の耳が聞こえなくなる。何時ごろか、何をしていたときか、後でいえるほどに、この症状は突然にきます。あるいは朝起きたら聞こえなくなっていたという場合もあります。

 難聴という症状は「聞こえない」という自覚のときもありますが、「急に耳にふたをされた感 じ」「ボワンボワンとした感じ」などでも自覚されます。このようなとき、同時にめまいや吐き気、嘔吐(おうと)などをともなう場合もあります。通常、片方 の耳だけで起き、難聴の程度が軽いと耳のふさがった感じだけですから、ようすを見ているうちに数週間たってしまったという人もいます。

kenkou_2008_11_01 このように突然起こる高度な難聴で、通常は片方だけで、時としてめまいなどをともない、そして原因がわからないものを「突発性難聴」といいます。

日本で増えている「突発性難聴」

 日本では現在、この病気になる人が増えてきているといわれています。2001年の調査では、受療者数は全国で推定3万5000人、人口100万人対で275人となっています。

 1973年、当時の厚生省「突発性難聴調査研究班」により、突発性難聴の診断基準(表)が作成されました。以来35年間変わらず現在まで、これに従って診断がおこなわれています。この基準では、「突然の発症」「高度難聴」「原因不明」が主な診断点です。

はっきりとした原因はわからない

 突発性難聴は原因がわかりません。いままでずいぶんと研究がされてきましたが、まだはっきりとした原因がわからないのです。逆のいい方をすれば、突然に発症した難聴のうち、原因がはっきりしているものは突発性難聴とは呼ばないのです。

 例えば、柔らかい耳垢(みみあか)の人が綿棒などで耳掃除をしていて急に聞こえなくなることがあります。これは耳垢が栓のようになって耳の穴をふさいでしまっておこるものです。耳垢をとれば症状もなくなるため、この場合は突発性難聴とはいいません。

 難病(特定疾患)にも指定されている、原因不明の突発性難聴ですが、なりやすい人など、何 らかの傾向はあるのでしょうか。40~50代の女性がやや多いともいわれていますが、これもそれほどはっきりした傾向ではありません。男女、年齢に関係な く、誰でもいつでもおこりうる病気なのです。

治療は「安静」が基本

 突発性難聴の治療法は、まだ確立されていません。「安静」とステロイド剤を用いた「薬物療法」が基本ですが、この治療法が有効であるかどうかは、まだ明らかではありません。突発性難聴の治療開始にあたり当院では、次の3点を患者さんにお伝えし、確認しあいます。

 (1)突発性難聴は原因不明であり、その治療法もまだ確立されていないこと。(2)治療法 は確立していないが、早期に安静を含めた治療が効果的であることは多数報告があり、とくに発症してから2週間以内の治療が大切であること。(3)治療によ り必ず全員が治るわけではなく、改善するかしないかは半々(50%)である。しかし、逆にいえば半数の人は改善する可能性があるということです。

 治療の原則は、安静を中心とした薬物療法で、自宅または入院による安静になります。めまいなどをともなわない場合は、体はなんともないので自宅安静を選ぶ人が多いのが実情です。しかし、難聴が高度で発症まもない場合は、なるべく入院による安静をすすめています。

 聴力の回復の仕方ですが、初期に急激に回復するものと時間をかけて徐々に改善するものがあるといわれています。治療をはじめてから、7~14日くらいの間でグイグイっと聞こえが回復してくるタイプは、予後がいいといわれています。

早期治療が回復への近道

 適切な治療時期についての研究も盛んにされていますが、まだ確定的なことはいえません。し かし、多くの医師たちの経験報告から、発症後早期に治療を始めたほうが、やはり回復がいいようです。一般的には、発症後1週間くらいまでに治療を開始した 場合、1週間以上過ぎた人よりも改善がみられるようです。

 また、聴力障害が高度であり、とくに高音域に難聴が強く、めまいをともなうタイプは治りにくいようです。聴力障害が比較的軽く、難聴も中低音域に障害が強く、めまいをともなわないタイプは治りやすいといわれています。

 それでは、「突発性難聴かな」と思ったら、どうしたらいいのでしょうか。なるべく早く、できれば数日以内に耳鼻咽喉科を受診してください。なぜなら前述のように、治療開始が早いほど回復する可能性も高いからです。

kenkou_2008_11_02  また、このように突然聞こえなくなる病気はほかにも多数あるからです。原因不明のものが突発性難聴ですから、もちろん原因がはっきりしている難聴も多くあ ります。突発性難聴か、それとも突然発症した別の難聴かの鑑別は、やはり耳鼻咽喉科医でなければむずかしいと思います。

聞こえにくいと思ったら、まず

 突発性難聴は、いつでも、誰にでも突然おこります。予防法は残念ながらありませんが、早期 の受診と、早期の治療で回復できることも多い病気なのです。ある日突然、「片耳の聞こえが悪くなった」、「耳にフタをされたように聞こえない」、こんなこ とがあったら迷わず耳鼻咽喉科を受診してください。

 イラスト・いわまみどり

いつでも元気2008年11月号

お役立コンテンツ

▲ページTOPへ