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フードバンクひらつか設立1年 生活困難世帯に食料支援

社会 | 神奈川新聞 | 2018年6月20日(水) 10:28

食料品を必要とする世帯に届ける団体の活動(フードバンクひらつか提供)
食料品を必要とする世帯に届ける団体の活動(フードバンクひらつか提供)

 日々の生活に困っている世帯への食料支援に取り組む平塚市の市民団体「フードバンクひらつか」が、設立から間もなく1年になる。活動を通じてさまざまな貧困の形に直面し、代表の大関めぐみさん(48)は「母子家庭を想定していたが、年金暮らしの方も切迫した状況にある」と話す。垣間見るのは社会の縮図だ。

絶句


 「普段買ってあげられていないので…」。そうこぼす母親の言葉が胸に響く。菓子を受け取り、喜々として部屋の奥に消えていった男の子が着ていた服は一目で汚れているのが分かった。

 知人を介して支援を依頼された、その母子世帯は食べ物だけでなく、生活雑貨や衣類などあらゆる物を必要としていた。

 フードバンクひらつかは昨年7月に設立。今年4月までの支援先は、市内のひとり親世帯や、65歳以上の高齢者世帯、児童福祉施設など延べ143カ所に上る。食料品以外にも、手に入れられたときは、冷蔵庫や湯沸かし器などの物資を届けたケースもある。

 需要の多さ、その多様さだけでなく、大関さんは貧困の事情が千差万別なこともまた実感している。

 支援のために訪ねた市内の集合住宅で、女性の言葉に大きなショックを受けた。「トイレットペーパーを溶かして食べ、飢えをしのいでいました」

 30代の女性は、夫に家庭内暴力を受け、市外から着の身着のままで逃げ込んでいた。市に生活保護を申請したが、受給が認められるまで約1カ月を要す。その間に利用できる社会福祉協議会の貸付制度も積極的に伝えられていなかった、とみられる。

 「こんなに物が豊かな時代で、そんな状況があるなんて…」と大関さんは絶句する。

最多


 障害や病気が貧困を招いている実態もある。

 精神疾患がある40代のシングルマザーは、5歳の男児と70代の母親と3人で暮らす。母親の年金と、自身の障害年金を合わせた10万円では生活は苦しい。持ち家などの資産の関係で、生活保護は認められていなかった。

 軽度の認知症を患っている母親は、家庭ごみの集積場から家に足りなくなった調味料や洋服などを拾ってきてしまう、という。

 「女性本人の障害で市の職員にうまく説明できない状況もあるのか、(生活保護の)申請が滞り、現在の年金だけでは生活できない現状があった。『餓死せずに済んだ』と喜んでもらいましたが…」。セーフティーネットから漏れた人たちの厳しい現状に、心を痛める。

 支援の必要性は増している。

 厚生労働省の今年3月の発表によると、2016年度の1カ月平均の生活保護受給世帯は、前年度比0・4%増の163万7045世帯で過去最多を更新。平塚市でも、2017年度末時点で市内の生活保護受給世帯は2590世帯で、高齢者世帯の増加に伴い過去最多となっている。

 支援の現場にいる大関さんも母子世帯だけでなく、ぎりぎりの生活を余儀なくされている高齢者世帯が多いと実感する。「次々と高齢者を支援してほしいとの声が届く」と話す。

思い


 「自分が育てられなかった子どもの分まで、他のお子さんのために何かをしたい」。介護職に携わっていた3年前、大関さんは3人目の子どもを宿したが流産した。その経験が活動に思いを向かわせた。

 川崎市内にあるフードバンクを3カ月間手伝っていたが、自分が住んでいる平塚からの依頼が多いと聞いた。ならば地元の声に応えようと一念発起、たった1人でフードバンクひらつかを立ち上げた。

 当初は手探りだったものの、主婦ら4人が趣旨に賛同し、協力すると手を挙げてくれた。現在は有志の支援で市内のアパート1室を借りている。

 室内の区分けされて整理された棚には乾麺、缶詰、レトルト食品などが所狭しと並ぶ。この4月からは市民らに食料品を募る集まりを定期的に開くことができるようになった。

 5月9日には平塚市役所で開催、285点が寄せられた。食べられるのに捨てられてしまう「食品ロス」への問題意識が高まるにつれ、活動への関心も集まってきている。

 食材を寄付した市民からは「高齢になるとお中元などをもらっても食べきれないことが多く、後ろ髪を引かれる思いで捨てていたこともある。こういう機会はありがたい」と好評の声が挙がる。

 落合克宏平塚市長も5月30日の定例会見でフードバンクひらつかの活動について問われ、「生活困窮者に安心感を与え、自立への助けにつながる貴重な取り組み」と評価。食品ロスの解消と生活支援などの観点から、食品を集めやすい環境づくりの面で応援していくとした。

継続


 市民らから多くの善意が寄せられる一方で、大関さんは、それ以上に生活困窮者の求めが大きいことを感じている。「調理のいらない缶詰が最も需要が高い。炊く必要のないアルファ米もすぐになくなる」

 団体の活動自体も綱渡りの状態が続く。食料を届ける車の燃料代はいまだに持ち出しだ。安定した収入源はない。それでも活動を通じ、時代が自分たちを必要としていると感じる。

 厚労省の16年度調査によると、全国の母子・父子世帯数は計約142万。母子世帯の母親の平均年収は243万円で、同居親族の収入を含めても2人親世帯の半額を下回り、苦しい家計状況が示されている。

 「寄付だけに頼らず、継続的な支援ができるよう収入を得る力も身に付けたい」と大関さんは言う。「例えば遺品整理などを手伝えたら、食べ物や必要な家電なども協力してもらえるかもしれない」。今後、取り組みの幅を広げることも考えている。
      ◇
 フードバンクひらつかは、市民や企業などから「不要」とされた食料品などを募っている。次回は7月4日に市役所本館1階多目的ホールで予定している。条件は最低でも賞味期限が2カ月以上残ったもの。食品提供や寄付などの問い合わせは、大関さん電話080(6564)2263。


菓子があると子どもたちは喜んでくれるという(フードバンクひらつか提供)
菓子があると子どもたちは喜んでくれるという(フードバンクひらつか提供)
 
 

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