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2023.04.25

又吉直樹「“威張らずに尊敬される人”が一番カッコいい」

この春10年ぶりのエッセイ集『月と散文』を上梓した芸人・作家の又吉直樹さん。コロナ禍のなかで書き溜めた文章に加筆・修正、さらに書き下ろしも加えた一冊です。新作への思いと共に又吉さんが思うカッコいい人についても聞いてみました。

CREDIT :

文/秋山 都 写真/内田裕介(Ucci) 編集/森本 泉

又吉直樹 LEON.JP
桜の花弁がヒラヒラと舞う中、真っ白なスカジャンでふらりと現れた又吉直樹さん。この春10年ぶりにエッセイ集『月と散文』を上梓しました。累計16万部超のベストセラーとなった前作のエッセイ集『東京百景』から10年……この間に小説『火花』が芥川賞を受賞。「ピース」の相方である綾部祐二さんは渡米し、又吉さんをとりまく環境は大きく変わりました。

そんななか、コロナ禍にあったこの3年間に書き溜めた150篇を超える文章や自由律俳句の中から選び、加筆・修正したものに、10話を超える書き下ろし原稿を加え、全66話をまとめた『月と散文』は、まさに“又吉直樹の今”が収録された一冊となりました。コロナ禍で多くの芸人が舞台に立つ機会を失っていた際、又吉さんが考えていたこととは? 青春時代を描いた『東京百景』と異なり、40代を迎えた又吉さんの眼に映る日々とは?

大きさも色も形も毎日違う月を眺めるのが好き

—— 『月と散文』に収められた文章は、又吉さんのオフィシャルコミュニティ「月と散文」で発表されたものがベースとなっているのですね。

又吉直樹さん(以下、又吉) ぼくは毎月、渋谷で「実験の夜」というライブを行っていたんですが、コロナ禍で無観客になったり、ステージ上でもマスクをしなくてはならなかったりとなかなかしんどい状況が続いていました。ちょうど100回を迎えたこともあり、このライブを終了させようとなった時に、代わりに何か発信できる場所をつくろうと考えたのが、オフィシャルコミュニティ「月と散文」です。なので、当初はお笑いライブを書くことで表現するようなつもりもありました。

—— 週に3回文章をアップされていたそうですが、ネタ探しにご苦労されたのでは?

又吉 当時はどこかへ出かけることもままならないような状況で、芸人仲間もトークのネタがないと困っていましたね。でも、ぼくは何もないなら「何もない」と書けばいいかな、と(笑)。もともと歩くのが好きでよく散歩しているんですが、自粛期間中は不要不急の外出を避けるということでしたので、夜、毎日1~2時間は歩いていました。最長で14キロ、多摩川を超えて神奈川まで行ったこともあります。
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又吉直樹 LEON.JP
—— その夜の散歩でお供にしていたのが今回のエッセイ集のタイトルにもある“月”なのでしょうか。

又吉 まあ……そうとも言えるでしょうね。月は今までもずっと見てきました。ひとくくりに月と言っても、大きさも色も形も毎日違いますよね。昨日はあそこにあったのに、今夜はここに出ているのか、今日は見えないな、とか。その少しずつ変化している様を眺めるのが好きなんでしょうね。

威張ってる奴ってカッコ悪いじゃないですか

—— 『月と散文』は「満月」という章と「二日月(ふつかづき)」という章に分けられていますが、これはどういう分け方なのでしょうか? そもそも、三日月は馴染み深いですが、二日月という言葉を初めて知りました。

又吉 厳密に分けているわけではないんですが、満月が子供の頃からコロナ以前までのこと、二日月はこの2~3年のコロナ禍での生活を書いたものが多いですかね。

—— 今作はカバーの絵も大変印象的です。松本大洋さんにより少年の横顔が大きく描かれているのですが、カバー紙を外すと又吉さんのお顔になっているんですね。少年から大人になった又吉さんを表現されているのかと思いました

又吉 ぼく自身、自分は大人であるとか、自立した人間であるということを見せようとは思っていません。大人としての自覚はあるけど、どこからどう見ても立派な大人だという自信はまったくありません。

—— 周囲にカッコいいなと憧れる大人の方はいらっしゃいますか?

又吉 カッコいいなと思うのは好きなことを追究している人、表現している人でしょうか。例えば「真心ブラザース」のYO-KINGさん、元「THE BOOM」の宮沢和史さん、奥田民夫さんなど、自分のスタイルをもっていらっしゃる方はカッコいいなと感じます。そもそも、ぼくにとって一番カッコいいのは“威張らずに尊敬される人”。一番ダサいのは‟威張っていて尊敬もされていない人。まだマシなのは“威張ってなくて尊敬されてない人”、その下に“威張っていて尊敬される人”の順です。威張ってる奴ってカッコ悪いじゃないですか。
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又吉直樹 LEON.JP

『LEON』読者は場の雰囲気を大切にするやさしい人

—— 最後に『LEON』のイメージをお聞かせいただけますか?

又吉 清潔な人が購読しているメディア、という印象です。大人になってひと通りの恋愛を経験し、公私ともに落ち着いてくると自分の身なりに気を使わなくなる人も多いと思いますが、『LEON』読者はその場に置かれた自分を常に意識して、周囲の人に不快な思いをさせないと配慮している、やさしい人たちなんじゃないでしょうか。

ぼくも、例えば今夜、夕食に出かけるお店が高級店なのであればスカジャンではなくジャケットを着ていこうという配慮はするのですが、『LEON』読者はもっと場の雰囲気を大切にする、という印象があります。

—— 又吉さんが高級店で食事をしているイメージ、あまり無いかもしれません(笑)。

又吉 下町の酒場で飲んでるイメージですか(笑)? ぼく、両方好きなんですよ。下北沢や高円寺の赤ちょうちん系も好きだし、銀座なんかのきちんとしたお店で食事するのも好きなんです。それぞれの良さがありますよね。

以前、ホテルで数日間カン詰めになって原稿を書いていた際、書き終わったら絶対行こうと楽しみにしていた店があったんです。で、書き上がったので出かけたら、ヒゲぼうぼうで、恰好もラフだったせいか、席も空いているのに「今日はもうおしまいです」と断られちゃって。それでぼく、ヒゲをそって、ジャケットを着て、もう一度出かけたんです。そうしたら、入れてくれましたよ(笑)。
又吉直樹 LEON.JP

又吉直樹(またよし・なおき)

1980年大阪府寝屋川市生まれ。2003年に綾部祐二とお笑いコンビ「ピース」を結成。2015年に本格的な小説デビュー作『火花』で第153回芥川賞を受賞。その後『劇場』(2017年)、『人間』(2019年)を発表。他にエッセイ『第2図書係補佐』、『東京百景』、自由律俳句集『蕎麦湯が来ない』(せきしろとの共著)などがある。YouTubeチャンネル【渦】オフィシャルコミュニティ「月と散文」でも積極的に活動中。

又吉直樹 LEON.JP

『月と散文』

10年ぶりとなるエッセイ『月と散文』(KADOKAWA刊)は、「私もそう思った」「こんなこと、俺にもあったよな」とうなづいたり、思い出したりする身近な想いや出来事の数々が綴られた一冊。装画は漫画家の松本大洋氏が担当した。

●LEON.JPがお届けする注目の人インタビュー連載「PEOPLE NOW」はこちらです。
●特集「大人の“いい恋”してますか?」はこちらから。

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