誰も見たことのない、香取慎吾の“顔”を見よ

  • 2020年03月03日

誰も見たことのない香取慎吾を撮る

香取慎吾のアップが多い。しかも画面いっぱいに広がるほどの。
白石和彌監督作品「凪待ち」をDVDで見直してみて、改めて強く感じたことである。
「誰も見たことのない香取慎吾を撮る」。そんな意気込みでつくられたという本作がまず香取に与えたのは、彼がこれまでほとんど見せることのなかった〝陰〟の顔を持つキャラクター。ギャンブルにハマりそこから抜け出せず、その過程で周囲の人間に迷惑をかけながら、差し伸べてくれる手からも自分からも逃げる男、郁男、というのがそれだ。
郁男が根は善良で人の心がわかる人物だということは、冒頭で語られる川崎の印刷工場の同僚との交流や、その後に移り住む恋人の実家・石巻での生活の端々でさりげなく描かれはする。だが、もはやギャンブル依存症である郁男の表情のみならず全身から発せられるのは、自身を蔑む強烈な自己否定感。さらに、郁男のせいともいいきれないさまざまな困難を非情なまでに与え続けていくことによって、この物語はますます郁男の顔を、陰鬱な色合いで彩っていくこととなる。確かにこれまで一度として拝んだことがない顔。カメラがどんどん寄らずにはいられないほどの。しかしそれは〝誰も見たことのない香取慎吾の顔だから〟では、たぶんない。彼があの愛すべき慎吾ちゃんであることを完全に忘れさせる、郁男としてのときどきの真情がどの顔にも痛切に刻まれていたからだろう。

オーディオコメンタリーも充実。〝やさぐれた男が持つある種の色気〟

今回リリースされるDVDには、白石監督と香取慎吾、共演者のリリー・フランキーの三者によるオーディオコメンタリーが収録されているのだが、彼らが各重要シーンにおける香取の〝顔〟について感嘆するくだりは特に興味深い。さらにはリリー・フランキーが繰り返す、顔ばかりかその大きな体その他も含めて香取が放つ色気、つまり〝やさぐれた男が持つある種の色気〟に関するコメントは出色。本作における香取の仕事のみならず役者としての今後の可能性をも示すものとして、ぜひ耳を傾けていただきたい。
他に映像特典としていくつかの舞台挨拶の映像も収録。そこで、たわいのないQ&A等で見せるいつもの〝陽〟な姿も堪能できるが、香取の発言として聞き逃してほしくないのは、やはりコメンタリーの中の最後の言葉。そこには、国民的スターであり俳優であり、また一人の人間としての香取慎吾が、〝喪失と再生〟を描いたこの作品にどう向き合ったのかという真摯な言葉が、しっかり記録されているからだ。

文=塚田泉/制作:キネマ旬報社(キネマ旬報3月上旬号より転載)

凪待ち

●3月3日(火)発売
豪華版Blu-ray 6,800円+税、豪華版DVD 5,800円+税
通常版Blu-ray 4,800円+税、通常版DVD 3,900円+税
●2018年・日本・カラー・字幕 バリアフリー用日本語・本篇124分
●【Blu-ray】16:9[1080p High-Def]スコープサイズ・2層・Dolby TrueHD 5.1chサラウンド(オリジナル)/Dolby TrueHD 2.0chステレオ(オーディオ・コメンタリー)
【DVD】16:9LBスコープサイズ・片面2層(一部片面1層)・ドルビーデジタル5.1chサラウンド(オリジナル)/ドルビーデジタル2.0chステレオ(オーディオ・コメンタリー)
●監督/白石和彌 脚本/加藤正人
●出演/香取慎吾、恒松祐里、西田尚美、吉澤健、音尾琢真、リリー・フランキー
●特典映像/[特典ディスク]メイキング映像、完成披露試写会、初日舞台挨拶、全国中継舞台挨拶(※豪華版のみ)[本篇ディスク]劇場版予告篇
音声特典/オーディオ・コメンタリー(香取慎吾×リリー・フランキー・白石和彌監督)
封入特典/特製ブックレット(24P)、クリアケース仕様(※豪華版のみ)
●発売/キノフィルムズ/木下グループ
販売協力/ハピネット・メディアマーケティング
©2018「凪待ち」フィルムパートナーズ

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