「好きな人に相手がいる」「元恋人と復縁したい」…願いをかなえる『別れさせ屋』 トラブル多発も需要増えるその実態とは? 成就しても後ろめたさが 業界団体も問題視「倫理的にも良くない」 2023年08月10日
「気になるあの人と付き合いたいけど相手がいる」「別れて自分と付き合ってくれないかなぁ」そんな願いをかなえるとうたうのが、カップルを別れさせるプロの「別れさせ屋」。インターネットで検索するだけでも、無数のホームページが出てきます。
そんな「別れさせ屋」をめぐって今、トラブルが多発しています。本当に調査は行われているのか…?「別れさせ屋」の実態をツイセキしました。
■「別れさせ屋」 プロが明かす工作の過程
そもそも「別れさせ屋」とはどういったものなのでしょうか?「別れさせ屋」をしている探偵業者はこう説明します。
【1stグループ 相談員 望月雄介さん】
「一番多いケースは『夫が浮気をしていました。奥さんが依頼をしました。写真を撮りました…』というものです。でも、奥さんは離婚したくないと…そういう人も結構いらっしゃる。『夫に私が依頼したことをばれずに浮気相手と別れてくれる方法はないのか」というところから発展しました」
1989年に探偵業者が、浮気調査の延長として「別れさせ屋」や、元パートナーと関係を修復させる「復縁屋」を始めたということです。
「別れさせる」ための工作は、まずターゲットやターゲットのパートナーと「同じ性別の工作員」が接触することから始まります。
【1stグループ 相談員 望月雄介さん】
「『毎朝バス乗っています』となったらバス停で並んでみたりもします。スポーツジムとか行っているのは一番やりやすいです。後は、習い事に行っているとか。うち、特別に訓練した犬がいるんですよ。合図をすれば、ターゲットに『ワンワンワン!』ってペロペロなめたりするようになっています」
様々な方法で同性の工作員が、目的の相手と仲良くなります。次に「異性の工作員」を出会わせ、恋愛感情を持たせて、パートナーと別れるよう仕向けるのです。
別れた後は依頼者とターゲットが交際できるようにサポートまで…というのが一般的で、料金は成功報酬も含めると100万円を超える業者がほとんどです。決して安くはない料金の「別れさせ屋」ですが、トラブルも後をたちません。
■職場の女性に恋…「別れさせ屋」利用でトラブル 裁判沙汰に
兵庫県に住む30代の野村さん(仮名)は、2021年に職場の女性に恋をしました。
【野村さん(仮名・30代)】
「高根の花というか愛嬌があるタイプで、結構人気はありました。僕自身が結構奥手なタイプなので、女性にガンガンアプローチするタイプじゃないんで」
そして、女性に彼氏がいるか「別れさせ屋」に調査を依頼。婚約者(後に結婚)がいることが分かったため「別れさせ工作」に切り替え、約200万円を支払いました。
【野村さん(仮名・30代)】
「実際やっぱり何としても、やっぱ付き合いたいなっていう気持ちが結構強かったですね」
業者は工作を始めましたが、強引な手法で女性に警戒されてしまいました。
【野村さん(仮名・30代)】
「前の業者が本当もうストーカーみたいなやり口をしていました。例えば、相手の女性の家の前で事前に接触していない赤の他人を待ち伏せさせて『旦那が浮気しています』みたいな写真を渡したり…。結構トラブルになったので」
野村さん(仮名)は別の「別れさせ屋X」に依頼し、さらに約400万円を支払いました。
【野村さん(仮名・30代)】
「『全額返金保証』だとか、『接触率100%』とか載っていて、パッとサイト見た感じだと良さそうだったので依頼しました」
「別れさせ屋X」が提案した工作プランは、まずはターゲットの女性がどういう生活をしているか確認し、バス停で並んでいるところに女性工作員が近づき連絡先を交換します。そして食事に行って仲良くなり、相手の不満を聞き出します。
さらに、ターゲットのパートナーとも接触し、キャバクラなどに連れていき浮気心をくすぐって…というものでしたが、最初に女性の写真が送られてきたものの、1年半がたっても工作はなかなか進まず、電話や文章のみでの報告が続いたため不審に思うようになりました。
「接触」できなければ全額返金をうたっている「別れさせ屋X」。野村さん(仮名)はターゲットと接触した証拠を見せるよう求めました。
≪LINEのやり取り≫
【野村さん(仮名・30代)】
「状況を確認しておきたいので、相手とのLINEを送ってください」
【別れさせ屋X】
「大変申し訳ありませんが、LINEの共有は控えております」
証拠の提出を断られたことから、野村さん(仮名)は実際に工作が行われていなかったと主張。全額返金を求めて裁判を起こしました。
【野村さん(仮名・30代)】
「やっぱり高額な料金払ったら、当然それに見合った対価サービスを受けられるだろうと思うじゃないですか。もっと調べてからやるべきだったかなと思いますね」
–Q:もし「別れる」となったら相手の夫に対しての気持ちは?
【野村さん(仮名・30代)】
「引っかかるのは、夫の側も工作員の女に『コロッ』ていってるわけだから、それはそれで自業自得だと思います」
■実際に工作していたのか?「別れさせ屋X」を直撃 ほかのトラブルも
実際に工作をしていたのか?大阪市内にある「別れさせ屋X」を取材すると、スタッフが出てきました。
【「別れさせ屋X」のスタッフ】
「正直ないですよ。だから何を言っているのかなって」
(Q:ないというのは、詐欺ではないということですか?)
「そうです、そうです」
(Q:ちゃんとやることやっているってことですか?)
「そうですね」
(Q:連絡先は交換していると)
「そこはもう交換しているし、(担当者は)ご飯も行っていると思う」
ターゲットとは「接触」し、食事にも行っていると説明。証拠を送らない理由については、こう話します。
【「別れさせ屋X」のスタッフ】
「調査の段階では(写真を)撮るんですけど、工作の時は基本的に撮らないんで。基本的に、別れさせ屋っていうのは完全に赤の他人じゃないですか。プライベートなものを撮るっていうのも、見せるっていうのも、送るっていうのも。それを依頼人に流すのはどうかな。証拠を教えないからって、調査していないというのはおかしな話」
工作は進んでいて、返金対象ではないと主張する一方、ホームページは閉鎖され、取材を始めてから一度も電話はつながっていません。
この「別れさせ屋X」をめぐっては、ほかにもトラブルが起きているという話もあります。
【1stグループ 相談員 望月雄介さん】
「うちにくるお客様で、会社(別れさせ屋X)がおかしいとか、変だったとかで。活動内容を聞いて、『おかしいな』っていう経験は数としたら多い会社ですかね」
■元交際相手と復縁したい「別れさせ屋」に依頼するも…
こうしたトラブルはほかの業者でもありました。関東に住む40代の高橋さん(仮名)は2022年、元交際相手と復縁をしたいと「別れさせ屋」に「復縁工作」を依頼しました。2つの業者に合わせて220万円を支払いましたが、だまされたと訴えます。
【高橋さん(仮名・40代)】
「ほとんど何もしてくれないっていうのが正直な感想で。あんまり電話もつながらなかったですし。『対象者(元交際相手)が出てこないんで、何もできていません』みたいな。『え?そんなはずないんだけどな』って。仕事もしているし。『返金してほしいと言われてもできないです』で終わりで…。途方に暮れていたのが現実ですかね」
さらに、別の業者に相談しようと電話をかけると思わぬ事態が。
【高橋さん(仮名・40代)】
「声も一緒で、聞いてくる質問と私が返した答えへの対応が同じで、『えっ?』と思って。『これさっきの人じゃないの?』みたいな。『でも違う会社だよな』と思って、もう1回、1社目にかけたら、やっぱりさっきの人と全く同じで」
そもそもどうやって業者を見つけて依頼したのでしょうか。
■トラブル多発の原因? 業者選びの“わな” ランキングサイトに注意と関係者
実はインターネットで「別れさせ屋」と検索すると、様々な「ランキングサイト」が出てきます。
【高橋さん(仮名・40代)】
「ランキングサイトとうたって『頼むならここがいい』という何社かが載っていました。結局、1つの会社が違う名前を何個も持ってやっているだけで、提案する内容とかも話してくる内容、話している人も一緒だから、私は詐欺だと思います」
「別れさせ屋」自身も「ランキングサイト」には注意を呼び掛けています。
【1stグループ 相談員 望月雄介さん】
「やっぱり巧妙なんですよ。色んな比較サイトや、よく分からないランキングサイトみたいなものを作ってみたり。そもそもランキングサイトなんて、どうやってランキング作るほど依頼人の話を集めたんだっていう話になるんです。ホームページ上で(業者の良し悪しを)見分けるのは100パーセント無理だと思う。我々でも結構難しい」
■業界団体も問題視「倫理的にも…」 復縁成功も「後ろめたさ」
こうした事態に、探偵業界の健全化を目指す業界団体は、「別れさせ屋」の根絶を訴えています。
【一般社団法人 日本調査業協会 松本 国隆副会長】
「非常にトラブル自体は増えていると聞いています。お気持ちはよく分かるんですね。でも倫理的にあんまりいいことでもないですし、よく考えられて、行動を起こされる前に協会とか周りの知人、友人に相談をして、違った方向での解決を考えられた方がいいかなと思います」
2つの業者に頼んでもヨリを戻せなかった高橋さん(仮名)。あきらめきれず、さらに別の業者に依頼したところ工作がうまく行き、店で偶然を装って元交際相手と再会しました。
スタッフのアドバイス通りに行動し、復縁に成功しました。
【高橋さん(仮名・40代)】
「もう本当にうれしくて。本当感謝でしかなかったですね。後ろめたさはありますけど、『やり直せて良かった』と『絶対に幸せにしよう』の気持ちの方が強いです」
高橋さん(仮名)が費やしたお金は、数百万円に上ります。幸せを得るためなら、これは高いのか安いのか。そして、この幸せとは…
■トラブル多発も…増える需要 業界団体「認可制にする必要がある」
「別れさせ屋」のほとんどは探偵業の届け出をしています。「別れさせ屋」の行為は倫理的に問題視され、契約をめぐってトラブルも相次いでいます。
探偵業界の健全化に努める日本調査業協会の松本副会長はこう話します。
【一般社団法人 日本調査業協会 松本 国隆副会長】
「誰でも届け出を出せば、技術・知識・経験がなくても探偵を名乗ることができる。トラブルを防ぐには、認可制にする必要があります」
多くのトラブルが確認されている「別れさせ屋」。そもそも、倫理的に問題があることは、探偵業の団体が指摘するところです。なんらかの歯止めが必要な時期なのかもしれません。
(関西テレビ「newsランナー」2023年8月10日放送)