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2022.12.09

松山ケンイチの決断。それでも今、やらなければと思った理由とは?

俳優の松山ケンイチさんが奥様である女優・小雪さんとともに「momiji」というアップサイクルブランドを立ち上げました。実は松山さんは数年前からは、地方と東京の二拠点生活を実践しています。俳優として順風満帆ともいえる人生を歩んできた彼が、なぜ二拠点生活を始めたのか、そして自身が立ち上げたブランドにはどんな思いがあるのか、お話を伺いました。

CREDIT :

文/牛丸由紀子 写真/トヨダリョウ スタイリング/五十嵐堂寿 ヘアメイク/五十嵐将寿 編集/森本 泉(LEON.JP) 取材協力/杉山絵美

松山ケンイチ LEON.JP
2002年のデビュー以来、途切れることなく話題のドラマや映画で活躍してきた俳優の松山ケンイチさん。そんな彼が奥様である女優・小雪さんとともに「momiji(モミジ)」というブランドを立ち上げました。

近年多くの企業が、サステナビリティやリユースなどの地球環境に配慮した考え方を掲げています。そんななか、これまであまり注目されず実現も困難だった“獣皮”という素材のアップサイクル(創造的再利用)を目指してスタートしたのが「momiji」です。

実は松山さんは数年前から生活拠点を地方に移し、仕事の時だけ東京にやって来るという二拠点生活を実践しています。人気俳優が仕事のリスクも顧みず二拠点生活を始めた理由は? そして、「momiji」ブランド立ち上げまでの経緯とその全容とは?  動き出したプロジェクトに対する熱い思いを語っていただきました。

俳優という立場を離れ、目指すアップサイクルブランド

── まず、この「momiji」とは、どういうプロジェクトなのでしょう。

松山 獣皮などのアップサイクルを目的としてスタートしたのがmomijiです。害獣駆除などによって得られた肉は食肉として活用されるのですが、残された皮はこれまでほとんど活用されず廃棄されてきました。その皮を使用し、地球にやさしい技術で鞣した革で作られたウェアやグッズを商品化しています。

── 現在どんなアイテムを展開されているのでしょうか?

松山 コレクションのひとつがこの(撮影で着ていた)ジャケットで、現在ポップアップイベント等でセミオーダーで受注しています。今回、銀座・和光で受注イベントを行うのですが、用意した皮の中からお客様に3枚選んでいただき、その皮でジャケットを作ります。森の中で自然についた傷が残っていたりしますが、野生の鹿の皮の味わいと鞣しの風合いを感じてもらえると思います。

その他に活動に賛同してくださったブランドとのコラボレーションも始めていて、日本初の製帽会社として創業した老舗ブランド「Tokio hat」の帽子、「Davinci」のシステム手帳、「ierib」のブーツやスリッパなどを揃えています。
松山ケンイチ LEON.JP
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── アップサイクルを目的として始められたmomijiですが、最初のきっかけはどんなことだったのでしょうか?

松山 30歳の時にハンティングを始めたことが、さまざまな気づきのきっかけでした。最初の目的は、動物を仕留めるところから肉を食べ終わるまでを自分で経験し、生き物の恩恵を受けている感覚を実体験したいと思ったんです。

── なぜその経験をしたいと考えるようになったのでしょうか?

松山 普通なら肉はスーパーマーケットで買う商品。でも、商品となる前に、それは本来ひとつの命でもあるはずですよね。肉だけではなく魚もそうだし、野菜もそうだと思います。

僕らはその肉や野菜を猟師さんや畜産業者さん、農家の方やそれを加工する方たちなど、自分ではない誰かにお願いをして、結局自分がかかわるのは最後のお金を払うところだけ。それだと、その間にある苦労や、動物なら屠殺という現実も知ることができない。それがどんなものなのかを知りたいし、知ることで目の前にある食べ物の価値観が変わるんじゃないかと考えたんです。
── 何気なく食べているものに対する素朴な疑問から始まったんですね。momijiのInstagramでは、初めてのハンティングで動物を解体する様子を見た時「すごく健康的で美しいものだと思った」と書いていたのが印象的でした。

松山 まだ免許を取る前に、狩猟の師匠に同行して鹿を撃ち、解体するところを見学させてもらったんです。自分の口に入るものが、こういうところからきているんだと素直に感動しました。この当たり前の行為は、ある意味、一番健康的なことで、これに蓋をすることの方が自分にとっては不健康だなと思ったのです。本来ならこれは生きる人全員が共有しないといけない当たり前の部分だと感じました。
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自然の中で得ることができた“足るを知る”の心

── その後、狩猟免許もとられて、ハンティングによって意識の変化のようなものがあったのでしょうか?

松山 一番大きかったのは「足るを知る」ということを実感するようになったことです。単純に言えば、過食をしなくなりました。自分にとっての必要最低限の量というのがわかるようになりました。

自分が満足する、足りているラインがどこなのかを知らないままだと、ずっと欲のままに欲しがってしまう。それが結果的に食べ残しやフードロスにつながると思うんです。

── 確かに必要以上に欲しがって作ったり、自制せずに食べたりということは大きな無駄を生みます。

松山 さらにその感覚は食べ物だけではなく、物や仕事、さらには自分の時間の使い方も同じではないかと感じるようになりました。やりたいだけ、あるいはやれるだけやってしまう。でもそれは結局自分にとって精神的な負担や肉体的な負担になることに気づき、自分できちんとセーブすることが重要なんだと。命をいただくという行為が、ある意味自分自身と向き合わせてくれるきっかけにもなりました。
── 皮については狩猟経験の中で知るようになったのでしょうか?

松山 そうですね。害獣駆除も行っていたのですが、肉は利用できても皮は使われないまま廃棄され、その処分にコストがかなりかかっていることを知ったのです。さらに皮を加工するにしても、皮を鞣す国内のタンナーが減少し、どんどん海外受注にシフトしていることも知りました。

でも、獣の皮を利用することは、原始時代、それこそ1万3000年ぐらい前から続けられてるものなんです。狩猟して手に入れた動物を、肉は食料にして、残った皮は衣料にしていた。それこそ最古のサステナブルなんです。
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▲ ネイビーブルゾン価格未定/momiji、ニット12万1000円、Tシャツ4万9500円、パンツ¥13万2000円/すべてブルネロ クチネリ(ブルネロ クチネリ ジャパン)、靴13万2000円/フラテッリ ジャコメッティ(ウィリー)
── 確かにそうですよね。かつては命をすべて無駄なく使うことができていた。

松山 害獣に関しても、以前は雪が多くて生き延びられなかったのに、温暖化の影響を受けていたり、鹿なら天敵の狼が人の手によって絶滅させられたりと、環境が崩れることで数が増え、害獣となっている側面もあるのです。

人間の社会や生き方自体が変化することで、さまざまな所に影響を及ぼしている。かといって人間も便利になったり物質的に豊かになっても、生きづらさや余裕のなさみたいなものは解消されていないですよね。

自然の中に入ることで自分を知ることができて、人の今置かれている状況みたいなものも何か客観的に見られるようになったような気がします。
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自分自身を知るために選んだ二拠点生活

── 東京で俳優生活をされている中で、そういう生きづらさみたいなものを感じてらっしゃったのでしょうか?

松山 常にありましたね。東京の物質的な豊かさ、お金を払えばすべて手に入るということは本当に便利だと思いますが、一方でそれは自分が走り続けなければ成り立たないものだったりするわけです。

僕は田舎出身で、自分の親も自分の祖父母も、そういう生き方をしていなかった。何か特別なことが起こるわけではないですが、もっとゆったりした豊かさがあったんです。
── その方が心の余裕があるように見えたのでしょうか?

松山 そうですね、あの時間って何だったんだろうと思うんですが、祖父母と一緒に何もしないで一緒にいられた時間が、もしかしたら自分にとっての幸せの形だったのかなと思います。

でもじゃあ、何が違うんだろうと。それを知るためにいつか農業をやりたいし、田舎に住みたいと思っていました。それで田舎に16年、東京に16年、同じ年月住んだ時に思いが強くなって、32歳の時に、1回ちゃんと客観的に田舎に住んでいろんなものを感じてみようと思ったんです。

── それで地方に拠点を設け、東京との二拠点生活が始まったんですね。

松山 子供と何か共有できるものが欲しいと思ったのも理由のひとつです。東京だと映画、テレビ、アートなど、楽しいことは共有できるかもしれない。でも人は楽しいだけではない、生きるためのスキルも持たなければいけないと感じていて。そういうことを1から子供と一緒に学びたいという気持ちがありました。子供が小学校一年生だったら、僕も父親として小学校一年生。育児の中には自分自身を知る、勉強することも含まれていると思っています。
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▲ システム手帳/momiji x Davinci x CCF(レイメイ藤井)
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── とはいえ、これだけ活躍されていて、東京を離れて生活することは大きな決断だったと思いますが……。

松山 僕にとっては、子供の小学校入学というタイミングも大きかったです。僕は東京で小学校に行く経験をしていないから、子供が何か困ったり違和感を覚えた時に何のアドバイスもできないなと思いました。子供の心を正しい方向へ持っていく方法が、僕にはわからなかった。正直に言えば、僕自身も東京での正しい生き方がわからなかったんです。なんでこんなに疲れているのか、なんでこんなに余裕がないんだろうと。

そういう状況を変えたいという気持ちが、仕事を限定してしまう怖さより勝ってしまったんです。やっぱり自分のことがわからない状態で仕事を続けていると、いつまでたってもそのままになってしまう。もう少し自分を知ったうえで、仕事を客観的に見たかった。そうすれば、もっと楽に仕事ができるんじゃないかと思ったんです。

※後編(こちら)に続きます。
松山ケンイチ LEON.JP

● 松山ケンイチ

1985年3月5日生まれ、青森県出身。B型。2002年に俳優デビュー。映画『男たちの大和/YAMATO』(2005)で注目を集め、『デスノート』(2006)でブレイク。他に映画『ノルウェイの森』(2010)、『GANTZ』(2011)、『BLUE/ブルー』(2021)他。『聖の青春』(2016)では日本アカデミー賞優秀主演男優賞、ブルーリボン賞主演男優賞などを受賞。
ドラマではNHK大河ドラマ『平清盛』(2012)で主演を務めた。他に、『A LIFE~愛しき人~』、『聖☆おにいさん 第III紀』、『日本沈没-希望のひと-』など。2023年はNHK大河ドラマ『どうする家康』、『100万回言えばよかった』(TBS)に出演予定。プライベートでは2011年に女優の小雪と結婚。2022年1月に獣皮のアップサイクルを目的としたプロジェクト「momiji(モミジ)」を夫婦で立ち上げた。

momiji レザーアイテムコレクション

会期/12月8日(木)~21日(水)
※~12月14日までウインドウディスプレイでも展示
会場/和光本店4F
住所/東京都中央区銀座4-5-11
TEL/03-3562-2111(和光代表)
HP/https://shop.wako.co.jp/c/pickup/pickup-momiji

momiji×Tokio hat 帽子コレクション
トーキョーハットを展開する店舗にて、順次帽子コレクションのポップ
アップを開催中です。詳細は、ト ーキョーハットの公式ホームページより
ご確認ください。
HP/https://www.tokiohat.com/momiji

※momiji及びコラボレーション製品の価格や仕様、展示情報などについて、変更となる可能性があります。

※掲載商品はすべて税込み価格です

■ お問い合わせ

momiji  Instagram/@momiji2022_official
ブルネロ クチネリ ジャパン 03-5276-8300
ウィリー www.wheelieltd.jp
レイメイ藤井 03-3632-6279

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