「茶の湯はもうできなくなるんじゃないかって、そんな心配をお茶人はみんな持っていたと思う。今思えば笑い話ですけれど」

 侘び茶の大成者、千利休以来16代の歴史をつなぐ茶道裏千家(京都市上京区)の千宗室家元は、1年前を振り返る。

 

何もしないでおこう

 「一期一会」の言葉が示すように、人と人との出会いの時間を大切にする茶道。人が集まる茶会や対面でのお稽古など、これまでの姿はどう工夫してもリスクがある。中でも濃茶の作法は、一碗の茶を数人で飲み回す。

 「昨年3月、コロナの中でどうしたらいいんだろうと考えた時、何もしないでおこうと思った」

 最初の緊急事態宣言の際には、社中にお稽古の休止を求めた。しかし、夏を迎えても一向に収束する気配はなかった。そこで歴史をたどる。

 「ご先祖さまたちは何をしていたのだろう」

 史料を探ったところ、明治末期の記録に、濃茶の「各服点(かくふくだて)」を見つけた。一碗の茶を分かつのではなく、1人ずつに呈するのだ。明治期には、天然痘やコレラなどがたびたび流行していた。千家元の曽祖父13代圓能斎が「世間で衛生観念が高まっている中、濃茶の飲み回しに対しても躊躇される方が垣間見える」と創案の動機を示していた。

流儀だけの話ではない

 「各服点を見つけて、すぐに思ったのは、裏千家という流儀の中だけの話じゃないということ。明治時代にはすでに、こういう点前があったということを、流儀関係なく公開しようと思いました」

昨年7月に紹介された「各服点」の点前

 昨年7月、ホームページ上で誰もが見られるように動画を公開し、「参考にして工夫してください」と呼びかけた。
 
 「家元宗家というよりも、千宗室という人間はこんな工夫をしておりますということをこの1年、各服点のみならず、いろんなことについてネットでご覧になる方にお話ししてきました」

 まずは、水屋のガイドライン。密を避けるため、原則半畳以上の距離を保って着座する▽菓子は銘々皿を推奨する▽手拭きはペーパータオルを使用-。10項目の注意事項を整えた。点前に合わせて各服点の茶碗が並べやすいよう、長盆と丸盆も示した。

「こうあるべき」が変化

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