刀剣の刃文とは - ホームメイト
- 小
- 中
- 大
日本刀の刃文はどのように生み出され、どんな種類があるのか、また美しく輝く秘密について迫っていきます。
刃文とは
刃文が生まれる過程
日本刀を作るには、素材である「玉鋼」(たまはがね)を熱したのち、槌で叩いて不純物を取り除き、鏨(たがね)で切れ目を入れて折り返し、再び叩いて延ばす作業を繰り返さなくてはなりません。
これを「鍛錬」(たんれん)と言い、硬くきれいな「皮鉄」(かわがね)は15回、やわらかい「心鉄」(しんがね)は7~10回繰り返すのです。
さらに皮鉄と心鉄を組み合わせ、加熱と鍛錬を繰り返す「造込み」を行ないます。こうして硬軟一体化した玉鋼を日本刀の形に打ち出し、鑢(やすり)やセン(鉄を削ることができる道具)で整えたら、いよいよ刃文を作る「土置き」と焼き入れです。
土置きでは、砥石の粉や炭の粉末などに水を加えて練り合わせた「焼刃土」(やきばつち)を刀身に塗ります。硬くしたい刃側は薄く、それ以外は厚く塗るのが基本です。
そして、土置きした刀身を均一に熱し、刀身の温度が約800℃に達したら、水に入れてすみやかに冷却。これが刃文を生み出す焼き入れとなります。
焼き入れによって生じた刃文は、刀身の芯まで通っているため、研ぎを繰り返しても消えることはありません。
刃文は、自然に生じる模様ではなく、刀工の感性により作り出される芸術のひとつ。刃文を鑑賞することで刀工の個性や、作刀に込めた想いにも触れられるのです。
また、刀工が属する流派によっても、得意とする刃文がそれぞれ違います。
刃文の種類を見る
刃文の種類は大きく2つに区別することができ、ひとつはまっすぐな「直刃」(すぐは)。もうひとつは、波打つような「乱刃」(みだれば)です。
「刀剣ワールド財団」が所蔵する「仙台住藤原国包」(せんだいじゅうふじわらくにかね)は、典型的な直刃を焼いた、伸びやかで姿の良い作品となっています。
制作者である「国包」の家系は、大和国(現在の奈良県)「保昌派」(ほうしょうは)の流れを汲み、初代「国包」が「伊達政宗」に藩工として召し抱えられて以降、東北鍛冶随一の名工家として、明治時代まで13代続きました。
仙台住藤原国包もまた、明るく冴える刃中の出来栄えなど、仙台国包一門らしい作風を示しています。
- 銘
-
仙台住藤原国包
- 時代
-
江戸時代後期
- 鑑定区分
-
特別保存刀剣
- 所蔵・伝来
-
刀剣ワールド財団
〔 東建コーポレーション 〕
また、乱刃はさらに細かく分類することができ、山と谷が一定間隔で繰り返される「互の目」(ぐのめ)や、丁子(ちょうじ)の実を並べたような丁子は、用いられることの多い代表的な刃文です。
丁子を変化させた「重花丁子」(じゅうかちょうじ)は、丁子の花が重なり合って咲いているように観えます。
直刃と乱刃の中間を思わせる、ゆったりとした波形は「湾れ刃」(のたれば)です。波の大きさによって直刃か乱刃か分けられると言われています。
「丁子乱れ」の刃文が見事な打刀「吉岡一文字」(よしおかいちもんじ)も、刀剣ワールド財団が所蔵する名刀の1振です。
吉岡一文字は、備前国(現在の岡山県東南部)の吉井川左岸にあった赤磐郡吉岡に興った一派で、名刀を数多く残しました。
本刀も大丁子乱れ、互の目乱れ、鋒/切先(きっさき)の方へ傾いた「逆丁子」(さかちょうじ)が交じり、刃中の変化に富んだ傑作で、重要文化財に指定されています。
- 銘
-
-
- 時代
-
鎌倉時代
- 鑑定区分
-
重要文化財
- 所蔵・伝来
-
刀剣ワールド財団
〔 東建コーポレーション 〕
刃文を華やかに彩る働きの数々
刃文と地鉄には様々な変化が現れることがあり、これを「働き」と言います。
粒子が粗く星のように光って観えるのが「沸」(にえ)で、白く霞(かすみ)がかかったように観えるのは「匂」(におい)です。沸が多く現れている刃文は「沸出来」(にえでき)、匂が多ければ「匂出来」(においでき)と表現します。
また、刃文の縁から刃先へ向かって線状に伸びた働きが「足」です。文字通り足が入ったように観え、「長い足」と短い「小足」があります。足の先が鋒/切先の方を向いている場合は「逆足」(さかあし)です。
足のように伸びているのではなく、刃文の中に木の葉を散らしたように現れていれば、「葉」(よう)となります。
その他の働きとしては、直刃の縁がほつれて喰い違っているように観える「喰違刃」(くいちがいば)や、刃文の一部が三日月状となり、地鉄の中に浮かんで観える「打ちのけ」が代表的です。
打ちのけは二重、三重に現れることもあり、名刀として名高い「三条宗近」(さんじょうむねちか)作の「三日月宗近」は、三日月形の打ちのけが観えることから名付けられました。
また、刃縁が折り重なっているのは「二重刃」(にじゅうば)で、地肌側の刃文が破線状に途切れている種類も少なくありません。
鋒/切先の刃文 帽子の魅力
刀身の先端部分である鋒/切先に焼かれた刃文を、「帽子」(ぼうし)と呼びます。帽子の種類も多種多様。刀工の個性や時代による特色などが顕著に現れる部分でもあり、見逃せないポイントです。
ここでは、代表的な帽子についてご紹介していきます。
大丸帽子・中丸帽子・小丸帽子
火焔帽子
「火焔帽子」(かえんぼうし)は、鋒/切先に向かって激しく燃えるように観える帽子。
躍動感すら感じられ、相模国(現在の神奈川県)の「行光」(ゆきみつ)や、「正宗」などの名工も火焔帽子の作品を残しています。
一枚帽子
「一枚帽子」(いちまいぼうし)は、やや特殊な帽子です。
横手筋までの鋒/切先全体に刃文がある様式で、折れたり欠けたりしたときの研ぎ直しができるため、実戦の多い戦国時代に多く作られました。
備前国の刀工「祐定」(すけさだ)や「清光」(きよみつ)の作品に見られます。
地蔵帽子
刃文が波打ちながら、小丸に返った帽子は「地蔵帽子」(じぞうぼうし)です。地鉄の部分が地蔵菩薩のように観えることから名付けられました。
美濃国の「直江志津」(なおえしづ)などがこの帽子を焼いています。
焼詰帽子
鋒/切先まで刃文が延びて返らず、峰/棟(みね/むね)側にすんなり抜けていく刃文は「焼詰帽子」(やきづめぼうし)です。
代表的な刀工は、大和国の「保昌」(ほうしょう)、陸奥国(現在の東北地方北東部)の「国包」が挙げられます。
掃掛帽子
焼詰帽子と同様に返りがなく、鋒/切先に近い部分がほうきで掃いたように観える刃文が「掃掛帽子」(はきかけぼうし)。大和国の「千手院派」(せんじゅいんは)や「手掻派」(てがいは)が有名です。
乱れ込み帽子
横手筋の下から鋒/切先まで、大きく波打ち乱れている帽子を「乱れ込み帽子」(みだれこみぼうし)と言います。古刀期を通して多数制作されました。
刃文は日本刀ならではの特色
現代、日本刀は美術品として高く評価されていますが、歴史的に見れば、本来日本刀は優れた武器として生み出され、使用されてきたのです。
実戦で用いたとき、簡単に折れたり曲がったりしては使い物になりません。
しかし、刀身を硬く作れば、切れ味は良くなりますが折れやすく、一方、柔軟であれば折れにくくなりますが、打ち斬る際に曲がってしまいます。
そこで、性質の違う玉鋼を組み合わせることによって、折れにくく曲がらないという、相反する特性を両立。「折れず、曲がらず、よく切れる」という日本刀の類まれな特徴を実現しました。
この、樹木の年輪のように複雑に重ねられた玉鋼の構造が日本刀の表面に現れているのが、地肌や刃文なのです。
刃文は、刀工の個性や技量が余すところなく発揮された重要な見どころであり、制作者の特定や、真贋の鑑定にも大きな役割を果たします。
刀身の刃文や帽子、そして刃中の働きを、写真だけで子細に鑑賞することは難しいかもしれません。本物を目の前にしてこそ、刃文が纏う趣きや芸術性を実感できるのではないでしょうか。
名古屋刀剣ワールド/名古屋刀剣博物館では、人々の心を魅了して止まない名刀を多数展示。「惹き込まれるよう」という言葉に間違いはないと、まさに体験できるのです。