実践者のご紹介

画像: おひさま進歩エネルギー株式会社 海部 岳裕さん

太陽の恵みを循環させて地域を潤す。 再エネ先進地の飯田に学ぶ、持続可能なまちづくり

おひさま進歩エネルギー株式会社 海部 岳裕さん

ふだん使っている電気。どこで、どのように作られた電気か、考えてみたことはありますか?

いま問いかけている私はというと、恥ずかしながらこれまでほとんど考えたことはありませんでした。しかし、この記事を書いている2023年3月、海外情勢の不安定化や、物価の高騰により、電気代が大きく値上がり。そんな私でも日々使っているエネルギー資源を海外に依存しているのだと痛感せずにはいられません。

そこで、近年注目を集めているのが、「エネルギー自治」という考え方。食の地産地消のように、自分たちが使うエネルギーを地域で発電し、利用するという地域主導の取り組みです。エネルギー自治により、今日のように原油価格が高騰してもエネルギーを安定的に手に入れられたり、太陽光発電や水力発電、木質バイオマス発電のように地域資源を再生可能エネルギーとして活用することでゼロカーボンにも繋がったりします。そればかりか、地域外に出ていたお金が地域に還流するなど、地域経済の活性化にも効果があるのです。

そして、そんなエネルギー自治に約20年前から取り組んできたパイオニアが長野県飯田市の「おひさま進歩エネルギー株式会社」(以下、おひさま進歩社)です。

今回は、官民連携による再生可能エネルギーのまちづくりなど、同社のユニークな取り組みの数々をご紹介します。

 

 


 

行政がルールを整備し、民間が持続可能なビジネスにしていく

−−おひさま進歩社がある飯田市は、再生可能エネルギー自治の先進地域だと聞きました。詳しく教えていただけますか?

海部さん:私たちは、飯田市と連携しながら2004年から太陽光発電によるエネルギーの地産地消のまちづくりに取り組んでいます。環境省が再生可能エネルギー(以下、再エネ)の普及に本腰を入れ始めたのが2012年なので、かなり早いですよね。

具体的には、2005年から市民出資の「おひさまファンド」を立ち上げて、そのお金で太陽光発電所を整備しました。エネルギー自治をしていく上で、最初のハードルが高い投資コストなのですが、ファンドによりたった2ヶ月で全国から2億円を超える出資が集まったのです。

さらに、認知度の向上や理解の促進のため、地域住民が多く利用する公共施設の屋根に優先的に太陽光パネルを設置しました。なかでも地域の人たちが多く利用する公民館や、将来につながる環境教育のため、保育園に設置していきました。

 


【プロフィール】
海部 岳裕(かいべ たかひろ)さん:
神奈川県生まれ。元々はシステムエンジニアだったが、2011年の東日本大震災を契機に、再生可能エネルギーに関心を持ち、おひさま進歩社でインターンを経て就職。入社後、エンジニアの経験を活かして発電監視システムの開発に従事したほか、電源開発、省エネコンサルなどにも取り組む。現在は、おひさま進歩社の取締役に加えて、おひさま発電所の電気を地域住民へ販売する関連会社である飯田まちづくり電力(株)の取締役も務める。


 

−−公共施設の屋根に太陽光発電というのは面白いですね。

海部さん:公共施設との契約は、通常1年ごとに自治体の許可が必要です。ただ、この取り組みについては公共性が高いということで、異例の20年間にわたる使用許可を飯田市が出してくれました。

さらに、当時はまだ一般的ではなかった太陽光発電を、飯田市が20年間ずっと同じ価格で買い取ることも約束してくれました。これは、いま国がやっているFIT(固定価格買取制度)の先駆け的な取り組みです。そうすることで、創業期のおひさま進歩社の事業の安定性が担保され、持続可能な経営ができるようになりました。

−−おひさま進歩社のような民間事業者と飯田市がここまで連携できているのはなぜなのでしょう?

伊藤さん:そもそも2004年に飯田市が環境省の「環境と経済の好循環のまちモデル事業」に選定されたことがきっかけで、その受け皿としておひさま進歩社が生まれたんです。飯田市は、当初から環境だけでなく、地域経済の活性化にもつながる持続可能な事業を描いていました。そのビジョンを私たちも共有しているので、行政にしかできないこと、私たち民間にしかできないことで、役割分担ができているんだと思います。

海部さん:もちろん、公益性を重視する行政と収益性を重視する民間では原理が全然違うので、連携は簡単ではありません。ですが、行政が仕組みやルールを作り、おひさま進歩社のような民間がそのルールを活用し、再エネ事業をビジネスとして持続可能にしていく。この両輪のバランスが取れているので、なんとかここまでやってこれたのかなと思いますね。

飯田市立旭ヶ丘中学校の屋根に設置されている、かやのき発電所

住民であり、プレイヤーだからこそできる地域共生型の再エネ事業

−−最初は公共施設から始まった太陽光発電ですが、一般家庭にも普及しているのですか?

海部さん:今では、公共施設だけでなく、個人宅や企業にも屋根ソーラーをつけてもらっています。「おひさま0円システム」というもので、初期投資なし、定額の電気料金を9年間支払うことでで無理なく太陽光発電を始められるサービスです。そういった取り組みもあって、現在では屋根ソーラーの普及率は全国トップの水準になっています。

−−初期コストがかからないのは嬉しいですね! そういったサービスが充実していることも大きいと思いますが、太陽光発電は飯田ではすぐに地域から受け入れられたのですか? 再エネは地域の理解を得ることが大きなハードルになる印象があります。

伊藤さん:飯田市は日照時間が長いので、屋根に取り付ける太陽熱の温水器がもともと普及していたんです。屋根に何かを取り付けることへの抵抗が少なく、太陽の恵みを生かすことへの理解が高かったのかもしれません。


【プロフィール】
伊藤 緑 (いとう みどり)さん:
長野県生まれ。地元新聞社等での勤務を経て、2015年おひさま進歩社へ就職。広報、環境学習業務を担当。地元の保育園から小中学校、高校、公民館事業で地球温暖化防止、再生可能エネルギーの普及活動に取り組む。2016年、再エネ事業者育成を目指して始まった「飯田自然エネルギー大学」の事務局を務める。


 

海部さん:もう一つ特徴的なのが、日本初の「再生可能エネルギーの導入による持続可能な地域づくりに関する条例(地域環境権条例)というもの。これは、再エネを地域みんなの共有財産と捉え、地域が主体となって利活用していこうという条例です。最近だと、地域外の企業が太陽光発電所を作るケースも多いですが、そうすると地域外にお金が流れてしまったり、景観への影響があったりと、住民感情的な問題もある。この条例は、太陽光のような自然の恵みを市民が優先的に活用して地域づくりをする権利(地域環境権)を保障するものなんです。

−−地域主導の太陽光発電が重視されているんですね。

海部さん:だからこそ、太陽光発電を地域内で普及することに理解を示していただきやすいのかもしれません。私たち自身、創業時から、地域に根差した再エネの会社としてやってきていることは誇りでもあります。

例えば、「管理できなくなった土地をなんとかしたい」という声を聞いたら、「発電所にして有効活用しますか?」と提案させてもらったり、地域の皆さんとお話をしながら開発をしています。自分たちが住民であり、プレイヤーでもあるからこそ、地域と共生したビジネスができると思っています。

農地を立体的に活用しながら、エネルギーと農作物を同時につくることができるソーラーシェアリング

 

再エネは「儲かる」から「お得」へ

−−飯田市に来てみて、太陽光発電がグッと身近になりました。海部さんはご自身の生活でも太陽光などの再エネを使われているんですか?

伊藤さん:海部さんは再エネ、フル装備ですよね!(笑)

海部さん:そうですね。うちは太陽光パネルが6kW、蓄電池が7kWh、薪ストーブもつけてます。電気はほとんど買わずに、自給自足できています。

伊藤さん:お金はどのくらいかかりましたか?

海部さん:パネルと蓄電池で200万から250万円くらいですかね。昔はFIT(固定価格買取制度)の買取価格が高かったので、余った電気を売電して儲けるみたいな話もありましたけど、今は買取価格は下がっていますし、電気代が高いのでそのぶん得している、という感覚です。それにゼロカーボンにもつながります。10年くらいで元が取れる計算ですが、今のまま電気代の高騰が続くと、もう少し早くなるかもしれませんね。

−−そのくらいの金額なら頑張れば手が届きそうですね!

海部さん:はい。それに費用がかさんでしまうことが心配なのであれば、まずは小さめのパネルを買って、電力の一部を自家発電して節約するだけでもいいと思います。蓄電池もあったほうが昼間のうちに貯めておいた電気を夜でも使えるのでおすすめですが、暮らしのサイズに合わせて無理なく始めていくのが良いと思います。

「環境学習」で仲間の輪を広げていく

−−こうやって身近な活用法を知ることができる機会があると、はじめてでも始めやすいですね。

伊藤さん:やっぱり、太陽光発電ってどんな仕組みなのか、導入すると自分の生活がどう良くなるのかとか、そういうことをしっかり理解してもらうことが大事だと思います。20年前は飯田市においても太陽光発電は珍しかったので、当時から環境学習にはかなり力を入れてきました。

−−環境学習で特に注力したのはどんなことだったんですか?

伊藤さん:先ほども少し話がありましたが、保育園に優先的に太陽光パネルを設置していきましたね。その上で、紙芝居形式のパネルシアターをたくさんやりました。「太陽光発電ってなに?」とか、「なぜ環境に優しいの?」だとか、そういう紙芝居を今でもやっています。そうして学んだことを、「電気はちゃんと消さなきゃいけないんだよ」と、親御さんにも話してくれるので、子どもが起点になって地域に太陽光の良さが広がってくれるんです。

保育園でのパネルシアターの様子

−−実は今日のカメラマンの方も元々飯田市の生まれで、保育園の頃に太陽光発電のことを習った記憶があるみたいなんです!

伊藤さん:えー! そうなんですね! たしかに、2004年から行っているので、当時保育園児だった子が、大人になっていてもおかしくないですよね。それは嬉しいですね。直接的な収益にはならない活動ですが、絶対に必要なことだと思ってやっています。

−−環境学習は子どもたち以外にもやっているんですか?

伊藤さん:はい。2016年からは、エネルギー自治に関するノウハウを共有する「飯田自然エネルギー大学」というプログラムも始めています。私たちのような地域に根差した再エネの会社はまだまだ少ないので、もっと仲間を増やしていこうと、全国から受講生を募集しているんです。最初は県の再エネ事業者育成事業の委託を受けていたのですが、その後は一般社団法人を立ち上げて、自主事業でやっています。

−−自主事業で環境学習までやられるというのは、本気度が伝わってきます。どんな人が参加されているんですか?

伊藤さん:今年で4期目なんですけど、1〜3期で49人の卒業生がいます。受講生には、再エネの事業を自分でやりたい人や、村議会の議員さん、愛知県の再エネ担当の自治体職員さん、農家さんまでさまざまですね。卒業後も、地域主導の再エネをやりたいという共通の思いを持った仲間同士で一緒に事業を立ち上げたり、仕事が生まれたり、緩やかなコミュニティになっていますね。

自然エネルギー大学には、農家、行政職員、エネルギー関連会社など様々な人が参加する

 

2030年、再エネ自給率50%を目指して

−−おひさま進歩社の取り組みを起点に、再生可能エネルギー自治の輪が広がりつつあるんですね。

海部さん:私たちももっと規模を拡大させていきたいと思っています。2030年までに飯田市で消費されるエネルギーの50%を地域の再エネで賄っていくのが目標です。ゼロカーボンを本気で実現しようと思ったら、そのくらいやらないと到底達成できません。

−−実現のために取り組まれていることはありますか?

海部さん:2023年春の稼働を目指して、市内の野底川に小水力発電所を造っているところです。太陽光発電は日中しか発電できないので、水力のような1日中発電できる電源が必要です。でも、まだまだ全然足りない。だからこそ、一緒に再エネを推進してくれるような事業パートナーや、電気を買ってくれる企業さんなど、仲間を増やしていきたいです。それにお金も必要になってきます。

−−仲間とお金。

海部さん:そうですね。「ゼロカーボンのために買おう」とこだわってオーダーしてくれる企業さんがいてくれると、私たちも安心して発電所への投資もしやすいです。電源と、お客さん両方バランスよく増えないと、事業は安定しませんから。

伊藤さん:まだまだ、地域の会合などでゼロカーボンについて説明しても、「伊藤さん、いろいろと説明してくれるけど、正直わかんないよ」と言われることもあります。でも馴染みがないのは当然のことです。それは伝える側の私たちの課題だと思って、一人ひとりにその価値を伝えられるようにこれからも努力していきたいですね。

小水力発電所が造られる野底川

Profile

写真: おひさま進歩エネルギー株式会社 海部 岳裕さん
おひさま進歩エネルギー株式会社 海部 岳裕さん
神奈川県生まれ。元々はシステムエンジニアだったが、2011年の東日本大震災を契機に、再生可能エネルギーに関心を持ち、おひさま進歩社でインターンを経て就職。入社後、エンジニアの経験を活かして発電監視システムの開発に従事したほか、電源開発、省エネコンサルなどにも取り組む。現在は、おひさま進歩社の取締役に加えて、おひさま発電所の電気を地域住民へ販売する関連会社である飯田まちづくり電力(株)の取締役も務める。
ライター:北埜航太
撮影:高橋幸司
ロゴ: くらしふと信州

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