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絵師直筆?大量生産? 「浮世絵きほんのき!」vol.1

一点もの?大量生産? 「浮世絵きほんのき!」vol.1

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時代の文化・風俗を映し出す鏡だった浮世絵。江戸初期から明治時代にかけて広く普及し、19世紀後半にはヨーロッパ諸国でも話題を集めて印象派の画家たちに多大な影響を与えます。そんな浮世絵について、”浮世絵コンシェルジュ”の畑江麻里さんに、全5回にわたって解説いただきます。

そもそも浮世絵とは

葛飾北斎《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》天保2年 (1831)項 大判錦絵 メトロポリタン美術館蔵

今から約400年前の江戸時代初期(17世紀後半)に誕生し、明治時代(20世紀初頭)にかけて制作された浮世絵。

浮世絵という名称は、「浮世」すなわち人々が生きる世の中を題材とした絵画だから付いたもので、広く一般大衆の手に取られ、当時の人気者やアイドル、最先端のファッションなどが描かれました。ですから美術品というよりも、時代の文化・風俗を映し出し、さらには流行を創り出すメディアという面が大きかったと言えます。

さらに、浮世絵の人気は日本国内にとどまらず、19世紀後半にはフランスを中心とするヨーロッパ諸国で話題を集め、ゴッホをはじめ印象派の画家たちにも多大な影響を与え、日本の文化と芸術を代表する存在にもなっていきました。

違いが分かりますか?

菱川師宣(ひしかわもろのぶ)の《見返り美人図》と、東洲斎写楽(とうしゅうさいしゃらく)の《三代目大谷鬼次の江戸兵衛》

菱川師宣《見返り美人図》

菱川師宣《見返り美人図》 元禄(1688~1704)前期 絹本著色 一幅 63.0×31.2cm 東京国立博物館蔵 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)

写楽

東洲斎写楽《三代目大谷鬼次の江戸兵衛》 寛政6年(1794)大判錦絵 東京国立博物館蔵 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)

代表的な浮世絵の一つである《見返り美人図》には、江戸初期の貞享年間(1684〜88)の当時流行した「玉結び」という髪型(下げた髪の毛の先端を曲げて輪にする)をした女性が描かれています。

菱川師宣《見返り美人図》 元禄(1688~1704)前期 絹本著色 一幅 63.0×31.2cm 東京国立博物館蔵 出典:国立文化財機構所蔵品統合検索システムを元に加工して作成

また帯に注目すると、当時の人気女形・初代 上村吉弥(しょだい うえむら きちや)※が考案した「吉弥結び」という帯結び(一方を輪にして他方を垂らす)をしており、当時の流行が伺えます。

菱川師宣《見返り美人図》 元禄(1688~1704)前期 絹本著色 一幅 63.0×31.2cm 東京国立博物館蔵 出典:国立文化財機構所蔵品統合検索システムを元に加工して作成

※現代の吉弥さんは「かみむら」ですが、初代上村吉弥は「うえむらきちや」と読みます。

ここであらためて、浮世絵の代表的作品として先ほどご紹介したもう一つの作品、東洲斎写楽(とうしゅうさいしゃらく)の《三代目大谷鬼次の江戸兵衛》を見てみます。

写楽

東洲斎写楽《三代目大谷鬼次の江戸兵衛》 寛政6年(1794)大判錦絵 東京国立博物館蔵 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)

描かれているのは、当時実際に上演された人気の歌舞伎演目から、ならず者の悪党の江戸兵衛(えどべえ)が今まさに大金を奪おうとする場面。

歌舞伎役者にはそれぞれ紋がありますが、着物の紋に注目すると「丸に十字」(歌舞伎では「丸十」といいます)の「くつわ紋」が入っており、「大谷〇〇」という役者の紋であることがわかります。さらに「丸十」に「鬼」の字が入っているで、「大谷鬼次(おおたにおにじ)」と特定できます。

さて、こうしてご紹介した2つの作品、両方とも同じ浮世絵ではありますが、実は大きく違う種類のものであること、お分かりになりますでしょうか。

浮世絵には、大きく分けて、

・絵師直筆の絵画である「肉筆(画)」
・版木を彫った木版画による「版画」

の2つがあります。

左:菱川師宣《見返美人図》絹本着色一幅 江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵 右:東洲斎写楽《三代目大谷鬼次の江戸兵衛》 大判錦絵 寛政6年(1794) メトロポリタン美術館蔵

左:菱川師宣《見返美人図》絹本着色一幅 江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵
右:東洲斎写楽《三代目大谷鬼次の江戸兵衛》 大判錦絵 寛政6年(1794) メトロポリタン美術館蔵

師宣の作品のように、絵師直筆の肉筆(画)の方は一点制作の特注品になるので非常に高価な、裕福な人たちを買い手にした作品であり、一般大衆はなかなか観ることができませんでした。

それに対して写楽の作品のような木版画の方は、同じ絵をたくさん摺れる=安価に大量生産できたので、一般大衆も浮世絵を購入し、手に取ることができるようになったという意味で画期的だったのです。

印刷機やマスメディアなどのない時代に登場した、同じ絵(=情報)を同時にたくさんの人に届けられる木版画としての浮世絵は、それ以前の絵画とは一線を画し、美術品と人々との関係を刷新した、大きな発明でした。

今回ご紹介した菱川師宣と東洲斎写楽の作品は東京国立博物館に所蔵されており、公開されている時期に限りがあります。詳しくは下記ホームページをご確認下さい。

東京国立博物館 - トーハク
https://www.tnm.jp/

きもので楽しむマタニティ

実は現在、妊娠7か月。ゆったり浴衣を着てみました。ヘアセットは編み込み、帯は風船太鼓です。

畑江麻里さん

「初心者でも楽しめる浮世絵講座」にご参加下さった学生さんが、写真を撮ってくれました。

畑江麻里さん浴衣01
畑江麻里さん浴衣02

身体の向きやポーズは違いますが、今回ご紹介した菱川師宣の見返美人風に後ろを振り返って撮影。

この浴衣を着て、美人画研究会を一緒に主催している母の展示会へ行き、似顔絵イラストを描いてもらいました。

畑江麻里さん

次回予告

さて「浮世絵きほんのき!」、次回vol.2では…

最初黒色一色だった浮世絵版画がどのようにフルカラーになっていくのか

についてご説明したいと思います!どうぞお楽しみに!

2021.08.28

よみもの

特別展『聖徳太子と法隆寺』 東京国立博物館 「きものでミュージアム」vol.2

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