ANCA関連血管炎を考える
ANCA関連血管炎とは

ANCA関連血管炎とは

ANCA(アンカ)関連血管炎とは、血管に炎症が起こることにより、主に全身の細い動脈・静脈や、その先につながる毛細血管が傷つけられ、さまざまな障がいを引き起こす病気です。

免疫とANCA

免疫とは、体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物を排除する防御機能で、その役割を担うものとして「好中球」や「抗体」などがあります。

好中球とは

免疫の役割を果たす白血球の一種。白血球の中で一番多く、侵入した異物をいち早く攻撃する役割がある。

抗体とは

免疫の役割を果たすタンパク質で、「免疫グロブリン」とも呼ばれる。抗体はそれぞれ標的とする異物が決まっており、特定の異物の目印(抗原)にのみに結合し、体から排除するように働く。

免疫のしくみ 免疫のしくみ

抗体は、通常であれば異物に対してだけ反応しますが、免疫が正常に機能しなくなると、異物ではない自分の体の特定の細胞や組織に反応するようになります。このような抗体を「自己抗体」とよびます。ANCAも「自己抗体」の一つで、好中球を標的とする異常な抗体です。ANCA関連血管炎では、血液中にANCAが出現します。
ANCAが結合した好中球は正常に機能しなくなり、周囲の血管を攻撃するようになってしまうため、血管が破れたり、つまったりする血管炎が生じると考えられています。

免疫とは

体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物を排除する、人間の体に備わっている防御機能のこと。好中球や抗体は、免疫において重要な役割を果たす。

ANCA関連血管炎の症状 ~進行すると透析が必要になる場合も

血管炎が起こると、全身にさまざまな症状が現れます。微熱や倦怠感が続いたり、腎臓や肺、皮膚、神経、鼻、耳、目などにも異常が見られるようになったりします。重症な場合は、腎臓の機能が低下して透析治療※が必要になるなど、内臓機能に障がいが生じる場合もあります。

血管炎とは

血管に炎症が起こっている状態。血管が破れたり、つまったりする。

※ 低下した腎臓の機能を補うため、人工的に血液中の余分な水分や老廃物を取り除き、血液をきれいにする治療法です。週2~3回程度通院し、1回あたり4〜5時間程度の治療を行う「血液透析」と、患者さん自身でお腹の中に入れた透析液を1日4回程度交換して行う「腹膜透析」の二つの方法があります。

ANCA関連血管炎の症状 ANCA関連血管炎の症状

患者数が少ない病気

国内で確認されているANCA関連血管炎の患者さんは約20,000人(6,000~7,000人に1人)といわれています。同じように免疫の異常によって起こるとされ、一般的によく知られている関節リウマチの患者さんは国内に約80万人いるとされています。ANCA関連血管炎はとても患者数が少ない病気であることがわかります。

関節リウマチとは

免疫の異常により、関節に炎症が起こり、痛みや腫れが生じる病気。進行すると、関節が変形したり、うまく動かなくなったりする。

〔参考〕
難病情報センターホームページ(2023年4月現在)「令和3年度末現在特定医療費(指定難病)受給者証所持者数」から引用
Nakajima A, Sakai R, Inoue E, Harigai M, et al. Int J Rheum Dis. 2020;23:1676-1684.

ANCA関連血管炎には、主に顕微鏡的多発血管炎(けんびきょうてきたはつけっかんえん:MPA)、多発血管炎性肉芽腫症(たはつけっかんえんせいにくげしゅしょう:GPA)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(こうさんきゅうせいたはつけっかんえんせいにくげしゅしょう:EGPA)の3種類があります。日本で最も多いのはMPAで、全体の半分以上を占めています。

顕微鏡的多発血管炎(けんびきょうてきたはつけっかんえん:MPA)とは

3種類あるANCA関連血管炎のうちの一つ。日本では3種類の中では最も患者数が多く、腎臓、肺、神経の症状が現れやすいとされる。

多発血管炎性肉芽腫症(たはつけっかんえんせいにくげしゅしょう:GPA)とは

3種類あるANCA関連血管炎のうちの一つ。①目・鼻・耳・のど ②肺 ③腎臓 に症状が現れることが多く、鞍鼻(あんび)という特徴的な症状が現れることもある。

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(こうさんきゅうせいたはつけっかんえんせいにくげしゅしょう:EGPA)とは

3種類あるANCA関連血管炎のうちの一つ。気管支喘息や難治性の鼻炎・副鼻腔炎を有する患者さんで、好酸球が増加したあとに続いて起こることが多く、神経や皮膚、消化器、心臓、肺に症状が現れやすいとされる。

顕微鏡的多発血管炎(MPA) 多発血管炎性肉芽腫症(GPA) 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)
患者数(国内) 医療受給者証保持者数は
10,626人
(2021年度)
医療受給者証保持者数は
3,223人
(2021年度)
医療受給者証保持者数は
5,839人
(2021年度)
発症しやすい年齢 発症時の平均年齢は
71歳
40~60歳 40~70歳
男女比 女性にやや多いとされる 明らかな差はない 女性にやや多い
(男性:女性=1:1.7)

難病情報センターホームページ(2023年4月現在)「令和3年度末現在特定医療費(指定難病)受給者証所持者数」から引用

ANCAの測定が診断の鍵

ANCA関連血管炎は、発症する患者さんの数がとても少なく、特徴的な症状もあまり無いため、一般的な検査だけでは、早い段階で診断することがむずかしい病気です。ある調査では、約半数の患者さんは、診断が確定するまでに3カ所以上の病院を受診していたという結果が出ています。

患者アンケート調査(n=57) 診断が確定するまでに受診した医療機関数 患者アンケート調査(n=57) 診断が確定するまでに受診した医療機関数

〔参考〕
厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)
難治性血管炎に関する調査研究班 有村義宏、難治性腎疾患に関する調査研究班 丸山彰一、
びまん性肺疾患に関する調査研究班 本間栄
「ANCA関連血管炎診療ガイドライン2017」、35、診断と治療社、2017年

この病気は、血液中のANCAを測定することが早期発見に重要です。原因がよくわからない血尿蛋白尿などの腎臓の症状があったり、上記でご紹介したANCA関連血管炎の主な症状があったりする場合には、できるだけ早い段階で、専門医の診断を受けるようにしましょう。

血尿とは

腎臓の血管などが傷つき、尿に血が混じる状態。初期の段階では尿の見た目は変わらないため、尿検査によって見つかる。出血量が多い場合は、尿が赤っぽくなる。

蛋白尿(たんぱくにょう)とは

腎臓の血管が傷つき、血液中のタンパク質が尿中に漏れ出す状態。尿の見た目は変わらないため、尿検査によって見つかる。

適切な治療と医療費補助

ANCA関連血管炎は、患者さんが少ないために、原因や治療法の研究がむずかしい病気です。このため、わが国では指定難病とされており、ある一定以上の症状がある患者さんは、医療費助成制度の対象となり、国から医療費の補助を受けることができます。
ANCA関連血管炎は、現状では完全に病気を治すことがむずかしく、一般的には長期間の継続的な治療が必要になります。

指定難病とは

「難病の患者に対する医療等に関する法律」に定められる基準(原因不明で治療方法が確立していない、患者数が少ない、長期の療養を必要とする など)に基づいて国が指定した病気。指定難病は、医療費助成制度の対象とされる。

医療費助成制度とは

指定難病に含まれる疾患と診断され、病状が一定程度以上で、医療費の自己負担が定められた上限額を超えている場合、超過分を公的に支給する制度。

しかし、出来るだけ早い時期に診断を受け、専門医のもとで病気の初期にしっかりと治療すれば、多くの患者さんは血管炎の症状がおさまります(寛解:かんかい)。治療開始が遅れたり、治療の反応が良くなかったりすると、寛解までに時間がかかり、臓器の機能障がいが残ってしまいます。また、一度寛解になっても、再び血管炎の症状が現れること(再燃:さいねん)がありますので、定期的に専門医の診察を受け、きちんとした服薬と通院を続けましょう。