コトバのチカラ
土俵下で唇を震わせ、万感の表情を浮かべた。2019年3月24日、大相撲春場所千秋楽で10勝を挙げ、大関昇進を確実にした芦屋市出身の貴景勝=本名佐藤貴信。大一番を制し、15日間、抑え続けてきた感情がこぼれた。「全身の力が抜けた」。技に頼らず、不動の真っ向勝負を挑み続けた22歳の若武者が、兵庫県出身力士として39年ぶりの快挙を引き寄せた。
負ければ一桁の9勝にとどまり、大関昇進が遠のく栃ノ心戦。いつもより早く支度部屋を出て花道の奧で体を温め、集中力を研ぎ澄ませた。迷いのない立ち合いから低く鋭く当たると、代名詞の突きを繰り返し、一気に土俵の外へ押し出した。真骨頂の取り口だった。
突いて、押して、前に出る。「自分にできることは少ない」。そう自覚するからこそ、長所の押し相撲を伸ばすことに徹した。「少ない武器を磨く。それしか生き残る道はない」。身長175センチは幕内で4番目に低い。他の力士に比べて手足も短く、まわしを奪われれば苦しい。だが「あんこ型」の丸い体は、低く鋭い立ち合いで武器になる。
下からの圧力で相手の上体を起こす。一気に押し出し、時に反動を利用していなす。過去6場所の決まり手のうち、押し出しが最も多く4割を占め、上手投げなどの投げ技は一つもない。「どうすれば力を出しやすいのか。アマチュアの頃よりは自分を理解できるようになってきた」という。
土俵上ではほとんど感情を表に出さない。18年11月の九州場所で初優勝して賜杯を抱いた時も仏頂面。この日も取組後に?が光ったが「涙じゃない。俺は絶対に泣かない。男は勝っても負けても泣かない」と語気を強めた。
目指す姿を「勝っておごらず、負けて腐らず。日本の武士道精神を持った力士」と表現する。相撲がただのスポーツではなく、神事の一面があるという思いを秘める。先代師匠は「平成の大横綱」と称された元貴乃花親方。本名の「貴」の字は、幼少期から二人三脚で鍛錬した父佐藤一哉さんが、ファンだった貴乃花親方から取ったもの。相撲道をたたき込まれたかつての部屋は消滅したが、泰然自若を貫いた名横綱の精神は胸の中で息づく。
「関西を代表できるような力士になりたい」と語る貴景勝関にとって、大関は通過点の一つだ。母校仁川学院小(西宮市)の卒業文集にはこうつづっている。「将来は大相撲の最高位『横綱』になりたい」。平成最後の新大関は、愚直に磨いてきた押し相撲で新時代も突き進む。(山本哲志、尾藤央一)
2019/3/25- 東京パラ 車いすテニス女子シングルス 上地結衣「悔しい。でもそう思えるなら、まだもう少しやっていける」2021/9/6
- 上地結衣「私が他の国の選手だったら満足していた」 国枝の「金」思い吐露2021/9/5
- 記者コラム<サイドライン>大矢、家族とつかんだ銀2021/9/4
- 上地結衣、15年続く支援の絆 スポンサー第1号は母の勤務先 東京パラ車いすテニス2021/9/2
- 「どうすれば一緒にできる?」 車いすバスケの北間優衣 同級生考案「私ルール」が挑戦の原点2021/8/31
- 「いつか両手挙げ喜べるように」男子400Мリレー、絆に触れた夜更け2021/8/8
- “走る詩人”田中希実「今後いつ、巡り合えるか。気持ちや状況は一期一会」記者もうなる言葉のセンス2021/8/7
- 田中希実8位入賞「自分の中の常識を覆すことができた」東京五輪・陸上女子1500M2021/8/6
- 「たぶん、ゾーンに入ってる。オリンピックという空気に助けられて」田中希実、日本新で決勝へ 東京五輪2021/8/5
- 「メダルを見るまで死ねない、と馬淵先生に言われてるので」寺内健、6度目の五輪2021/8/3
- 阿部一二三「歴史を塗り替えた」詩「初めての感覚」兄妹で五輪制覇2021/7/25
- 阿部兄妹の父・浩二さん「僕らは毎日、幸せをもらっている」金メダリストの家族物語2021/7/25
- フィギュアスケート・三原舞依「氷ってこんなに滑るんだ」2020/7/22
- バスケットボール・森ムチャ「負ける気はしなかった」2020/6/7
- ソフトボール・乾絵美「上野さんの球は、砲丸のような衝撃」2020/2/19
- 高校野球・明石商、来田涼斗「代替大会も甲子園の交流試合も全勝したい」2020/6/16
- ラグビー・山中亮平「誰のため、何のためにプレーするのかがすごく明確になった」2018/12/16
- 「チームのためならウオーターボーイだってする」ラグビー世界的名手ダン・カーター、神戸を去る 2020/5/23
- 関学大アメフト前監督・鳥内氏「脳みその肉離れはない」活動自粛の過ごし方2020/5/11
- バスケットボール・テーブス海「ウイルス終息の時に…」新型コロナ拡大を受け2020/4/23
- 柔道・阿部詩、一番の恩返しは「お父さん、お母さんに金メダルをかけること」2020/2/28
- 柔道・阿部一二三 「自分自身の柔道は…」丸山戦3連敗で決意2020/2/20
- 柔道・阿部一二三「絶対にやられっぱなしでは終われない」東京五輪へ黄信号2020/2/20
- 三浦知良52歳「現役続けるのに理由なんかない。カズのまま死ぬ」2020/2/14
- イニエスタ「このクラブ、神戸の街にとって重要なタイトル」J1神戸が天皇杯初V2020/1/3
- 柔道・阿部詩「2番の表彰台に乗る感覚を味わえた」対外国勢無敗記録途絶え 2020/1/1
- 競泳・大西順子「調子が良すぎて震えた」遅咲きの大器、ゾーンを語る2019/10/2
- 飛び込み・寺内健「慣れないと知っていることが強みかも」6回目の五輪切符を手に2019/7/14