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事件現場で手を合わせる男性。容疑者の逮捕後、将太さんの友人たちが相次いで訪れ、多くの花や飲料が供えられた=神戸市北区筑紫が丘4
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事件現場で手を合わせる男性。容疑者の逮捕後、将太さんの友人たちが相次いで訪れ、多くの花や飲料が供えられた=神戸市北区筑紫が丘4
堤将太さんのスナップ写真
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堤将太さんのスナップ写真

 神戸市北区筑紫が丘の路上で2010年10月、高校2年の堤将太さん=当時(16)=が刺殺された事件で、当時17歳だったパート従業員の男(28)=愛知県豊山町=が殺人容疑で逮捕されてから、11日で1週間がたった。「捕まったぞ」「安心して休んでくれ」。遺族と一緒に情報提供を求めてきた友人たちも、事件現場や将太さん宅に足を運び、さまざまな思いを伝え、語りかけた。(井上太郎)

■もやもや

 「長かったな」。将太さんと中学、高校の同級生の男性(28)=北区=は5日夜、現場に立ち寄って花を手向けた。

 高校時代、剣道部の主将だった男性が自宅周辺でランニングを始めると、「僕のトレーニングやのに『行くわ』って。中学で野球をやめた彼の方が断然速くて、途中で見失った」。人懐っこくて優しい、自慢の友人だった。

 事件後、しばらくは喪失感でふさぎ込んだ。数年後から情報提供を募るビラ配りに参加。谷上駅前にあるバイク店への通勤で事件現場を通るたびに「犯人が捕まらないもやもやと焦り」がこみ上げていた。

 容疑者逮捕の一報には泣き崩れ、「一歩前に進んだと思う」。犯人の特徴などが記された店内のポスターをはがし、実感する。

■ツッツだから

 平成22年10月4日。将太さんと小中学校の同級生だった男性(27)=大阪市=の運転免許証に刻まれた原付きバイクの免許交付日だ。バイク好きの友を追うようにして取得した。その日の夜に、将太さんは刺殺された。「ツッツ(将太さんの愛称)免許取ったで。どこ走りに行こっか」。驚かす計画は夢に消えた。

 事件後、情報提供を募るビラ配りに加わると、男性らは連日100軒近いポスティングを続けた。協力者の輪は広がり、投函(とうかん)先は半径200メートルが1キロに、枚数は計700枚が2千枚から6千枚に。誰とでも仲良くできる-。周囲が口をそろえる、将太さんの人柄ゆえだと思う。「ツッツだから、みんなが動いた」

■何度も想像した

 幼なじみの女性(28)=神戸市中央区=は、仕事帰りにスマートフォンで容疑者逮捕のニュースを見た。「諦めたくないから、何度も逮捕の知らせを想像してきた。なのに驚いてしまって」

 中学生のとき、親と買い物中に「よお」と、無邪気に話しかけてくる将太さんに「そっとしといてよ」と思ったが、母が「幼稚園の頃と変わらずかわいいねえ」と笑っていたこと。仲間内で女の子がいじめられていないかを心配し「何か知ってたら教えてくれ」と、正義感あふれるメールを送ってきたこと。何げない思い出がよみがえる。

 逮捕の報を受け、友人に母に、片っ端から電話をかけながら歩いた。「何でって? 分からんけど、とにかく逮捕されたんやって!」。いつもの帰り道の景色が、涙でかすんだ。「やっと、やね…」

■小さな花

 女性らは6日夜、将太さんの自宅を訪ね、遺影に向かった。「良かったんかな。報われるんかな。分からんけどひとまず、安心して休んでな」

 将太さんはもう帰ってこない。心にぽっかり空いた穴が埋まることはない。容疑者が何者か、動機は何か。「全部知りたいけど知りたくない」という、複雑な心境で真相解明を待つ。

 「これ、迷惑かとも思ったけど」と、2人は将太さんの父親の敏さん(62)に大きな紙袋を手渡した。立派な花束が入っている。

 敏さんがほほ笑む。事件の直後、みんなで小銭を出し合い、近所のスーパーで小さな花を何本か買って供えてくれたのを思い出したからだ。「なんかえらい成長しとるなあ」。10年10カ月。流れた月日の重みがそこに詰まっている気がした。「ほんまにありがとう」

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