• TOP
  • PEOPLE
  • ウーマン村本「違い=面白さ。みんなも自分の違いをもっと表現すればいい」【後編】

2022.01.29

ウーマン村本「違い=面白さ。みんなも自分の違いをもっと表現すればいい」【後編】

活動の場をNYに移すことを決めたウーマンラッシュアワーの村本大輔さん。渡米を目前に、日本のお笑い、そしてご自身のコメディへの想いを語っていただきました。

CREDIT :

写真/トヨダ リョウ 文/木村千鶴 

社会問題についてしゃべり倒す独自の芸風をつらぬく、ウーマンラッシュアワーの村本大輔さん。

その芸風からテレビ出演は激減したものの、より自由な発言ができるライブへと舞台を移して活動を続け、コアなファンの心を掴んできました。しかし、この3月で活躍の舞台をNYに移すことを決意。

渡米を目前にした村本さんに、お笑いとは何か、そして村本さん自身が伝えたいことは何か、を伺いました(渡米の理由を語った前編はこちら)。
PAGE 2

悲劇を笑いに変えられる人ってカッコいいと思いませんか

── 村本さんは近年、コメディアンを自称していますが、アメリカのコメディと日本のお笑いの違いってなんでしょうか。

村本大輔(以下、村本) アメリカにはカッコいいコメディアンがいっぱいいます。僕の好きなデイヴ・シャぺルというコメディアンは「線は、超えてみないとそこに線があるかどうかはわからない。だからどんどん線を越えていけ」と言います。日本のバラエティ番組は身内の話ばっかりで、外社会の話はない。学校の教室の後ろの方で休み時間にやる話の延長線です。誰かに批判される一線を越えるのが怖くて、ますます内側を向く。

別に無理に政府を批判しなくたっていいんですよ。コメディを使って、もっと広い意味での「私はこう思う」を伝えていっていいと思う。俺の原発のネタぐらいでたじろいてる奴らはね、所詮幼稚な生き方をしている奴ばかりなんですよ(笑)。

── テレビが安心安全、イージーな内側に向かう一方で、村本さんは、痛みを感じている人と関わり続けている。それは大変なことだと思います。正直、しんどくはないんですか。

村本 痛みがある人だから関わっているんじゃなくて、たまたま知り合った人が面白かったってこと。在日朝鮮人だから、被災者だから、障害者だからじゃない。彼らは誰も被害者面しなかった。彼らは悲劇的な話も笑い話にしていましたよ。それって、なんかカッコいいと思っちゃうんですよね。

東日本の震災の後に気仙沼に行って、津波で自分の旦那さんを亡くした女性にインタビューしたんですが、その人は同情されるのを凄く嫌がっていて、「私あれから好きな人できてないんです。震災後処女です(笑)」とかって言うんです。そういう時に、面白くてカッコいいな〜って思う。

── 痛みを持った人に寄り添う、じゃなくて、面白くてカッコいいと思ったからこそ、人間関係が生まれたということですね。
PAGE 3
村本 そう。中でも一番カッコいい男は俺の親父でね。昨年死んじゃったんですけどね。タバコを1日60本吸って、喉の癌になって、手術してそこから筆記でしか話せなくなって、1カ月後には腸にも癌が転移して、人工肛門になったんです。たった1カ月で、喉と肛門がなくなったんです。田舎に住んでるからオスメイトのトイレなんかまったくないし、声も出ないし、絶対に大変なんですよ。おかんも離婚して出て行ってるからひとり暮らしだし。

凄く心配で「大丈夫?」って連絡したら、「俺は、上がつんく♂で下が渡 哲也だ」って返信が来て。めっちゃ笑っちゃったんですよ、今のタイミングでこれ言える? って。悲観的状況の時に、クスッとさせるヤツってとても強くて、凄くカッコいいなと思う。アメリカのスタンドアップコメディアンも、悲劇に溢れてる中で自分の意見を言って、人を笑わせている。全部笑いに変えられるってカッコよくないですか。
PAGE 4
── そうですね、凄く強くてカッコいいと思います。村本さんは、子供の頃にテレビでお笑いを見て、その中に行きたいと思われたと聞きました。それは何に心が動かされたんですか。当時はそれがカッコよかった?

村本 当時は15〜6歳頃かな、なんかね、自分の環境がすごく暗かったんですよ。高校辞めてガソリンスタンドでバイトして、いつもガソリンまみれのツナギで電車を往復してた。田舎じゃあまり高校中退してるヤツはいないから、恥ずかしくて、みんなの通学時間とずらして電車に乗って。

家の中にひとりでいると、ベルトコンベアのネジが1本外れて下に落ちた感じがしました。みんな何かになろうとしているのに、自分だけこのまま何もなく、どうなってしまうんだろうって。

そういう生活の中で夜中にね、ダウンタウンの番組とか見て、ワハハって笑って、現実を忘れられる瞬間があったんです。笑いという光に飢えていたんですね。俺自身、日本の馬鹿馬鹿しい笑いに救われたから、決してお笑いを否定はしません。ただ、ただね、僕は大人にはもっと上質なコメディがあることを知ってもらいたい。今の日本では軽い笑い一辺倒になっちゃってる。

── 思春期の自分を救ってくれたのはお笑いだったけど、今の村本さんにとってはそれがコメディなのですね。

村本 はい、コメディですね。そして俺の笑いに救われたという人が来てくれると、今は自分が誰かにとっての光になれたんだろうなって、思ったりもします。
PAGE 5

“違い”をみんなが自由に表現できる社会になればいい

── 今、本当に、新しく何かが始まっているんですね。以前テレビで拝見していた時よりも、表情も柔らかく見えます。

村本 そうですか? でも、嫌な人間じゃなきゃ、お笑いなんて続けられないですよ。嫌な目線を持ってないと(笑)。

── そういうものなんですか? 村本さんはその独特な視点があるからこそ、活動を続けられているのでしょうか。

村本 アイヌの人や在日朝鮮人、沖縄の人と友達になって、感じたことがあります。彼らの共通点は、“同じにされた”ってことです。過去に同化政策というものがあって、名前を変えられ、文化を奪われ、「これで同じだ」と言われた。違いを殺されていったんです。それを歴史として知ったうえで育ったら、自分自身も同じじゃないといけないと思ってしまうことはあるんじゃないでしょうか。

これは僕らも同じです。例えば、適齢期と言われる年齢で結婚しなければ焦ってしまうとか、学歴にコンプレックスがあるのもそう。皆と同じことが安心だと刷り込まれてきた。だからこそね、違いは恐ろしさじゃない、面白さなんだってってことを、俺はコメディで伝えたいと思う。

── 日本で社会生活を送っていると「違いが殺されていく」という感情は、自分も少なからず感じています。“違っていい”をコメディで表現するのが村本さんのやり方なんですね。

村本 みんながやればいいんじゃないですか。周りに溶け込まなくていいから、自分の違いをどんどん表現すればいいと思う。歌でやりたきゃ歌えばいいし、映画だっていい。お笑いが好きならお笑いでやりゃいいし。楽しもうぜって俺は思うんですけどね。

── みんなが自由に表現できる社会は、想像すると楽しそうです。
PAGE 6

大人だって、知らないことは「教えて」って言ってもいい

── では最後に、村本さんにとってカッコいい大人とはどんな人ですか。

村本 一番恥ずかしい人間が一番カッコいいと思います。今の時代、なんかすべてがファッションっぽくなりすぎてる感じがして。もっと怒ってもいいし泣いてもいいし、自分を曝け出していいんじゃないですか。

僕は政治のことを知らなかったけど、『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日)に出ましたよ。そこで知らないことを「知らない」って言ってたら、「小学校からやり直せ」って言われました。年下の、落合陽一くんから(笑)。「憲法9条がわからないから教えてください」って言ったんですけどね。でもまたそこに行きますよ、聞きたいことと知りたいことがあるなら。知ってる顔してなんとなくやり過ごしたくない。

知らないことを子供に聞かれて、「それは知らないから、一緒に考えよう」って言える大人が一番カッコいいと思う。俺は知りたい。勉強は学生のうちで終わるものじゃない。人というのはずっと知り続ける、考え続ける生き物なんじゃないですかね。

「教えて」って言葉は大人が使わないといけない言葉なんじゃないかな。知ってる側に回るのはまだ早いんじゃない? って思います。

● 村本大輔(むらもと・だいすけ)

1980年生まれ。福井県おおい町出身。2008年に中川パラダイスとお笑いコンビ「ウーマンラッシュアワー」を結成。2013年に漫才コンクール第43回NHK上方漫才コンテスト、THE MANZAIともに優勝。AbemaTV「ABEMA Prime」を通じてニュースに触れ、興味をもちはじめたことをきっかけに、原発や沖縄基地問題、朝鮮学校など政治・社会問題を取り上げた漫才を作り、フジテレビ系「THE MANZAI 2017」で披露。劇場を主な活動の場にしており、積極的に全国で独演会を開催している。SNSでも積極的に発信。今春からは活動の舞台をNYに移すことを発表している。

登録無料! 最新情報や人気記事がいち早く届く! 公式ニュースレター

人気記事のランキングや、Club LEONの最新情報などお得な情報を毎週お届けします!

登録無料! 最新情報や人気記事がいち早く届く! 公式ニュースレター

人気記事のランキングや、Club LEONの最新情報などお得な情報を毎週お届けします!

この記事が気に入ったら「いいね!」しよう

Web LEONの最新ニュースをお届けします。

SPECIAL

    おすすめの記事

      SERIES:連載

      READ MORE

      買えるLEON

        ウーマン村本「違い=面白さ。みんなも自分の違いをもっと表現すればいい」【後編】 | 著名人 | LEON レオン オフィシャルWebサイト