全国高校総体(インターハイ)の陸上女子400メートルで初優勝をつかんでから1カ月後のことだ。
「やりたいことが二つあるなら、回り道してでも両方やればいいじゃん」。トラックを離れる決意を固めていた青木りん(18)は心が揺らぐのを感じた。
相洋高で会ったのは、福島大と東邦銀行の陸上部監督を兼任する川本和久(59)。多くの教え子を五輪に導いたことでも知られる名伯楽の言葉は魅力的だった。
帰宅後、本棚に唯一あった陸上の専門書を手に取り、目を見開いた。知らず読みあさっていたバイブルの著者こそ、川本だった。「あなたの腹筋や体幹は並の努力でできたものじゃない。努力のたまものということを自覚してほしい」。じかに掛けられた、一言一言がうれしかった。
2016年10月、岩手国体を制した表情はもう晴れ晴れとしていた。「やっぱり、続けることにしました」
4月からの新生活はせわしない。朝から昼まで東邦銀行で働き、午後はトレーニング、夜は福島大の学生として勉強に励む。トップアスリートとしては極めてまれな挑戦となるが、新天地にはかつての第一人者が待っている。