『部下は動かすな。』(大平信孝 著、すばる舎)の著者は、これまで1万5000人のリーダーやビジネスパーソン、会社組織に対して研修やコーチングを行ってきた人物。
数十年にわたってそうした活動を続けてきた結果、「部下は無理やり動かしてはいけない」という結論にたどり着いたのだそうです。
さらには、「部下を動かす方法」をいろいろ考えて実行してもうまくいかないのは、「ある視点」が欠けているからだともいいます。
それは「あなたは誰か?」という視点です。(中略)
あなたは、部下から見たとき、「一緒に仕事をしたい人」でしょうか?
部下から「この人の言うことなら聞こう」と思われているでしょうか?
部下から「この人のために動こう」と思われているでしょうか?
(「はじめに」より)
動かすべきは部下やチームではなく、まず動かすべき、変わるべきは「リーダー」だということ。自分を知り、自分自身をマネジメントすることからはじめる必要があるのです。
あなたがセルフマネジメントをして自分を整えると、リーダーとしてのあり方や思考、振る舞い、行動、コミュニケーションが変わります。
すると自然とリーダシップが発揮され、部下もチームも動き出すのです。(「はじめに」より)
こうした考え方に基づく本書の第3章「『セルフリーダーシップ』を発揮する方法」のなかから、「自分の『口癖』をマネジメントする」に注目してみることにしましょう。
セルフリーダーシップを発揮するためには、口癖に注目すべきだというのです。
やめるべき口癖1:「でも」「だって」
「でも」「だって」を使うと、行動しなかったことに罪の意識や後悔を感じなくてすむかもしれませんが、成長からも遠ざかることになります。さらには、自分ばかりかまわりの人のやる気も削いでいくことになるはず。
そこで著者は、「でも」は「それなら」「じゃあ」に言い換えるべきだと主張しています。「それなら、試してみよう」「じゃあ、明日朝イチでやろう」というように。
つまり、「いま、ここからどうするか」をイメージできることばを使うべきだということです。
そして「だって」の代わりに使うべきは、「だからこそ」。
「Aさんが反対していたからこそ、慎重に取り組んで絶対に成功させよう」など、うまくいかない原因よりも、うまくいく方法を探そうという発想です。(92ページより)
やめるべき口癖2:「どうせ」
「どうせ」を使うと期待感が薄れるので、部下に信頼して仕事を任せることが困難になります。その結果、部下は成長する機会を奪われ、やる気も失っていくことになるでしょう。
そこで著者は、「どうせ」の代わりに「どうせなら」を使うことを勧めています。「どうせなら、こうしてみよう」など、新しい提案やアイデアを出すきっかけにすれば、そこから可能性が生まれるからです。(94ページより)
やめるべき口癖3:「難しい」
「難しい」ということばを使えば、うまくいかなかったときの保険になるかもしれません。しかし、それが行きすぎると「うまくいかなくても仕方ないよね」というように基準を下げてしまうことになります。
それを避けるため、「難しい」の代わりには「もしできるとしたら」を使うといいそう。「この案件は難しい」というようなことが口癖になっているのなら、「この案件が、もしうまくいくとしたら…」といった具合に、創意工夫や試行錯誤の余地がある捉え方をすればいいのです。(95ページより)
やめるべき口癖4:「部下のことがよくわからない」
「わからない」は思考停止、行動停止、責任放棄するために都合のいいワード。しかし「わからない」と口にした瞬間から、それは苦手事項になってしまうはずです。
だからこそ、「わからない」ではなく「わからないからこそ」を使うべきだと著者は主張しています。(96ページより)
やめるべき口癖5:「忙しい」
誰にでも1日24時間は公平に与えられています。
にもかかわらず「忙しい」と口にしてしまうのは、優先順位が不明確か、仕事を抱え込みすぎているか、予定を詰め込みすぎているから。
そこで「忙しい」ということばは使わないと決め、言い換えるなら「忙しくて燃える」などポジティブな表現をすべき。(97ページより)
口癖は、自分だけでなく、他人にも影響を与えます。
悪い口癖であれば当然周りの士気やモチベーションを下げることになります。
部下に動いてほしいと思っているのに、動けなくさせているのは自分の言動が原因かもしれません。(97ページより)
だからこそ、まずは自分の口癖を振り返ってみるべき。ところで、こうして並べてみるとこれら5つの口癖がすべて「言い訳」であることがわかります。どこかの機会で、そのことに気づく必要があるのです。
意識すべきポイントは、事実を見ること。
振り返りの評価で歪めたり、正当化したりしては意味がありません。自分にとっては耳の痛い事実であっても、「あれは言い訳だったな」と思うことは、素直に認めていきましょう。(99ページより)
たしかにそうすれば、部下との関係にも変化が出てきそうです。
リーダーシップを発揮するために必要なのは、人を惹きつけたり動かしたりする特別な才能でも、高度なテクニックでもないと著者は断言しています。これらは、土台が整ったうえで初めて功を奏するのだとも。そんな土台を強固なものにするため、本書を参考にしたいところです。
Source: すばる舎/Photo: 印南敦史