佐藤俊斗 × ポートレートVol.10|暑い日にサクッと撮れる浴衣ポートレート

佐藤俊斗
佐藤俊斗 × ポートレートVol.10|暑い日にサクッと撮れる浴衣ポートレート

はじめに

今回はモデルさんに浴衣を着てもらい神楽坂の路地裏で撮影しました。
この日はかなりの猛暑だったので、10-15分の短時間で撮影しました。短い時間の中でも作家性のある写真を残していくためのテクニックや、僕が大事にしている視点についてお話ししていければと思います。
モデルは、2回目の登場となる藤田みりあさんです。
よろしければ最後まで読んでみてください。

木漏れ日

次の写真をご覧下さい。

■撮影機材:ソニー α7R IV + SIGMA 24-70mm F2.8 DG DN Art
■撮影環境:1/160秒 f/4 ISO200 70mm

晴れた日の撮影で木漏れ日のある場所は、つい撮影したくなるスポットの一つです。
この日の撮影時刻は午後1時ごろ、日差しの強い時間帯でした。
実際にモデルさんに立ってもらうと、柔らかい印象が特徴的な木漏れ日ですがはっきりと顔に影が入ってしまい強い印象になってしまいました。

光と影

肉眼ではとても美しい木漏れ日に見えていましたが、実際に写真を撮ってみると頬に大きく影ができたり、顔全体の明暗差が強すぎたりして被写体の良さが半減してしまいました。

このように実際に木漏れ日の中に立ってもらった時に、レンズ越しの画と自分の想像に差が出ていることはありませんか? 人間の目はかなり優秀なので、より美しく情報を受け取ってしまうようです。

僕の場合、この木漏れ日の中で撮影したら綺麗だろうというイメージがまず湧き、そこから撮影に入ります。視覚的な情報をもとに実際の撮影に移ります。つまり、肉眼で見た時とレンズ越しでの微妙な見え方の違いを認識し、当初のイメージに近づける方法を瞬時に判断して撮影を進めます。実はこれがとても大切なことになります。

基本的に影の多い場所は撮影が難しいため、もし木漏れ日で撮影したい時は、肉眼で見たものに加えレンズ超しの画を予め予想し、イメージを固めてから撮ることが大切です。
もちろんイメージ通りでそのまま撮れるかはまた別問題といえるでしょう。

静止画の中にある躍動感

■撮影機材:ソニー α7R IV + SIGMA 24-70mm F2.8 DG DN Art
■撮影環境:1/80秒 f/5 ISO200 67mm
■撮影機材:ソニー α7R IV + SIGMA 24-70mm F2.8 DG DN Art
■撮影環境:1/80秒 f/5 ISO200 68mm

先ほどの正面の一枚から繊細な陰影を上手く残すために、撮影する角度を斜めに変えてシンプルに撮ることを意識しました。
この一枚はあえて顔全体に影を多めにしつつ、明暗差をあまり作らないように撮影。そして振り向きの角度で撮ることで 動きを出しています。

僕自身、普段であれば顔周りに明るい光を回すことが得意なのですが、あえてここでは影の中に少し光を残すような撮影方法にしました。
優しく当たる光がワンポイントとして、先程の強い光の写真よりも柔らかい雰囲気になっているのが分かると思います。
このように、少し見方を変えると今にも動き出しそうな躍動感のある切り取りができるので、皆さんも様々な視点からシャッターを切ってみてください。

空間全体への意識と背景への気配り

■撮影機材:ソニー α7R IV + ペンタックス SUPER-TAKUMAR 55mm F1.8
■撮影環境:1/250秒 ISO200 55mm

次に路地裏へとシーンを変えて、道の真ん中に立ってもらいました。
この一枚はNG写真にしたのですが、NGポイントとしては以下が挙げられます。

・背景と同化している
・色情報が多い
・空間とのバランスが悪い

そこで、左側に映る余分な情報を省き、奥行きと抜け感を出して撮影した一枚がこちらです。

■撮影機材:ソニー α7R IV + ペンタックス SUPER-TAKUMAR 55mm F1.8
■撮影環境:1/400秒 ISO200 55mm

2枚とも立っている場所はほとんど一緒なので、違いを見比べてみてください。

一枚目は奥行きがなく背景と同化した印象になってしまったので、被写体の後ろ側の通りに抜け感を作り、顔に光の当たる位置へ少しだけ移動してもらいました。

これをするだけで全体的にすっきりとした印象になり、光の当たる位置を調整したことによって背景の緑も被写体も全て立体的に映し出されます。また余計な視覚情報も減るのでよりシンプルになり、被写体に目がいくようになったかと思います。

加えて、この路地裏は光がとても綺麗だったのでレンズをオールドレンズに変えて撮影してみました。オールドレンズの良さは、やわらかい光を捉えられること。夏の日差しが強い時こそ、ふんわりとした光にして写真に優しげな雰囲気を出すことができます。

一瞬の表情を逃さないためにも、背景にしっかり着目しながら余分な情報を入れないように注意しつつシャッターを切ってみてください。

撮影時の視点を選ぶ 

■撮影機材:ソニー α7R IV + FE 85mm F1.8
■撮影環境:1/250秒 f/3.5 ISO200 85mm

次に、カメラを構える角度や位置についてです。
もちろん身長によっても変わりますが、みなさんは普段の撮影の際に意識をしているでしょうか。

この写真のように、上から撮るともちろん上目遣いになるため、モデルさんを可愛く切り取ることが目的であれば圧倒的に上から撮るのが良いでしょう。
それだけでなく、少しだけ距離感を調整することで日常感を出すことができ、誰と一緒にどこに行ったか想像できるような一枚になります。

■撮影機材:ソニー α7R IV + FE 85mm F1.8
■撮影環境:1/1250秒 f/1.8 ISO200 85mm

一方モデルさんの目線と同じアングルにすると、その視線の強さと美しさ、そして臨場感のある一枚になります。日常感よりも被写体の魅力に着目したもので、一歩踏み込んだ写真を撮りたければこのようにアイレベルで撮影してみてください。
雰囲気やシーンに分けて撮る角度を変えながら撮影すると、色々な表情の写真を切り取ることができます。

被写体との距離感

みなさんは、ポートレート撮影をする際、モデルさんへの声掛けはどのようにしていますか?
僕は上手な声掛けが出来る方ではないので、頑張って笑わせたり和ませたりなどはあまりしません。

■撮影機材:ソニー α7R IV + FE 85mm F1.8
■撮影環境:1/400秒 f/2.8 ISO200 85mm

とはいえ、切り取りたいのはその自然な表情。
日常の柔らかな雰囲気を出すために、ポーズをとってもらうというよりもモデルさんとの距離感を保ちつつ自然な流れの中でシャッターを切るようにしています。
理想は動画のキャプチャーの一番いい瞬間。

本当にその人が楽しい瞬間は会話の中で生まれます。すぐそれを生み出すのは難しいことですが、自分が笑わせるというより無理なく笑ってもらえるような声掛けを意識する、あとはいつもその時の自然な流れに任せるようにしています。

実はこの場所、先ほどの撮影場所と全く同じなのですが、一歩引きで撮影しただけで雰囲気がかなり違うのが一目でわかりますね。写真から距離感が伝わるように、あえて自分に対して正面に立ってもらい先程の作品らしさから日常感に少しテーマを変えて撮影してみました。自分に微笑んでくれるかのような一枚。少し頭の上にも抜け感を作って切り取ることで、被写体の動線が見えてくるような構図です。

撮影に集中すると、どんどん被写体に寄ってしまいがちかもしれませんが、一定の距離感を保ち周りに均等に空間を残して撮ることで、そこに一対一の空間が生まれて日常を感じられる良い距離感で撮影することができます。

おわりに

いかがだったでしょうか?
今回説明した内容は、浴衣の撮影だけではなくシーン問わず実践できることばかりになっています。
ポートレート撮影の魅力は、ただ被写体を魅力的に撮影するだけでなく、その時の空気感も伝えられると写真を見返した時に楽しさも感じられる様になることだと思います。
あと少し暑い日が続きますが、絶好のロケ撮影日和とも言えます。
ぜひ撮影の参考にしてみてください。

 

■モデル:藤田みりあ

■写真家:佐藤俊斗

 

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