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インタビュー/働くあなたに伝えたいこと

大学生のころから「性教育」ひとすじ。性の豊かさも含めて伝えていきたい/埼玉医科大学 産婦人科医 高橋幸子

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中学校で性教育の講演をする高橋さん。

年間120以上の講演やテレビ・ラジオの出演などを通して、小中高生に性の知識を届けている産婦人科医の高橋幸子さん。大学生のころから「性教育に携わりたい」と考えていた背景には、性知識のない思春期の若者との出会いがあった。

高橋幸子(たかはし・さちこ)
埼玉医科大学 産婦人科 医療人育成支援センター・地域医学推進センター 助教。日本家族計画協会クリニック非常勤医師。彩の国思春期研究会西部支部会長。年間120回以上、全国の小学校・中学校・高等学校にて性教育の講演を行っている。NHK「あさイチ」、「ハートネットTV」、「夏休み!ラジオ保健室~10代の性 悩み相談~」に出演、AbemaTVドラマ「17.3 about a sex」、ピル情報の総合サイト「ピルにゃん」、家庭でできる性教育サイト「命育」を監修するなど、性教育の普及や啓発に尽力。著書に『サッコ先生と! からだこころ研究所 小学生と考える「性ってなに?」』(リトル・モア)など。

「産婦人科医になってから来なさい」と言われ

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学生時代、バレー部の仲間たちと芋煮会(左から2番目が高橋さん)。

医師になる前から「性教育」に焦点を当てていた高橋さん。きっかけは、医大生として山形大学にいた頃の体験だった。

「大学5年生のころに、産婦人科で実習があったんです。不妊治療の現場で、性感染症の一種クラミジアによって不妊症になることがあるということを学びました。コンドームでクラミジアは防げるし、たとえ感染しても治療すれば治せるのに、知らないと人生の選択肢が減ってしまうことがある。そのとき『思春期の子どもたちに、性の知識を知らせなくては』と思ったんです

女子少年院へボランティアに行った友人からも、入所している少女の多くが性感染症を患っていると耳にした。

また、その友人と、「“人間と性”教育研究協議会」が開催する2泊3日の性教育に関する勉強会に参加したことで、現状と課題を認識する。そこで、あらためて「私も性教育に関わる医師になり、正しい知識を広げたい」という使命感にかられたのだった。

高橋幸子さん

学生時代のイギリス旅行での高橋さん。

大学6年生になって、東京の市ヶ谷にある「日本家族計画協会」へ見学に行き、同施設内の「思春期クリニックで働きたい」と強く思う。

「会長の北村邦夫先生に『ここで働くにはどうしたらいいですか?』と聞いたら『研修医が働くところではないから、産婦人科医になってから来なさい』と言われました

性教育に取り組む産婦人科医になるために、その環境がある大学を探し、川越にある埼玉医科大学総合医療センターで働くことにした。

医師7年目から性教育の活動をスタート

高橋幸子さん

学生時代のイギリス旅行での一コマ(右が高橋さん)。

研修医として埼玉医科大学総合医療センターで2年の経験を積み(現在の制度では5年間)、3年目から毛呂山にある埼玉医科大学病院(埼玉県毛呂山町)で働くことに。5年目に息子を出産し、育休から復帰した6年目、産婦人科専門医の資格を取得した。そんな折、子どもへの性教育に関する講演依頼が病院に舞い込んだ。

「研修医だった時には総合医療センターで助教授、当時埼玉医科大学病院の教授となっていた石原理先生が、『性教育をやりたい』という私の言葉を覚えていてくれて、私が講演を担当できることになったんです。それ以来毎年、小中高生や大学生、保護者、専門家向けに、幅広く性教育の講演をしています

その頃、同時に同大学の公衆衛生教室(現:社会医学)の大学院にも通い、無給医として病棟での診療もしていたというから、そのバイタリティはすさまじい。

医師として10年目になろうかという頃、「日本家族計画協会」で思春期の医療に関心がある医師が募集されていることを、石原教授のツテで知る。大学生の頃から10年越しに願いが叶い、思春期クリニックでも月に2回働くことになった。

「さらに、13年目くらいに、子育てとの両立や性教育講演に関わる時間を増やすために地域医学・医療センターに異動し、産婦人科の思春期外来を立ち上げてもらったんです」

性虐待の実態に驚きと怒り

思春期外来に訪れる患者は、それまで家族計画協会で診ていた思春期クリニックとは大きく様相が違っていた。

家族計画協会では、月経困難症の女の子のために低用量ピルを処方するなど、女の子がよりハッピーに過ごせるための診療を多くしていました。大学病院でもそういうイメージでいたのですが、いざ思春期外来がオープンしてみると、若年妊婦や性虐待を受けた子たちが受診に来る。例えば、児童相談所で保護された女の子に対して、性虐待の診察をするんですね。性虐待がこんなにも起こっているんだと衝撃を受けました」

幼少のころに性虐待を受けた子どもたちの多くは、性知識がないために何をされているのか気が付かない。大きくなって自分がされたことを知ったときに、深く傷つくこともある。性教育の指導に対し、これまで以上に強い使命感を覚えるようになった。

「もともとは性感染症を防ぎたいという思いでしたが、性虐待の状況を目の当たりにして、もっと早い年齢から伝えなくてはいけないと思いました。『唇と水着で隠れるところは大切な場所だから、自分で守るんだよ』というプライベートゾーンの話や、セックスの話もします。知識があれば、SOSを出せることがある。保護者に対しても『お子さんを守るため』と説明して理解を得られるよう心がけています」

子どもたちを守るためには、大人にも十分な知識が必要だという。大人たちに知識がないと、子どもからのSOSを受け取った時に、「お父さんがそんなことするわけないでしょ」「そんな短いスカートを履いているのが悪いんだよ」とSOSをはねつけ、被害にあった子どもをより傷つけることになりかねない。

『怖い』『いけない』という『性"脅"育』ではなく、性行為が豊かなコミュニケーションでもあるという情報も伝えたい。産婦人科医である私が伝えられるのは一部なので、例えば助産師さんが生命の誕生を温かく伝える、担任の先生や保護者が日常の中で伝える、などさまざまな業種の方と手を取り合って活動していきたいと考えています」

最近携わったのは、厚生労働省の「#つながるBOOK」。主に高校生向けの冊子として、さまざまな職種の専門家が力を合わせて制作した。印刷して配るほどの予算はなく、現在はインターネット上のみの公開となっている。この冊子を広めていくのが、高橋さんの直近の目標だ。

仕事が休みの日にも勉強会に参加するなど、私の生活は性教育一色です。新たな法律、専門用語も勉強しなくてはいけないし、多業種の幅広い知識も知っていかなくてはいけない。また、海外のクリニックの見学に行ったりもしています。状況が刻一刻と変わっていて、遠い先のことは見えていません。だからこそ、私がいまできることを探して、活動を続けていきたいです」

高橋幸子さん

zoom取材で「#つながるBOOK」の紹介をする高橋さん。

写真提供/高橋幸子

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栃尾江美
外資系IT企業にエンジニアとして勤めた後、ハワイへ短期留学し、その後ライターへ。雑誌や書籍、Webサイトを問わず、ビジネス、デジタル、子育て、コラムなどを執筆。現在は「女性と仕事」「働き方」などのジャンルに力を入れている。個人サイトはhttp://emitochio.net

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