京都監査法人　マネージング・パートナー
松永幸廣さん

こどものころ田舎にいたせいか空がとても広かった気がしています。

昼間見る空は青く、どちらかというと白っぽい青さを感じました。夜になると太陽の光が消え、月や星が光り何十倍も大きい空間が待っていました。夜の空間は昼間の青空よりは大きく重く、あの向こうには何があるのだろうと疑問に思っていました。

中学３年生の時「猿の惑星」という映画を見ました。８００年も冬眠して宇宙の果ての星に行ったらそこは猿が支配していて人間が支配されている世界でした。そしてこの星は何だろうという疑問を持ったまま迎える最終シーンでは砂に埋まった自由の女神を見つけるものでした。猿の惑星は８００年先の地球だったのです。宇宙船はループして結局もとの星、地球に戻っていたのです。

宇宙の果ての向こうにまだ興味をもっていた私にはショッキングな結末でした。

宇宙の果ては壁のようで、果てに行くと循環してシールされている宇宙、すごいと思うと同時にさらに宇宙の果ての向こうに興味が湧きました。宇宙閉塞論にショックを受けた私が中学生時代に作った標語は「不確定未来の恒常的維持」というわかりにくいものでした。未来を決められてたまるか、宇宙の果てを決められてたまるかというエネルギーを持っていたように感じます。しかし未熟でした。未来は常に不確定なものなのに決められたものはあるように世の中を過大評価してしまっていました。

それ以降も空の向こうに何があるのかという疑問はもったままでいたのですが、１９９８年にSMAPの歌で「夜空ノムコウ」（スガシカオ作詞）が発売されました。すぐに買いました。「夜空ノムコウには明日がある」というのです。夜空の向こうには宇宙があると思い込んでいた私にはショックでした。私が驚いたのは、明日来るのを待つまでもなく、今、その夜空に明日を感じている素晴らしい感性です。猿の惑星ほど衝撃的ではなかったですが、新鮮な感心をしました。世界を主観的に見れることの発見でした。

コブクロの「ここにしか咲かない花」を初めて聞いた時、驚きました。「同じ数の出会いと別れ、でも割り切れなくて」と聞き、最近の小学校では割り算を教えていないのかと思いました。別れが割り切れないのだということに気付くのに少し時間がかかりました。

 同じ歌の中で「影が教えてくれるのは悲しみだけではない。うつむく顔を上げて振り返ればそこにある光に気付くだろう」という歌詞がありました。影を見ていて、影を作っているのが光であるという偉大な発見をした小渕さんのすごい感性にショックを受けました。小渕さんは尊敬する人になり以来コブクロの歌は全部買っています。

アメリカにいたときによく言われた「Look at the bright side」というのもコブクロ的に先に落ち込んでいる影を感じるとドラマになってきます。

桜から青葉の季節になり私にも生き物の息吹のわかる頃になりました。

学生時代に光化学の講義を受けたときの教授の言葉を思い出します。「人間の種としての寿命の間では教室の外にある木々の葉のような効率の光合成はできないと思います。自然というのは凄いですよ。」

空の向こうは人間の寿命の間では見えないと思いますが、こころの中の空の向こうの明日を感じて生きたいと思います。

  （まつなが・ゆきひろ＝本会副代表幹事、２０１５年５月）