水難救助で活躍する海上保安庁のヘリコプター。22歳の女性訓練生がパイロットとしてのデビュー目前、緊張感漂う訓練を続けています。

 宮城県岩沼市にある海上保安学校の宮城分校。午前7時半、教室にはオレンジ色の服を着た訓練生たちの姿。ヘリコプターのパイロットを目指す菊地仁美さん(22)です。
 菊地仁美さん「この日の航空情報を確認する時間です。緊張もあり、バタバタしています」

 「総員気を付け。課業整列」
 宮城分校は、ヘリコプターや飛行機などの航空機を操縦するパイロットや、その整備士を養成する教育機関です。京都府の海上保安学校で海上保安官としての基礎的な知識を身に付けた34人の訓練生が、航空機を扱うための実践的な訓練を受けています。

ヘリコプターのパイロット目指す

 午前10時。訓練フライトに向けた、ブリーフィングです。
 菊地仁美さん「現況を確認したところ地上付近が高気圧となっておりますが、500hPaの高層では上空にトラフ(気圧の谷)が入り込んできているという状態です」

 厳しい表情で菊地さんを見つめるのは、辻徳雄教官。震災時にも活躍したベテランパイロットです。
 辻徳雄教官「天候の状況とか機体の状況とか、訓練生自身が自分で確認して教官に説明している。これができないと安全に飛ばせられませんので」

 全国の海上保安官1万4681人のうち、女性はわずか8%の1251人。その中でもパイロットを志望する人は、ごくわずかです。
 菊地仁美さん「学生の頃、夏休みに同級生が海で流された事故があり、目の前にその子がいても何もできなかったなと。生きている可能性のあるうちに動ける人間になりたいなと思って」

 午後2時。ヘリコプターの機体が倉庫から運び出されました。実際の機体を使った訓練フライトが始まります。離陸前、集中した様子の菊地さん。機体全体やプロペラに問題は無いか、念入りに確認しています。
 菊地仁美さん「旋回とか蛇行飛行とかの科目と、空港周辺で離着陸の色々な科目の訓練を行います。それでは失礼します」

 機体に乗り込み、いよいよ離陸。
 菊地仁美さん「40ノット上昇中60ノット上昇中」
 この日は、仙台航空基地を出発し福島県を目指す往復1時間半のコースです。雲や周囲の状態を見極め運行管理ができているか、辻教官が厳しく審査していきます。

 離陸から10分。宮城県亘理町の鳥の海上空。パラグライダーが多く、巻き込み事故への注意が必要になります。
 辻徳雄教官「無しと決めつけてしまったら見えなくなるからね。小さいものだからずっと見続ける。それから車が止まっていないか注意しながら」

教官が厳しく審査

 離陸から30分、福島県上空。風の状態を見極め旋回します。
 続いては、故障などでエンジンが停止した場合に滑空して着陸することを想定した課題です。風を使って浮力を維持し、目標地点に機体を着陸させることができました。
 辻徳雄教官「OK、今のばっちり」

 午後4時半。訓練終了。少し疲れも見えますが、緊張がほぐれた様子の菊地さん。
 菊地仁美さん「若干のんびり手順をやってしまっているので、まだ緊張感が足りないなと思います。より正確な操縦ができるようにしたいです」
 辻徳雄教官「段々と、前の訓練よりは上手にできるようになっていますね。このままいけば近いデビューも間違いなしです」

訓練を終えて

 訓練終了後は寮でつかの間の休憩。絵を描いたり漫画を読んだりして過ごしています。大好きなのが、海上保安官をテーマにした漫画。憧れの女性パイロットも登場します。
 菊地仁美さん「五十嵐機長、非常にクールで操縦の技術がピカイチで同じ基地の人の信頼も厚い。女性も惚れるかっこいい機長です」

 1人でも多くの命が救えるように。菊地さんはパイロットとして飛び立つその日まで、訓練を続けていきます。
 菊地仁美さん「救助者はもちろん、一緒に救助に行く隊員の安全も考えて、最適な判断が下せるパイロットになりたいと思います」